新キャラ!? 姫様たちは!?
その頃、宿屋では衛兵に取り囲まれる姿の3人がいた。私の心配は的中していた。
「シルル怖いよ!」
「大丈夫にゃ、ご主人は何があっても守ってみせるにゃ!!」
「この街自体が売買の温床だったとは……世も末よね、私をシュペード家の人間と分かっての狼藉かしら!?」
「これは金になるな、1人は施設へ! もう1人は身代金をせしめるために丁重に御もてなししろ!!」
「了解だ、こんなにうめぇはなしはねぇぜ」
「外からの冒険者の連れなら消えたってもんだいねぇ」
「おい、シャムシェはどうする?」
「犯した後に見世物小屋にでも売っちまえばいいだろ」
どうするにゃ……相手は五人。ウチ1人だけじゃご主人を守りきれないにゃ……。
「ご主人は逃げるにゃ!!」
「でもシルルがッ!?」
「ウチのことは大丈夫にゃ! カルメラはご主人と一緒ににげっ!」
いきなり『うっ!』と息が詰まったにゃ……衛兵はウチが喋っている間に距離を詰めて、腹に蹴りをいれたにゃ。
一瞬の出来事で気がつけなかったのは不覚にゃが、衛兵は動きが止まったウチを無視して二人を捕まえてたにゃ。
「離しなさい無礼者!!」
「いや、離して!」
「おっとあまり動くと綺麗な顔に傷がつくぜ? それでもいいなら」
「おいおい、商品に傷をつけるなよ?」
「黙らせるには少しは痛い目を見ないと駄目だろ? だからさ」
なんて奴等にゃ……外道にも程があるにゃ、メイサは何をやっているにゃ。でも、ここはウチが何とかしないと二人が連れて行かれるにゃ!
「ま、待つにゃ!!」
ウチの言葉に衛兵は動きを止めたけど、なんだその卑しい目と、不気味な顔つきは……こいつらは本当に人間なのかにゃ!? どうすればいいにゃメイサ――。
不穏な気配ですね……何事もなければいいのですが。しかし、よくよく考えてみれば初めからおかしかった事に気付くべきでした。組合で請け負った大型イノシシの報酬が金貨三枚と破格な事に――。本来はあの手の依頼は金貨1枚が最高額として考えるべきでした……ドラゴンの討伐も報酬が高すぎました。そこを考慮せず浮かれていたのには面目がありません。
報酬が高かったのは食料と高位冒険者の不足。誰も手がつけられない大型の害獣は街では高品質な食料となる……魔物もそうだ。この付近であれば、オークが捕食対象となるだろう。だが、オークの捕食対象は家畜……いや、ゴブリンも加わればその被害は相当なもの。迂闊でした……この街には金が余ってはいるが、食料が不足し、食料の価格が高騰しているために、安価なパンが主食となってしまっている。いや、この場合は小麦。それだけではいずれは食料難になってしまう。
私は走った。だが幼女に変身している私の歩幅は思いのほか小さい。変身には時間の制約がある。自らでこの変身を解くのは不可能だ。後数刻……その数刻で自体が急変したら後手に回る。
そんな考えをしている中で、私は1人の人物とぶつかると、押し飛ばされ、地面に体を密着させる。
「いつつ……」
「どこに目をつけているのかしら?」
「す、すみません! 急いで……ッ!?」
私は驚いた、目の前に真紅のコートを羽織る少女、そして不気味な笑みを見せる顔に見覚えがあった。
「どうして……どうしてあなたが!?」
「どうしてとはつれないわね。私とあなたの好じゃない」
「ここは人間界ですよレモニード!」
「そうね、だから何? 私は私の仕事のためにここに来たのよ? 何か文句でもあるの? あなたが私の仕事の内容を知らないというわけではないでしょうメイドーサ」
「その名は捨てました。今はシャレル様の侍女という身の回りのお世話をする立場」
「もったいない。大貴族であるルトバルル家の名が泣きますわよ?」
「そんなことはどうでもいい! なぜ、あなたがいるのですか!?」
「本当に不器用なメイドーサ……幼馴染の頃から変わってはいないのね。それでも私は好きよ。その不器用さ」
指先を舐める卑猥な仕草は、昔の記憶に残る彼女の一面と重なる。
