急展開!? でもありだと思います!
はい、お昼ご飯を食べに行っていると思われますが、今は衛兵の詰め所に来ています。
どうしてこうなった……。
狭い個室にテーブルを囲い、1人の衛兵と向かい合うように座る私。あのクソ組合員がああぁ! と言いたいのですが、まぁ犯罪に近い行為をしていた私に問題があるということで。いや、実質には犯罪なのですけど。
「で、お前は借りている部屋で何をしていた?」
「パンツを見ていました」
「……ふむ、お前はパンツを見てどうしていた?」
「興奮していました」
「そうだな、組合員の話では『鼻血を流しながら荒い息遣いで、少女のパンツを見ていた』間違いないな?」
「間違いありません」
クソ、パンツを眺めて何が悪い! こちとら新しい境地に目覚めようかというこの気持ちが分からないのか!?(たぶん分かりません)
「で、私は何の罪状で捕まる事に?」
「ふぅむ、難しいな。現状では少女の下着を見て楽しんでいた……我々としてもそこが困っている。同姓でのこういった行為というのは自然であるべき姿なのかもしれない。男の俺からすれば、下着を見せ合っているという行動は異性としては理解しがたい」
「なるほど、明確な罪状を決める材料がないと?」
「そういうことだな。お前がもし、男ならば、これは明確な性犯罪だ。さらには人身売買の疑いもかけられる」
「人身売買の疑い? はて、この街ではそのような商売が成り立っていると?」
「うむ。女同士で下着を見せ合うことに我々が動いたわけではない。この事件がこの国で禁止されている人身売買と関係があるのではないかということだ。それでお前は連行された」
ふむふむ、確かに一部を除いて、女同士で下着を見せ合うことに、なんの異常性がありましょうか? いや、一部に属するのは分かります。ですが、衛兵が私を連行したことに事態に疑問を感じていましたが、人身売買がこの街で……。
「詳しい話を聞いてもよろしいでしょうか? もしかすれば協力できると思うのですが」
「ほほぅ、それは自身の潔白を条件にということでの話か? 話を聞けば、お前は組合でも指折りの冒険者だと聞く。取引ができるならばそれは好都合だ」
妙に含んだ言い方をする人間ですね。私が女という性別に関係があるのでしょうか? それとも他の理由が?
「身の潔白を秤にかけての交渉なのでしたら妙だとは思いますが?」
「気付きのいい冒険者さんだな。この件に関しては組合に依頼が出来ない。表立っての依頼は目立つからだ。目立てば数年は息を潜めて新たな販路を開拓するだろう。そうなればこの街を守っている我々からすれば痛手だ」
「痛手と言うからには、ある程度の証拠が出揃っていると判断しますが? この場合、あなたの口から出るとすれば『手が打てない』が正しいのではないでしょうか?」
「流石は特例中級冒険者さんだ。こちらの意図を汲み取ってくれるのは流石だ」
この口ぶりからすれば協力を求めているように思いますが……相手もしたたかですね、こちらの様子を伺いつつも情報を小出しにする。それはすなわち暗黙の依頼ということだと確信できるが。
「それは個人的な依頼と受け取ってもよろしいのでしょうか?」
「察しがいいな。そうだ、これは俺個人からの依頼だ。この依頼を承諾してくれれば外に出してやる。だが、人身売買の情報くれないか?」
「最終的には手柄は欲しいと?」
「衛兵も信用がなけりゃ、動くことも出来ない事案もある。その為には功績が必要だ」
「なるほど、なるほど。あなた方はこの街での地位を固めたい。そして、街の領主に対し、なんらかの報復措置をとりたいと?」
「おいおい……まったく、よくそこまで根深く掘り当てるのか、お前が指折りだというのは出来た話じゃなさそうだ。そうだ、最終的にはこの街の領主を取り押さえたい。それは言わなくてもわかるな?」
「念を押されなくても人身売買の金が懐にいくらか流れているというの情報として掴んでいるのでしょう? ならば追求するのはやぼというものですね」
「敵わんな、そこまで見抜くのなら、協力をお願いできないか?」
「子供達が困っているのならば断る理由もないでしょう。あなた達の間で言う人道的救済と言えば通じますか?」
「あぁ、そうだ。俺はバデムだ」
「私はメイサと申します」
「では、メイサには人身売買の調査の依頼を俺個人から請け負ってもらう。そのかわり――」
