積読
「うるさい」
7時に設定した目覚まし時計が響く。
目を擦りながら起き上がると、
まだ読んでいない沢山の本の山が視界に入った。
昨日、買ったものだ。
積み上げれば、
私の背の高さを超えてしまうかもしれない。
「なんで、こんなに買ったんだっけ?」
思い出そうとしたが、
寝惚けた頭では答えは出てこなかった。
私は本が好きだ。
特に、奇想天外な物語が好きだ。
読んでいると、
まるで物語の中に私が入っているような
感覚がして堪らなかった。
ふと、気付く。
今日は月曜日だ。
学校に行かなければ。
そう思いベッドから降りると、
部屋のドアが勝手に開いた。
それは、何故か、悲しそうな
顔をしたお母さんの仕業だった。
「おはよう、お母さん」と挨拶すると、
何も言わずに抱き締められてしまった。
「どうしたの?」と聞いても何も答えてくれない。
「遅刻しちゃうから、離して」と言うと、
お母さんは一層悲しそうな表情をして
「覚えて、ない?」と聞いてきた。
「何が?」
お母さんが、涙を流しているのが見えた。
「あんたはね、高校、辞めたんだよ」
それを聞いた次の瞬間
頭を割るような激痛が走った。
耳鳴りがひどい。
眩暈がして、目の前がぼやけて何も見えない。
いつかの、どこかでの、
思い出したくない、
嫌な光景が次々と蘇っていく。
いじめられてた。
ずっと独りだった。
いつも泣いて帰った。
本当に苦しかった、
初めて、痣だらけの身体を見た時、
もう死のうと思ったんだ。
嫌だ、生きたくない、死にたい、逃げたい。
生きたくない。
頭の中でブチッと何かが切れるような音がした。
気付けば、私は本を読んでいた。
物語の中では、
不思議な喋るカカシと主人公が話している。
私はただ、それを聞いていた。
確かに、私はそこにいた。
段々と何かを忘れていく感覚がある。
それが心地よくて心地よくて堪らなかった。
堕ちていく、本の世界に。
楽しい楽しい、物語の中に。
「うるさい」
7時に設定した目覚まし時計が響く。
目を擦りながら起き上がると、
まだ読んでいない沢山の本の山が視界に入った。