森から幼女が!? 天の恵みか!
ふぅむ、1人での焚き火の見張りは寂しいものですね。まぁ、姫様と逃げていた時は休まる暇もなかったので、あの時は『緊張』が精神を傾かせない麻薬みたいな役割をしていたのでしょう。
振り返ってみれば色々とありましたが、姫様との逃避行は楽しかった。いつも半ベソをかきながら私の名を呼んで抱きついてくる。うっほ、たまんねぇなの毎日。私の妄想癖が加速するぅ! あれは姫様なりの調教だったのか? いやいや……まてまて……。
そう思いながらにやけて鼻血を拭うのですが。こんな姿は誰にも見せられな――。
「お前、にゃにを鼻血出しながら悶絶してるにゃ? 変態も極まると大変だにゃ」
「シルル!? 貴様、私の秘密を!!」
「いにゃ、前から知ってますにゃ」
「そうですか……まぁ、2人には内緒にということで」
「うにゃえぇ……」
なんですかその汚物を見る目は? そこまで引かなくてもいいでしょうに。まったくこの猫は……。
「ところで、まだ交代ではないですよ?」
「いにゃ、眠れないにゃ」
「珍しいですね、いつもは人を蹴るほどに寝相の悪さを発揮して爆睡するのに」
「ウチはそんなに粗暴が悪いかにゃ!?」
「まぁ、それなりに」
「うぬぬぬ……ハッキリというヤツだにゃ。そうにゃ、だから村を出たにゃ!」
「おっと、成人の過去話は受け付けませんので悪しからず」
「お前、故郷でも性格が悪いと言われたことはないのかにゃ? それとも自覚がないのかにゃ?」
「いやぁ、私より性格の悪いのが多くて、目立つほどではなかったですね。ははは、よせやい」
「褒めてるつもりはにゃいのだけど?」
「しかし、あなたは……」
私が何かを尋ねようとした時、シルルの目が光る。シルルは私の口を抑え、人差し指を立て『しずかににゃ』と小さな声で語りかける。
『なんですか?』
『誰かいるにゃ』
気配を感じませんが……動物的な本能がシルルの警戒網が何かを捕らえたということか。
「そこっ、だれにゃ!!」
シルルは急に跳び上がり、林の中に身を投じた。ガサガサと揺れる小枝に私は目をこらし、暗闇の先を見詰める。
「にげるにゃ!」
数分後、シルルは暗闇の中から現れると、脇には観念した様子の闖入者。よくみるとグットな幼女ではありませんか!! ナイスだ猫。
「こいつが茂みに隠れてたにゃ」
「おぉ、いい幼女」
「お前の眼球には幼女しか映らにゃいのかにゃ? いい加減なえるにゃ」
「それは褒めたと受け取っておきましょう。で、その幼女は?」
焚き火ではあまり顔は拝めないが、私のメイサアイズには……妙な命名はやめていただきたい。うむ、いい幼女。
「いい幼女ですね。褒めてつかわす」
「なんにゃそれは……それより、どうするにゃ? 煮て、焼いて喰うかにゃ?」
「やめたげて、幼女が震えてる。もう、怖がってるではありませんか。おいでおいでぇ」
「お前に質問にゃ、ウチに肉体的に喰われるか、アイツに精神的に喰われるかどっちがいいかにゃ?」
シルルの脅しにも似た言葉に、表情の強張る幼女は私を指差した。いい判断だ、さぁ! 私の胸の中においで――。と手を開いて準備すると、『ぐぅぅぅぅ』という音が聴こえてくる。
「シルル、晩御飯は食べたでしょうに」
「ウチじゃないにゃ!!」
「じゃぁ、百歩譲って、その子のお腹?」
「千歩譲っても変わらんにゃ!!」
「仕方ないですね、『リ・レバリオ』っと」
私は物が収納された異次元から魚の串焼きを取り出す。旅路の食料を保存しておいて正解だったか。
物欲しげに魚の串焼きを眺める幼女。食べ物に釣られ、私のもとによってくる。だが、少しふらついているのは気がかりだ。
「おいしい?」
幼女は、私の言葉よりも目の前の魚にご熱心だ。あの飛びつきようは相当にお腹を空かせていたのだろう。
それにしてもなぜ幼女が?
