堅苦しいのは息苦しい
今、私とヒースさんの目の前には、片膝をついて頭を下げている人が五人。
しかも、辺りには転がったトレントの死骸が沢山。
どんなシチュエーションだろうか。
「ちょ、ちょっとどうしたんですか!? 顔をあげて下さい!」
「畏れ多くも発言の許可を頂けますでしょうか?」
顔を上げてと言ったけど、未だ顔を上げてくれない五人。
おそらく真ん中の人が代表して言葉を発したのだろう。
一人だけ体格や風格、オーラ? が違う様に見える。
「えっ!? 全然良いですよ……。それと顔も上げてください!」
「有り難き幸せ。先程の無礼をお詫び致します。申し遅れましたが、私、黒ハン族のバオと申します。御使様とお見受け致します。失礼ですが、御名前をお聞かせ頂けますでしょうか」
「えっ!? 御使って!?」
「ユエ、何と言っているんだ?」
「私が御使様で、名前を教えてって……」
御使様ってパワーワードが苦しいんですけど。
私が思ってる漢字で合ってるかな?
だとしたら、やはり仰々しくて息苦しい。
一応顔は全員上げてくれたからまだ良いけどさ。
「御使って程大した者では無いんですけど、一応神様から依頼を受けました。トウコと言います」
「やはり、御使様でございますか。ようこそ、お越し下さいました。失礼ですが、お連れ様はユエ様でしょうか?」
「えっ!? あっ、そうか! スミマセン。ユエも私です。ユエは私の愛称と言いますか……こちらの男性はヒースさんです。今回の依頼に同行してもらっています。神様もご存知です」
そう言えば、カマック様が私の名前を曖昧に伝えてたから、ユエとトウコが行くと思ったのか。
そして、私がヒースさんを手で指して紹介したから、会話の内容はわからなくても一礼するヒースさん。
「あっ、こちらがバステ……です」
危ない危ない!!
つい、バステト様って言っちゃうところだった。
言っても大丈夫だとは思うけど、神様が直々に来たなんて聞いたら大変な事になりそうだから、バステト様に神様と紹介しなくて良いか事前に確認は取って、許可ももらった。
「にゃっ」
右前足を挙げて答えたバステト様。
バステと呼んでも嫌な顔しない心の広さ。
加えてその仕草、ああ、たまらなく可愛い。
「バステ……はとても、とても大切な友……人……です」
「畏まりました。お連れ様方も含め、丁重におもてなしさせて頂きます。では、我が里へご案内致します」
バステト様を友人などと紹介してとても烏滸がましいが、バステト様に頭を下げたら、首を縦に振ってくれた。
「いいよ」って事かな?
後でちゃんとお礼と謝罪をしよう。
うーん、それにしてもバオさん達は堅苦しい。
まあ、神託を受けた人に会ったんだから仕方ないんだろうけど、息苦しいよ。
「あっ、バオさん。この魔物達は放置で良いんですか?」
「御使様、私共に敬称は不要でございます。魔物達は後ほど回収に、他の部隊を派遣致します」
「流石に呼び捨てはちょっと……それなら私が持って行きましょうか?」
「とんでも無い! 御使様のお手を煩わせる訳にはまいりません」
「でも、ほら、すぐ回収できますよ?」
「「「「はっ!?」」」」
「何!?」
えっ?
そんなに驚く事?
ただストレージにエルダートレントの死骸を入れただけ何だけど。
「? 後で出しますので安心して下さい」
「そうでは無く……」
「ユエ、なんと会話しているのだ?」
「あっ、スミマセン。『どう言う事です?』って聞かれたんで、後で出しますよって言ったら、『そうでは無い』って言われまして」
「ああ。恐らくユエのアイテムボックスに驚いているのでは無いか? 慣れてきている私でも、あれ程巨大なエルダートレントが入る事には驚くぞ」
「そっちですか。てっきり収納しちゃダメなのかと思っちゃいましたよ。もう今更かなって」
「そうではあるが……」
「あっ! ヒースさんもこの方達と会話できた方が良いですよね! ちょっと待って下さい。出来るかな……」
「いや、ユエ__」
「あの! 皆さんは何語を話されてるんですか?」
「ハ、ハン語です」
ヒースさんの話は一旦置いておく。
自分はバオさん達と話せているけど、実際何語を話しているのか分かっていなかった。
なので、聞いてみた。
黒ハン族って言ってたけど、言語もハン語なのね。
早速私はスマホを出し、予定を組んでみた。
ーーーーー
イベント:ジェス・カイルラーとハン族との会話を、各公用語に翻訳する
日時 :開始 終日
終了 ーー
場所 :ーー
繰り返し:毎日
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は日毎に「5」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
ヒースさんが【ハン語を習得する】とはじめ入力してみたけど実行出来なかった。
流石に万能スキルでも、そんな簡単に言語を習得させてくれないよね。
でも、特定の部族との翻訳に切り替えてみたらオーケーが出ました。
習得自体は出来ていないから毎日と設定する必要があるけど、日毎に5なら問題ない。
自分で組んでおいて何だけど、翻訳まで出来てしまうスキル、恐ろしや。
今回みたいに出来ないことも勿論あるけど、大概可能なんだよね……
だからこそ、自分が神だと錯覚しないように気をつけなければ。
この万能さに胡座をかかない様に。
と言いながら、楽したいからと頼り切ってしまう未来は見えてるんだけどね。
ああ、情けない。
そんな小物な自分を嘆きながらも、選択肢の【はい】を押す。
「ヒースさんとハン族の方との会話を翻訳するように設定できました!」
「……ユエ。とても有難いが、その能力はあまり人前で多用しないでくれ」
ヒースさんが呆れている様子。
この大陸には長くても一ヶ月の滞在予定だったから、この能力を隠さなくても良いかなって思っちゃったのがいけなかったか。
だって、神様がもう神託しちゃってるじゃん?
