白金貨は言い過ぎ…でも無い?
決定的シャッターチャンスを逃した夕食を終え、片付けも終了。
「はぁ、勿体ない瞬間だった……」
「何が勿体無いのだ?」
「ヒッ!? あっ、ヒースさん、ビックリしました。いえ、こちらの話です」
洗い物を拭いていた私の後ろから、ヒースさんが話しかけてきたので驚いた。
恐らく“予定”スキルで呼び出したキッチンは、また次に呼び出したら、全て綺麗な状態で出て来てくれるだろう。
だが、流石に使ったら使いっぱなしにしておくのに、気が咎められた。
なので、ちゃんと洗い物を拭いて仕舞う所まではしている。
お風呂だってトイレだって、時間に余裕がある時はちゃんと掃除をしている。
まあ、三回に一回位だけど。
「驚かせてすまない。何か手伝うか?」
今日はやけに、ヒースさんが手伝いをかって出てくれるな。
「もう終わるので、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「そうか……」
何だか少し悲しげ?
手伝いたかったのかな?
「今度手伝ってもらえると嬉しいです」
「わかった」
あれ、ちょっとだけ嬉しそう?
あまり感情が顔に出ないヒースさんが、やけに表情豊かだ。
これは、私が気付けるようになったのか、ヒースさんの硬さが抜けてきたのか、どっちだろう?
まあ、どちらにしろヒースさんとの距離が縮まったと言うことで、良いか。
あまり深く考えすぎると、乙女の夢を見そうで危ないけど、そこはパンピーな私では有り得ないと心得ております。
キッチン使用の“予定”時間になったので、シュンッと言う音と共にキッチンが消えた。
夕食時に使用した、テーブルと椅子を仕舞い、出しっぱなしにしていたソファを見ると、既にど真ん中でバステト様が寛いでいらっしゃる。
バステト様を挟むようにヒースさんとソファに座り、夕食時の話の続きをした。
「先ほどお見せしたのは、このスマホという道具なんですけど、これは私にしか使えないのでお貸し出来ないんです。こっちの『デジカメ』と言う道具で“動画”と“静止画”を取れます」
「ほう、その『スマホ』と言う道具も、小さいながらにあの様な光景を残せている事に驚いたが、この様な小さな箱も可能とは」
私が取り出したのは、四万円程とカメラにしては比較的手頃な価格で手に入る、コンパクトデジタルカメラ。
4K動画も取れるし、何十倍ズームも出来ると言う高性能。
もちろん裏に小さいモニターも付いていて、画像確認も出来る。
去年買ったは良いけど、スマホで大体済んでしまう為、買って満足してしまった逸品だ。
何度かは使ったけど。
ただ、鞄には入っていなかったので、“買い付け”アプリで今買った。
「魔道具と似た様な物なんですけど、ここが電源、ここが__」
新品なので説明書も付いているんだけど、いかんせん日本語表記な為、ヒースさんには読めない。
一から使い方を説明しているが、ヒースさんはとても興味津々。
いちいち「ほう」とか「ふむ」といい反応を返してくれる。
ある程度使い方の説明をして、ヒースさんにカメラを手渡すと。
「……今更だが、この道具は如何程するのだ?」
「値段ですか?」
「ああ、これ程の性能なのだ、白金貨では済まないのでは無いか? 興奮のあまり、夢中になってしまったが、貴重な異世界の品だ。私の様なものが易々と使用して良いものでは無いと……」
「えっ? 本当今更ですね」
「済まない……如何程支払えば良いだろうか? いや、払えるだろうか……」
「アハハハハハ!」
「な、なんだ! どうした!?」
いや、可愛いか!
自分が使って良いのか、支払い出来るかどうかで、めちゃくちゃ狼狽えているヒースさんが尊い。
でも、狼狽えるのも当たり前か。
一緒に召還された三人が持っているかも知れないけど、この世界に無い物なんだからかなり貴重だよね?
それに、幾らお金を積んで欲しいと言っても、本来手に入らない物だ。
私たちが普通に使っていたものが、この世界では貴重なのを改めて痛感する。
「笑ってごめんなさい。値段は気にしないで下さい。ただ、ヒースさん以外の人が使わないと約束して下されば大丈夫ですから」
「この様な貴重な物を、良いのだろうか……」
さっきまでは、使う気満々で説明聞いてたのに、急にしおらしくなっちゃった。
若干、デジカメを持つ手が震えているのは気のせいかな?
