レベル上げに感謝
一泊した小島を発ち、バステト様は今日もグングン進んで下さる。
このスピードと高度にも慣れたヒースさんは、ちょいちょいデジカメを起動してシャッターを切っていた。
毎度私がヒースさんの後ろに座るので、どんな顔をして写真を撮っているのかは見えないけど、カメラを構えて右を向いたり左を向いたり、きっと撮りたい画が沢山なんだろう。
しかし、暫く撮っていたと思ったら、いきなりガクッと肩が落ちたと同時に後ろを振り向き、
「切れてしまった……」
と、悲しそうな顔をこちらに向けてきた。
なんて感情が分かり易い人になったのだろうか。
「……お預かりしますね。夜に充電するので、明日にはもっと沢山撮れますから」
「そうだな、明日を楽しみにしていよう」
そう言って前を向き直ったヒースさん。
若干肩と腕が上がったように見えたから、もしかしたらシミュレーションでもしてるのかな?
バステト様に乗り、三時間半程経ったところで休憩をすることにし、昨日一泊した島よりも小さい島を見つけ、降り立つことに。
「この島には、生き物はいない様ですね」
「そうみたいだな」
『ユエ、冷たいお茶なの』
「あっ、バステト様すみません。今お出ししますね」
今は本気神獣バージョンのバステト様なので、大きめの桶に並々お茶を注ぐ。
この小島はあまり平らな場所がないので、ゴツゴツした岩にそのまま座って休憩をとる。
机が出せないので、食べやすいサンドイッチをバステト様とヒースさんに出して、私は前に握っておいたオニギリを食べる。
『オニギリも食べたいの』
「何味でも良いですか?」
『良いの』
「このサイズのもの、幾つ召し上がります?」
『う〜ん、ニ十個!』
拳大位の大きさのオニギリを、まあまあな数お召し上がりになりますね。
私が握っておいた分では足りないので、“買い付け”アプリで沢山購入した。
「バステト様どうぞ。ヒースさんも食べます?」
いろいろな味のオニギリのフィルムを開け、バステト様の目の前にお出しすると、ヒースさんも興味がありそうな目を向けているのに気づいた。
「……私はこれで十分だ」
「納豆は入ってないですよ?」
「いただこう」
納豆を気にしてたんかい!
確かに、以前お米と一緒に出したから疑うのはわかるけどさ、流石にヒースさんの前ではもう出さないよ。
それから、ヒースさんでも食べやすそうなサケとツナマヨをチョイス。
梅干しとか出したらヤバい気がしたからやめておいた。
『今日中にはロッテントークが見える位置までは行けるの』
「予定通り、明日にはロッテントークに上陸できそうですね。バステト様ありがとうございます」
『まだ終わりじゃないの。ユエはロッテントークに着いてからが本番なの』
「そうでした……毎日世界樹に、クリーンをありったけ魔力を込めて行えば良いんですよね?」
『そうなの。多分初めは倒れるの。でも大丈夫。カマックが【預言者】に、世界樹の近くに小屋を作るように言ってたの』
「はい?」
「まさか、神がそこまで……」
『世界樹の周りには制限をかけていて、人の集落があるところまで一日以上はかかるの。だから、今回だけ特別に小屋の許可を出したの』
「特別……はぁ……バステト様、ちょっと私には荷が重いですよ……」
『そうなの? ユエが倒れた時の為の小屋なの。小さいはずなの』
「いえ、小さいとかで無く……とてもありがたいのですが……神様にここまでしてもらうなんて……正直、気が引けます」
小屋が小さい云々の問題ではなく、神様にここまで気に掛けられる私の立場を考えてくれー!!
ヒースさんもビックリしてるじゃん!
