豪勢にいこうぜ! ん? お前は!?
いやはや、お腹も空きましたし、ご飯といきましょうかと、食堂の席に着席し、少し疑問に思う私ですが……目の前にはみ出さないばかりの料理の山。一体何が……!?
「さて、いただくにゃ!」
「すごい量のご飯だね……何かのお祝いなのメイサ?」
「い、いえ……そういうわけではないのですが」
そうだよね、混乱しちゃいますもんね。シルルは大食なのですが、姫様と私はそこまで食べる事はない。ようはこの光景に喜んでいるのはシルルだけということだが……まぁ、約束は約束だ。
「で、どうですかシルル?」
「あむあむあむあむ……んにゃ?」
『んにゃ?』じゃねぇよ。お前のために用意したご馳走なのだからその反応の薄さはなんだ? 不満なのか? いや、不満だとしたら両手に食べ物を鷲づかみにして食べはしないだろう。となりで、ちょっと姫様が引き気味なのだが――。
「すごい食べるね……私はちょっとで大丈夫だから……」
「何を仰いますか、シャレル様は成長期なので御座いますよ? 沢山召し上がってください」
「せいちょうき?」
「そうで御座います。成長期とは身体が大きくなっていくということ、いわば大人に近づくのです。ささっ、お好きなものをお腹いっぱいにお食べください。ですが、シルルを手本にしてはなりませんよ?」
「食べられるかなぁ。でも、食べないと大きくなれないもんね」
姫様は最後は笑顔で応えてくれたが、ふむ……最近の姫様は数日の間に何があったのかというくらいに言葉遣いに変化が見られる。魔族というものは急に成長すると言いますが、それにしても3日ほどまえなら、まだ片言な言葉遣いで可愛かったのですが。いえ、今でも十分に可愛いのは変わりません。ふむ、下着の一件からでしょうか? おおっと忘れておりました。
「シルル、ガツガツと食べるのはいいのですが、シャレル様へのお土産はどうされました?」
「にゃっ!? そうにゃ」
「お土産?」
「ほら、これにゃご主人!」
シルルは大きな木箱を取り出すと、姫様にお渡しする。すると、姫様は首を傾け、疑問を感じておられるようだ。
「シャレル様、その木箱を開けてみてください」
「う、うん……あ、コレ……」
木箱を開けると、藁に包まれた真紅のドレスが着せられている人形細工が現れる。姫様は目を丸くし、私とシルルを交互に見る。よほど慌てておられたのだろう。まぁ、人間を模して造られている人形という点は私にとってはマイナスなのだが。
「うわぁ、かわいい……でもコレは……?」
「私とシルルからのシャレル様への贈り物です。そのため今日はシルルが良くがんばりました」
「そうにゃ、ウチはご主人のために頑張ったにゃ!」
「メイサ、シルル……」
すると姫様はうつむき、ポタリと涙の雫を人形に落とす。
「シャレル様? 具合が悪いのですか?」
「どうしたにゃ? 気分が悪いのかにゃ?」
「ううん……違うの、嬉しくて……私のために2人が頑張ってくれてるなんて……いつもそれが当たり前だと思ってたから、嬉しさと恥ずかしさが同時に……ズズッ」
鼻を啜り、静かに泣く姫様とその言葉に私は姫様の成長を確信した。こうも急に成長するのかと驚かされます。
「にゃんだかご主人が大人っぽく見えるにゃ。気のせいかにゃ?」
「いえ、シャレル様のお年は52歳です。急激な変化があってもおかしくはありません」
「んにゃぁ、52歳かにゃ……52歳!?」
「そうですよ? 何を驚かれますか?」
「いにゃ、驚くにゃ! ウチより年上にゃし、ウチと出会ったころと別人にゃ」
「まぁ、魔王様には『次の日には人格が代わったように見える時もくる』と言われておりましたので。不思議なことでは御座いません。むしろ普通かと」
「にゃるほどにゃぁ……魔族は色々あるにゃね」
この贈り物が、姫様の感性にどのような影響を与えたのかは存知あげませんが、私は良い影響を与えたのだと信じたい。
和やかな雰囲気に包まれる食卓、こういうのもいいですね。姫様の身長はそこまで伸びておりませんが、人格という骨格は成長したということでしょうか。うむ、良き事です。
――が
その和やか雰囲気を打ち壊す事件が起こる。それは後に私の争奪戦が始まり展開を目まぐるしく変える出来事の予兆だった。