「焦らなくてもまだあるからね」
「ほら、水にゃ」
無我夢中で魚を食べ、水を飲み干す。相当ですね……身なりは農村の子供に見えますが……と、いう事はこの付近に村があるということか。
「あなたはどこから来たのかしら?」
「お前、幼女にはすこぶる優しいのにゃ」
「文句あっか?」
「あ、あの……ごちそうさまです……」
「あらぁ、まだ小さいのに行儀がいいのね」
「その言葉遣いに悪寒がするにゃ」
「さっきからなんだね? 悪寒がするならそのまま氷付けにしてやろうか?」
いちいちつっかかる猫ですねぇ。まぁ、些細なこととして流しますが、それよりもこの子はどこから?
「えっと……これ……」
「何かの紙切れですか? ふむ、どれどれ」
幼女が差し出した紙切れには『助けて』と一言かかれていた。これだけでは情報が乏しい。なにか他の話でも聞き出せればいいのですが。
「ふむ、『助けて』と書かれた紙が一枚」
「ちょっと貸すにゃ……スンスン……微かに血の匂いがするにゃ」
「なるほど、この子は事件に巻き込まれた最中に逃げ出した可能性がある……しかし、このメッセージと子供が1人だけだと答えが導き出せませんね」
「お前はどこから来たにゃ?」
「コラ、怖がってるじゃないの! もう少し穏便に尋ねることは出来ないの?」
「面倒だにゃ」
このバカ猫。お前が脅したせいで幼女が目線を逸らしてるじゃないか。こういう時は、やさしく頭を撫でてだな。
「ほらほら、怖くない怖くない。私が怖い人に見える?」
「みえない……」
「よかった。何があったのか話せる? 無理にとは言わないけど」
「あ、あのね……助けてほしいの」
「うん、それは紙にそう書いてあるからわかるわ。でもね、どうして助けてほしいのか分からないの」
「……えっと、いっぱいの兵隊さんがきて……家が燃えて……みんながいじめられてるの!」
なるほど、みんなとはそこそこの村があるという事か。そして気になるのは兵隊がいじめるとは疚しい行為が行われている……子供の目線からみると虐められているという表現は暴力的に何かが行われているということ……ふむ。
「シルル、姫様達を起こしてくれない?」
「いいのかにゃ? 厄介ごとにゃよ?」
「それは今の状況から判断して理解はしている。兵士が暴力的な行動に出ているとしたら事態は逼迫している。家も燃やされていると言うからな」
「わかったにゃ」
数分後、シルルは寝ている2人を起こしてきたが、カルメラちゃんはしっかりした様子で旅に慣れているようだが……姫様はシルルにおぶさり、背中でまだ寝ている……まぁ、シルルには担いでもらうか。
「師匠、どうかしましたか? それにそこの子供、この暗い森を1人で?」
「カルメラちゃんには迷惑をかけますね。えぇ、この森に1人でいた様子でして、シルルが見つけてここに」
「なにか事件が?」
「鋭いですね、この子が持っていた紙の切れ端には『助けて』というメッセージ、話を聞けば、兵隊が襲ってきたということですが」
「兵隊が?」
「民家も焼かれている様子で、単なる物捕りというわけではないでしょうね」
「兵隊が民家を燃やす!? かなりキナ臭い話ですね……川があるので村が近くにあるとは思いますが、まだ辺りは暗く森を歩くのは危険かと」
「目の利く猫がいますよ?」
「ウチのことかにゃ?」
「お前以外に誰がいるか尋ねたい」
「面倒だにゃ、ご主人も背負ってるしにゃ」
「分かりました、シルル」
「なんにゃ?」
「言うことを聞いてくれたら、私が責任をもって肉を食べさせてあげましょう」
「ウチはがんばるにゃ!」
ふっ……扱いやすくて助かる。
「では行きましょう。事態はよくないかもしれませんが、それでも行かないよりはマシというものです」
「わかりました師匠!」
「肉にゃ、肉ぅ!」
「師匠、その幼子はどうするのですか?」
「私が抱っこします!!」
「その前に鼻血をふけにゃ!」