少女の戦い、変態はこうして舞い降りる
宿に戻ると、姫様が出迎えてくれた。それだけではない、姫様の両手が私の腰をグルリと半周し、強く抱きしめてくれるではないかぁ!! な、なにが起こった!?
「おかえりメイサ!」
「た、ただいま戻りました……」
なんだこの笑顔は!? 私に向ける麗しいお顔。おぉ? おおぉう!? 私の中で打ち震える甘美な喜び、これはまさに天使の抱擁。
「おかえりにゃよ」
「ただいま」
バカ猫にはそっけない返事ですけどね。ん?後ろにいるカルメラちゃんの表情が微妙に苛立っているようにも見えますが、うぅん?
「あなた、アタシの師匠に甘えすぎじゃない? ちょっとは自重しなさいよ」
「どうして? メイサは私のメイサだもん」
今、なんと? 『私のメイサ』と聞こえましたが? んー、私の思考回路が鈍っているのでしょうか? 首を傾げても答えが出ない。
そう、すでに少女達の戦いは始まっていた。
「私の? はっ、師匠がやさしいものだから付け上がっているのね」
「そんなことないよ、メイサは私が小さい頃から一緒にいる大事な人だもん」
「だからなに、魔法もろくに使えそうにないお荷物が何を言うの」
「むー、私だって魔法は使えるもん!」
「あらぁ、魔力も感じられないのに魔法が使えるなんて驚きだわ、さぞかしお粗末な魔法なのでしょうね」
なんでこんな事になったんだ? 私の頭は混乱でまともな結論を出せないでいる。2人の目の前からスルリと抜け出し、シルルのもとに寄る。
「シルル、私がいない間に何が?」
「んにゃー、ちょっとにゃ……」
「そのとぼけようは姫様に何かありましたね? 怒らないので話してください」
「いにゃ、お前が出て行った後に、ご主人と一緒にいたのにゃけども、急にご主人がお前の後を追うようにするから止めたにゃ」
「本当にそれだけですか?」
「にゃはは、その後にご主人に言われたにゃ」
「なにを言われたのです?」
よほど都合が悪いのか、目を泳がせるシルルに疑問をもった。またバカ猫がいらぬことをしたのかと、心の奥底でため息が漏れる。
「いにゃね、『胸が苦しい』って……だから言ってやったにゃ、それはカルメラにメイサがとられたから気持ちが落ちつかにゃいって」
「ほほぅ、それで姫様の回答は?」
「何も言わずに、胸を押さえて、ベッドにもぐったままだったにゃ。何を言っても出てこにゃいから困ってたにゃ」
あ――。間違いない思春期のフラグが立ってるワー、ビンビンだワー。そしてカルメラちゃんの存在……うん、まさに『私のために争わないで!』展開きましたワー!
今の姫様にはカルメラが泥棒猫に見えるのですね。嬉しいような気分ではありますがと思って矢先――。
「私は魔王の娘なんだから! お姫様なの、だからいいの――!!」
私は鼻水と唾を噴出し、白目を向いた。
それは言っちゃだめです――!!
「え……魔王の娘?」
「あ、あの、ちょっっつ!」
「あははははは、魔王の娘? そんな嘘に誰が騙されるものですか! 魔物は魔王とともにこの世から消えたのよ?」
うぅうーん、これはセーフティ!!
「違うもん、私は魔王の娘だもん!!」
「残念ね、魔族は世界中から消えたの、魔王に娘がいるなんて話も聞かないし、もしもあなたが魔族ならとっくに消えてるわ」
おぉう、なんて攻防戦だ……心臓に悪すぎる。小さな女の子が好きな私としては残念だがどちらの味方につくこともできない。姫様、お許しを――!!
だが、そろそろ収集をつけねば……だがなぁ、ここまで険悪になると矛先がこちらに向きかねない。しかし、姫様が嫉妬するのはわからなくもないが、何故に昨日会ったばかりのカルメラちゃんがムキになるのだろう?