「それで、あなたは何しに来たのです。死神の眷属がここに降り立つ意味はないでしょう?」
「ざぁんねぇん、それがそうでもないのよ。人間界に関与していいのは天界・地界、そして死神のいる深界。悪魔のすむ魔界は干渉できない」
「深界が動くとは余程ですね、率直に聞きます、あなたの狙いはなんですか!?」
「私がここに派遣されたのは、業の深い魂が増えてきたため。地界からのご氏名で動いているの。魔物がいなくなった世界の秩序が乱れて仕方がないのよ」
「くっ、ここでも魔族の消失が原因で……死神が動くとは相当ですね?」
「それはそうよ、私達はいわば人間のみ・か・た。でも、残念よねぇ。それは命を剥ぎ取るという摂理に逆らった者たちを狩るのだから」
「この街がそれだけ業が深い人間が多くいるということなのでしょうか? 中には善人もいますよ? この街ごととはいかないのでしょう?」
「それは面倒だから、リストに載ってる人物の命を狩るだけよ」
「一つよろしいですか?」
「何でも聞いていいわよ」
「そのリストの中にバデムとグリスアという人物の名前は書かれていますか?」
「ちょっと待ってね……そうねぇ……。バデムはあるわね」
……やはりか、彼もまた人身売買に加担していた人物だということになる……派閥というのは、売るか売らないかではなく。バデムは自分のおこないで、他の派閥を追いやって、自分が属する派閥の旨味を得ようとした……。
しかし、レモニードがどこまでの人間の命を狩るのかは分かりませんが、相当な数でしょうね……。
「あら、グリスアの名前もあるわ」
「なぜ!? 彼は……ッ」
「詳細を知りたいの? その顔じゃ、知りたいと言ってるようなものね。彼は何人もの人間を殺しているわ。しかもこれは……罪状としてはもっとも重い『親殺し』になっているわ。当然メイドーサは知っているのよね?」
「いえ、知りません。『親殺し』……それはどんな人間が認定される罪状ですか?」
「そうねぇ……自分に血縁のない他人の子供の親を殺しているということかしら。詳しい事情までは分からないわ、ただの変態かしら?」
違う、グリスアは……その名を思ったとたんに私の力は抜け落ち、一つの結論にたどり着いた。彼は自らを偽善者と言っていた。その言葉には裏があったからだ。親殺しという罪状と彼の偽善者という言葉から導き出せる答えは一つだ……。
彼は売られた子供の家庭を調べて売った親を殺して廻った。だから偽善者と自らを卑下していたのだ。彼はそれでも子供たちに食べ物を与えることで平静を保っていたのではないだろうか? だとすれば本当に彼は偽善者だ。
溢れる悔しさと、無力さの感情に私は奥歯を強く噛む。それで何かが変わるわけでもないだが、そんな中で私の脳裏に姫様の笑顔が映し出される。まだ私は……。
「ひぃめさまぁぁぁ――!!」
レモニードを追い越し、私は走った。これでもかというくらいに全力で――。私には守るものがある! 今はそれが最優先だ。
「さぁてと、誰から狩ろうかしら。リストも百人は越えてるのよねぇ……ふぅ、本当に人使いが荒いこと。でも……嫌いではないのよねぇ。むしろ、死の淵で打ち震える涙声を聞かせてくれないと」
気付いたらウチは倒れていたにゃ……衛兵三人に手足を捕まれ、目の前には羽交い絞めにされるご主人とカルメラ。ウチは……ウチはにゃにもできない駄猫だにゃ……。
村でもウチを馬鹿にする奴は多かったにゃ、それでも根性で頑張ってきたのにゃけども、やっぱりウチはウチにゃ……何も出来ないよわっちい存在にゃ……外に出れば変わると信じたかったにゃ……。
薄れる意識の中でその音は聴こえたにゃ。
ガシャーン!!
……窓が割れる音かにゃ? 誰か着たのかにゃ?
「姫様!! それにカルメラちゃん大丈夫……というわけではなさそうですね」
聞きなれた声が耳に届くと、目から涙が零れ落ちるにゃ……みっともなく、顔をクシャクシャにして――。
「メイサ、遅いにゃ……」
「シルル! 貴様等ああああああああ!!」