私なんて、気の小さいパンピーなのに……注目を浴びたり、敬われるなんて事にならないと良いなぁ……
あっ、胃が痛くなってきた気がする。
♢♢♢
昼の休憩を終え、小島を出発してから早四時間強。
目の前には異常な光景が広がっていた。
かなり遠くの水平線上一面に広がった、黒い靄。
禍々しいその色が、ロッテントーク大陸がそこにあると言っているように見える。
「バステト様、あれ全部瘴気ですか?」
『そうなの。濃くなってるの』
見渡す限りの黒い靄は、全て瘴気らしい。
世界樹が、この世界の瘴気を集めて浄化する役割を担っている。
だけど年々、この世界全体の瘴気の発生量が増えていき、浄化が追いつかず、ロッテントーク大陸全体が現在瘴気に侵されているそうだ。
瘴気に耐えられず、絶滅してしまった種もいるとか。
まだ世界全体まで広がる程ではないが、このまま放っておくと、何百年か後には一つの大陸がなくなるとバステト様が仰った。
「私になんとか出来るのかな……不安だぁ」
『取り敢えず、あの島に今日は降りるの』
私の不安などお構いなしに、バステト様は島に降りた。
今いる場所から、ロッテントークまではまだ距離がある。
この島には瘴気の影響は出ていない様で、まだ木が生い茂っている。
鳥のような鳴き声も聞こえるが、姿は見えない。
兎に角今日はこの島で一泊して、明日ロッテントーク上陸を目指す。
温度調節ローブを着ているから実感は無いが、ヒースさん曰く、この島の気温も零度前後だそうだ。
ロッテントーク大陸は寒いのだろうか?
取り敢えず、海から離れた平らな場所を探し、“予定”スキルで結界を張った。
流石に木が生い茂っている中に入る勇気はない。
生息している生き物を刺激したくないし。
いつも通り、まずはソファを設置し、バステト様とヒースさんにお茶を出し、寛ぎモードに突入。
その間ちゃんとデジカメの充電はしている。
あと、“買い付け”アプリで、ヒースさん用のタブレットも購入した。
今朝貸したのは、私のスキルと連動しているタブレットだったからね。
なんだかんだヒースさんに甘い私。
と言うか、若干貢いでる説ある?
案の定ヒースさんにタブレットを渡したら、こんな貴重なものをポンポン渡してはいけないと怒られた。
それでも欲しかったんだろうヒースさんは、最後には受け取ってくれたけど、「ユエの今後が恐ろしい」と呟いていたのは聞こえていましたよ。
もちろん他の人には簡単に渡したり、私の能力を言うことは無い。
今の所だけどね。
「しかし、空から見えたロッテントークの禍々しさは、この距離からでも肌で感じた。これまでに誰も到達出来ていない理由が良く分かる」
「真っ黒でしたもんね。ヒースさんはくれぐれもバステト様から離れない様にして下さいね」
「心得ている。バステト神、宜しく頼む」
「にゃぁ〜」
ソファで丸くなっていたバステト様が、片目を開けてヒースさんに向かって鳴いた。
分かったよって事かな?
きっとバステト様はヒースさんと一緒にいてくださるだろうけど、イレギュラーで何かが起きたら怖いから、念の為“予定”スキルに登録してみようかな?
ーーーーー
イベント:ジェス・カイルラーが瘴気に侵された場合、都度浄化する
日時 :開始 3152年11月8日 終日
終了 ーー
場所 :現在地
繰り返し:毎日
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は日毎に「350」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
消費魔力高っ!
今までで一番高いんでは無いだろうか?
もちろんイエスだけどさ。
これでヒースさんの懸念事項は何とかなった。
バステト様が側に居て下さるに越した事は無いけど、神様だってお忙しいはずだ。
バステト様が急に神界に帰らなければならないとなったとしても、“予定”スキルでヒースさんが守れる事がわかって良かった。
それに、今繰り返し機能で毎日と設定しているのは、【怪我をしない】と、忘れてたけど【ヤロ・フォン・ブターは私の情報を知り得ない】くらい。
【怪我をしない】は日毎に百。
【ヤロ__】は日毎に三。
【ヤロ__】はそろそろ解除しても良いかなと思うけど、何となく怖いからまだ解除しないでおこう。
日毎にかかる魔力も、二つ合わせて百三程なら、ヒースさんを守る為の予定を毎日組んでも、レベル三十三まで上がった私の魔力なら問題ない。
レベル上げておいて良かったぁ。
カマック様に言われたからレベル上げしたけど、初期レベルだったらそもそもこんな予定組めなかったしね。
カマック様、感謝申し上げます。
よし、この予定さえ組めれば、大体準備はオーケー。
そもそも準備する物は無いんだけどね。
それでも、私の心の準備は出来ていない。
ああ……明日から大丈夫だろうか。
ここまでお読み下さりありがとうございます!
もうすぐロッテントークに上陸します。