私の前に1人の少女が杖をついて立つ。フードで顔は見えないが、精霊の宿る宝石や魔除けの装飾品を身につけており、一見して『あー、魔法使いか』と私は気付く。
「あなた、昼間にドラゴンを退治した人よね?」
「えぇ……それがなにか?」
(人ではないですけども)
フードを取り、翠色の瞳が目立つ白髪の三つ網の少女。背丈は姫様とはあまり変わらないだろうが、顔は好みだ……いかん! これは浮気になる……私は姫様を愛してやまない下僕。とりあえず長くなるので一度落ち着きましょう。で、この子は昼間の戦いを観ていたと。
「メイサ知り合い?」
「いえ、存じ上げません」
「私はカルメラ・ドルト・シュパード。1人で旅をしている魔法使いよ」
「それはご丁寧に、私はメイサ・アデローといいます」
(本当の名前はメイドーサ・デニロ・ルトバルル、本家の名前ですけどね)
さてはて、このお嬢さんは何の目的で私の前に立っているかなのですが……思い当たる節はありませんね。
「あの、すみませんが今は食事中でありますので、個人的な用事なら後にしていただけませんか?」
「……なんで……」
「はっ?」
「なんであなたはアレだけの魔法が使えるの!? 教えなさい、あなたは何者なの!!」
「と、尋ねられましても。私はここにおられるシャレル様の侍女で御座いまして……何者も何もただの凡人ですが?」
「嘘よ!! ドラゴンを一撃で葬る魔法を扱える凡人なんて存在しないわ!!」
これは面倒だ。厄介な事に巻き込まれたな。少女を手にかけるのは非道とも思えますが、ここは――。
「メイサ、その人はなんで怒っているの?」
「え、あ――。怒っているともとれますが……この場合は、いきなり絡まれてと……」
「椅子を持ってきたから座るにゃ」
「なに、シャムシェまでいるの? 色々とぶっ飛んだ構成ね」
ふむ、姫様の手前で無茶は出来ないか。少女は椅子に座り、私を凝視する。視線は痛いが刺激的ぃ、姫様とは違うこの塩対応。癖になりそうですね。じゃないじゃない。
「で、あなたの用件はなんですか?」
「そうね、アタシを弟子にしてくれないかしら、報酬も支払うわ」
「急な話ですね。私は弟子を取らない、といいますかシャレル様の世話係ですので」
「メイサは国家魔法騎士でも敵わないにゃ、子供はお家に帰るにゃ」
「国家魔法騎士ですって!?」
(うわぁー、話がややこしくなる)
「それはバカ猫の戯言で無視して結構ですよぉ……」
「益々あなたに興味が沸いたわ、あなたに指導してもらえれば、私の家も再興できる……」
ん? なにやら事情がありそうですね。姫様の顔色を伺うと『その子の話を聞いてあげて』と無言の視線が突き刺さる。やれやれ、姫様にあのような眼差しをされては受けるほかにありませんね。
「分かりました、あなたを弟子にしましょう、ちなみに冒険者の階級は?」
「私はここに着たばかりだから外級扱いよ。他の都市では中級に位置していたわ」
「都市部出身ですか、とにかく詳しい話は宿でいたしましょう。4人分のお部屋に……」
「宿代は自分で支払うわ、弟子になるのに支払わせるのはシュパード家の恥になってしまう」
「それは良い心がけで、では部屋は別々ということで」
とんだ話になってまいりましたが……少女愛好家としてはウェルカムだよ! 実力がいかほどのものか検証しなければなりませんね。明日は休みにと考えていたので都合はつきますが……ここは深く考えても結論は出ないとして。
「カルメラさん」
「なんでしょうか師匠?」
おほほ、なんかくすぐったい響きですよ。
「バカ猫が食べきれないほどに料理を注文してしまいまして、対処に困っているので協力をお願いできますか?」
「わかったわ、どれをいただけば……」
目の前にズモモと構える食べ物の山。カルメラちゃんもビックリな量ですね。バカ猫がッ、限度を弁えて貰いたい。
「本当にシャムシェは加減を知らないバカな種族ね」
(ごもっとも)
「バカバカ言うにゃ! 知能はあるにゃ!」
疑わしい発言だ。擁護したところでかばいきれないのは確かだ。カルメラちゃんは洞察力はあると……。さて、どうするかー。