隠す意味ないかなって思っちゃったんですよ。
「……ごめんなさい」
「恐らく彼らには理解出来ていないだろうが、これからは控えるように」
「はぃ」
上司などに叱責される感じでは無い。
良い歳して親に怒られている気分だ。
「御使様、お話の途中に失礼致します」
「あっ、ごめんなさい。こっちで会話しちゃって。あと、他のトレントもしまっちゃいます!」
「いえ、あっ__」
バオさんが何か言ってたけど、失礼だけど無視して手当たり次第ストレージにトレントを放り込んでいった。
きっとその様なことしなくて良いとか言われそうだし。
トレントをしまうと、十二体だった。
それにしても、やたら頑丈だとヒースさんが言ってたけど、何かの材料になったりするのかな?
まあ、里について引き渡したら聞いてみよう。
考え過ぎかもしれないけど、引き渡す前に価値を聞いて、私が渡すのを渋ると思われるのも嫌だしね!
「さあ! 全部収納したので行きましょうか!」
少し離れた所にいた六人に話しかける。
ん?
何やらヒースさんとバオさん達が会話をしながらこちらを見ている。
バオさん達の表情は仮面で見えないけど、こちらを見る目が輝いている様に感じるのは気のせいかな?
ストレージに入れているだけなんだけど。
「御使様のお手を煩わせ、申し訳ございません。しかし、あの量のトレントを収納出来るとは感服致します」
感服される程の事はしてないんだけど、御使ってだけで普段以上によく見えてるんじゃない?
私はそんなに敬われるような人間では無いんだけどなぁ。
「自分でもよく分かってませんが、容量はかなりあるみたいですね」
メル様から頂いたスキルな上、ユニークだからなのか容量の限界を感じたことが無い。
どのくらい入るのか実際に知らないし、“鑑定”にも出てこなかったし。
なので、嘘を言っているわけでは無い。
「誠に素晴らしいお力です。それでは、参りましょう。ご案内致します」
バオさんの言葉と共にすぐ、私とヒースさんの後ろに黒ハン族の二人がつく。
先頭はバオさん、その後ろに黒ハン族の二人が並び、私とヒースさん、その後ろに黒ハン族の二人が並ぶという様な列で進む。
進むんだが……歩き始めたら既にバオさん達が遥か先何だけど!
えっ、走ってるの?
「バオ隊長!!」
私の後ろで護衛してくれている一人が大声を上げた。
すると、遠くに見える三人が止まり、こちらを振り向いて、離れている事に気づいた様だ。
慌てて一瞬で戻ってくる三人。
「申し訳ございません!!」
「「申し訳ございませんっっ!!」」
バオさんを先頭にし、三人が片膝をつき、頭を下げそう言った。
「あ、頭を上げてください! ちょっと速くて驚いただけですから大丈夫ですよ!!」
「バオ殿、今の速さが通常の歩速か?」
「はい、特段速く進んだつもりではございませんでした」
「済まない、ユエはその速度の十分の一程度の歩みだ」
うん、確かに十分の一程度かも知れないけど、そんなに遅いわけでは無いと思ってた。
私からしたらバオさん達の速度が異常に速いと感じるよ。
でも、何だか申し訳ない。
「ごめんなさい……遅くて……」
「とんでもない事でございます! 御使様を歩かせてしまう事自体申し訳な……もし御使様がお嫌でなければ、私が抱えてお連れ致します」
「か、抱える?」
「はい、抱えることで私が御使様の盾にもなれますので、宜しければ」
「ちょ、ちょっと、抱えるって言葉が理解できなくて、ヒースさんどう言う事です?」
人生で抱えられるなんて幼年期にしか経験した事ないよ。
それを今この歳になって抱えて連れてくぜって言われても全くピンとこないし、意味がわからない。
「そうだな、バオ殿の速度についていくにはユエを抱えるか背負うかだな」
「私共に合わせて頂くなど畏れ多い」
「? ん?」
「では、私が背負おう」
そう言って、ヒースさんが背中に乗れと言わんばかりに私の前にしゃがみ込んだ。
「ん? ん?」
ここまでお読みくださりありがとうございます!
設定って、本当に難しい。。