落として壊しでもしたら、どんな反応をするのか?
いかん、いかん。
ちょっと意地悪いことを考えてしまった。
「もう買っちゃいましたし、私にはスマホがあるので使って下さい。それに、動力源は私がいないと保ちませんから、他の人では使えませんし」
「そうか……そうか、ありがたく使わせて頂く。何か、私に出来る事があれば、遠慮なく言ってくれ」
やっと使う事に納得してくれ、しおらしさから一転、口元を綻ばせるヒースさん。
そして、話している間にオフになっていた電源を点け、モニターを見ながら体を回転させている。
終いには立ち上がり、デジカメをぎこちないながらも前に構え、うろうろし始めた。
「この“モニター”だったか? この絵は本当に鮮明だな。肉眼と変わりない!」
私のニヤニヤが止まらない。
オモチャを与えられた、赤ちゃんのような喜び様だ。
赤ちゃんは失礼か、しかしその位興奮している様子が見て取れる。
一頻りうろうろしたと思ったら、シャッターボタンに手をかけ音が鳴ったので、何か撮り始めたようだ。
後で何を撮ったのか見せてもらおう。
微笑ましいヒースさんの姿を見ていると、ガキンッと言う音がソファの後ろから聞こえた。
またかと振り返ると、今度は巨大なアザラシのような生き物が結界に噛み付いていた。
ってか、結界って噛み付けるもの?
攻撃は弾かれるものだと思ってたけど、アザラシの様な生き物は大口を開けてガジガジしている。
鑑定してみたところ、ビッグシールという魔物の様だ。
噛んでいたと思ったら、今度はヴォゥヴォゥと鳴き始めた。
すると、さっきのロイヤルピギンみたいに、他のビッグシールたちが集まり始めた。
ビッグシール達は、結界に向かって全身で乗っかってきたり、体当たりしたり、噛み付いたり。
攻撃方法はバラバラだが、縄張りに侵入した敵認定はされているだろう。
そもそも魔物だし。
人は捕食対象って事かね?
攻撃音が煩くて、このままでは眠りにつけないよ。
ロイヤルピギン同様、“予定”スキルにビッグシールに認識されないと追加しようと思ったが、二度あることは三度ある。
また違う魔物に囲まれるかもしれない。
ならいっその事、魔物に認識されないと入力してみたところ、追加で五十の魔力を持っていかれました。
流石に【魔物に出会わない____】と“予定”は組まない。
私たちが侵入者だしね。
“予定”を入力し終えると、途端にビッグシール達は散らばっていった。
目の前に今までいた敵がいきなり認識できなくなったのに、魔物は慌てたりしないのね。
この島の魔物が、のんびりしているだけなのかは分からないけど。
私だったら完全に慌てるね。
むしろ探そうとすらするね、怖いから。
「ふぅ、行ったようで良かった」
別に命の危機でも何でもないけど、魔物に囲まれると何と言うか、プレッシャーは感じるよね。
ちょっと緊張するし。
魔物がいなくなると、やはり安心する。
緊張が解けたところで、カメラのシャッター音に気付いた。
「えっ? まさか、ずっと撮ってました?」
「勿論」
「何が勿論ですか! 魔物に囲まれてたじゃないですか!!」
「結界内が安全である事は、分かっていたからな。ビッグシールを間近に収められた」
「何て呑気な!!」
ヒースさんがカメラ小僧になりました。
しかも、撮った画像を見せてもらったら、初心者とは思えないようなアングルから撮ったり、なんとも言えないオシャレな構図で撮られていて、センスを感じる写真ばかり。
手振れ補正機能付きカメラだから、ブレてもいないし。
撮りたい物にピントも合っている。
ヒースさんの隠れた才能が開花したのか?
「ヒースさん……本当に初めて使ったんですか?」
「勿論だ! これ程興味を惹かれた道具は未だかつて無い!」
めっちゃ興奮してるじゃん。
こりゃ、今日は、寝る時も手放さないな。
ここまでお読みくださりありがとうございます!