「2人はお腹が空いてイライラしてるにゃ、ここはご飯を食べて」
「シルルは黙ってて!!」
「駄猫に用はないわ!!」
「にゃふぅーん……」
シルルは頑張った。そこは褒めるべきであろう。しかし、間が悪かったというか、姫様からしたらシルルは従者。カルメラちゃんからみれば戦闘で逃げ回っていた弱者。立ち位置が悪い。とはいったものの……ん? と、なると考えたくはないが、この先の展開を予測すれば。
「メイサは――」
「師匠は――」
「どっちの味方なの!?」
やはりそうきましたか、うむ! 逃げたい!!
「あのですね……どちらの味方と言われましても……シャレル様には尽くして差し上げたいですし、カルメラちゃんには魔法を教えてあげたいと思っていますので、敵味方といって別けるのは難しいかと」
逃げ腰な私を許してください! こんな事になるとは予測していなかったので……うぅ、すみません。でも、嬉しいのですよ。私なんかを取り合ってくれて、うーんお姉さんハッスルしちゃう!
「ふむ、ではお二人に伺いましょう。シャレル様は何故にムキになっているのでしょうか? そしてカルメラちゃんは昨日に会ったばかりなのに私に対してそこまで独占しようとするのか? 私は2人ともの気持ちが見えません」
「私は……メイサが好きだから……カルメラと出かけて行った時に、胸が苦しくなって……なんだか嫌な気分になって……」
「ふむ」
「アタシは凄い魔法を使う師匠に一目で……その、惹かれて師匠を独占したい想いに駆られたから……す、好きとか嫌いとかじゃなくて……でもやさしくしてくれる師匠の事を考えたら動悸が激しくなったから……」
「ほう」
うーん、結論を申しますと、私は2人の少女にかなりの好感があり、どちらも私を好きだという事ですかな? モテ期が来たということかー―!! おほほほほ、さぁ私を取り合いなさい。どんな愛でも受け入れましょう。
「整理すると、お二人は私に好意があるということですね?」
「好意?」
「好きだということです」
「あ、うん。私はメイサ好きだもん!」
イェーイ! 姫様から熱烈ラブコールいただきました!! 今夜は豪勢にいかねば。
「アタシは……動悸が激しくなるだけで……好きだとかって……」
「でも、胸がドキドキすると」
「そ、そう……会ったばかりなのに……」
ほほぅ、それは一目惚れというヤツですな。甘酸っぱいなコンチクショウ!!
「なるほど、2人の意見はわかりました。では、こうしましょう。2人は私にパンツを見せられますか?」
「お前、頭が膿んだのかにゃ?」
「バカ猫はおだまり!」
「どっちがバカっぽのかにゃ?」
私は気付いたのだよ! 下着を見れる行為。それ、すなわち悦楽の園の門が開かれるという事に。端的に言えば興奮するぅ。
「どうですか?」
さぁ、どうする! この思春期真っ只中の2人の少女は私に下着を見せるという行為を遂行できるのか、ふははは! なんとこそばゆいのだ、これが力か!?(たぶん違う)
「私は見せられるもん!」
オーッと姫様は大胆にも見せられる宣言だ――!! さぁカルメラちゃんはどうだ。
「ど、同姓に見せるなんて平気よ!」
グッジョブ人生……そして、2人の少女はスカートのすそを持ち、頬を赤らめて、ゆっくりと捲し上げる。するとそこには見たこともない絶景が。
そしてドアが開く。物理的な(部屋の)ドアが。
「すみませーん、組合の者ですが、メイサ様が荷物をわすっ」
『わすっ』なんだ? というより、鼻血を流し、はぁはぁと息使いの荒い私の目の前で少女がスカートを捲し上げてパンツをさらしているこの状況。絶体絶命な淵。うん、やべぇって事は私のカンが教えてくれるぜ?
組合員は笑顔の表情を崩さないまま、ドアは静かに閉め、私は鼻血をふき取った。
「うん、2人とも似合ってる」
この言葉が限界だ。
「お前、相当の変態にゃ」