「私を釈放してくれという取引ですね。その依頼請け負いましょう」
「正直助かる。俺達では派手に動けない」
「理由は分かりますよ、内部に行商に情報を提供している者が紛れ込んでいるからでしょうね」
私の言葉にバデムは頭をかいて、『降参だ』といった様子で首を振り、両手を挙げた。まぁ内部に治安を維持する衛兵の情報を漏らす輩がいるのは当然のことだ。人間の社会というのはこうも地盤がゆるいのかと思わせる。
「お前には見透かされている気分にさせられる。どうしてそこまでの推測が出来るのかと驚きだ」
「ふふ、でしょうね。では、釈放をお願いします。家族が待っていますので」
「わかった、だがくれぐれも無茶はするな」
「お心遣いに感謝します」
そういって私は外に出ることが出来た。目の前にはシルルが連れて来たのか、姫様とカルメラの姿。皆は心配そうに私の顔をうかがっていたが、「大丈夫です」と微笑むと安心した様子で顔色を変えていった。
私達は、屋台でありったけの食料を買い込み宿に戻って昼食をとる。正直にお腹が空いて困りましたが。串焼きを食べながら人身売買の依頼について話した。
「じんしん?」
「人を売ったりすることです。孤児でも見つけてさらうのでしょう」
「師匠はその依頼を受けたと?」
「出してもらうという条件の引き換えにです。でなければ今も拘留されていたでしょうね」
「でもどうするにゃ? 目星はついていにゃいのなら、動けないにゃ」
「そうですね。情報が不足していますし、かといって情報を収集していればこちらが目を付けられてしまう。迂闊には動けないですね……ん?」
「どうしたかにゃ?」
「シルル、あなたは街を彷徨っていたのですよね?」
「そうにゃ、それがどうかしたにゃ?」
「何故無事なのですか?」
「うにゃ? 意味が分からないにゃ」
「カルメラちゃんはこの街に入って日が浅いのに、誘拐をされる事はなかった。ですが、あなたは何日もこの街を彷徨っていた……人身売買の標的は特定の年齢ということ、身形もそれなりならば狙われない」
「師匠、この国では人身売買はご法度それなりのリスクを伴う行為です」
カルメラちゃんは知っている……そこまでのリスクを背負う行為を行商だけで行うのは難しい。ならば裏の社会にそれを手助けする組織という存在がいるということ……個人や少数で出来ることではない。
「カルメラちゃんは都市部で奴隷の話は聞きませんでしたか?」
「確かにシュペード家は貧乏ですが、それでも低爵位を持つ家柄。他の貴族とも繋がりはあります。もちろん情報もそれなりに。ですが国内で奴隷の話は聞いた事はありません」
「そうですか……」
「にゃぜ人身売買の話に奴隷が出てくるにゃ?」
「シャレル様の手前で話せる内容ではないわ、それはカルメラちゃんも理解してるし、あなたも少しはそのスカスカの頭に自重という言葉をつめておきなさい」
「むー、いじわるにゃ」
「意地悪で言ってるのではないのよ。カルメラちゃんのように裏の社会を知っているなら人身売買の件がどのようなものかの想像はつくはず。ですがシャレル様はそのような事を一切知らない。教えるのは酷というものよ」
「駄猫には難しい話です」
さて、どうやって……狙いはたぶん孤児だとは思う。結び目が見当たらない……それにこの依頼は組合に話せるものではない。借りる手も不足している。久々にあの魔法でも使いますか。
「『我の声を届けバロン氏に、その秘術を我に』……『バロノーツ』……やだなぁ」
すると、私の体は光を放ち、みるみる背丈が縮んでゆく。皆は目を覆い隠し、光を避け、光が収まるのを待った。徐々に光は抑えられて、現れたのはカルメラよりも幼い少女姿の私だった。
「なんにゃその姿は!?」
「師匠!?」
「メイサちっちゃい……」
「いいですかカルメラちゃんこれはバロ系といわれる第28階級のバロン氏の魔法というよりは秘術です。こちらも簡単に使えますので、便利ですよ」
「凄い……変身魔法は血統魔法、いわば世界でも限られた人間にしか出来ないのに……アタシの師匠は世界一の魔法使いです!」
「そんなに褒めても何も出ませんよ。さて、私が自ら囮をしましょう。しかーし!」
「なんにゃ?」
「シャレル様か、カルメラちゃんのどちらでもいいのでパンツ貸してください。ずれ落ちる……」
「お前、今回は終始パンツが絡んでるのにゃ、ウチはお前が不憫でならないにゃ」
「同情するな! パンツをおくれ!!」