素晴らしい光景は撮らざるを得ない
ヒースさんが子供時代の話をしてくれた事により、少し距離が縮まった様な気がした。
って、思ってるのは私だけかもしれないけどね。
とにかく今は、バステト様がお腹を空かせてらっしゃるので、夕食の準備を急いでせねば。
結界を張っているし、室内温度も昨日同様二十五度に設定しているが、温かいものが食べたい。
温かいものと言えば、鍋が思い浮かんだが、私以外のお二人は食べ慣れていないと思う。
むしろ知らないかもしれない。
それに、シチューは昨日も食べている。
ならば、グラタンにしようと考えた。
グラタンなら小麦粉で作ったマカロニを使うから、二人も食べ慣れているだろう。
ちょっと時間が掛かるから、バステト様には一本だけ先に串焼きをお出ししておいた。
グラタンを作ると言ったが、私はホワイトソースの作り方すら知らない。
乙女としてどうなんだと自分でも思うが、知らないものはしょうがない。
諦めは肝心だ。
そこで役に立つのは、“買い付け”で見つけた『グラタンの素』。
これさえあれば、パッケージの裏にレシピを載せてくれているので、それを見ながら作れるのだ!
早速、ストレージ内の“買付空間”を念じると、目の前に対価リストと商品リストが表示される。
対価リストには、以前投入した大金貨は載っていない。
恐らく既に、アプリ内通貨に換金されているからかな?
一千万近く初期投資したし、まだまだアプリ内残高は残っているので、しばらく追加投入は考えていない。
ただ、この対価には価値が計れるものであれば投入可能だから、リサイクルという名目で、使えなくなったものを入れてみるのもアリだな。
今度時間が出来たらやってみようと思う。
と、話は逸れたが、“買付空間”の商品リストに載っている、既に購入済みの『グラタンの素』を取り出す。
これの購入単位は五個だったので、今後もお世話になると思いまとめて四セット購入しておいた。
まずは、パッケージ裏に書かれているレシピを確認。
それから、必要な食材をまた“買付空間”から取り出す。
商品リストに無く、足りなかった物は追加でアプリから購入した。
そして、キッチンを“予定”スキルで呼び出す。
グラタンは少し時間がかかるので、いつもより長めに予定時間を設定した。
「何か手伝う事はあるか?」
「大丈夫ですよ。あっ、ならバステト様のブラッシングをお願いできますか?」
「バステト神へのブラッシングは、馬にする様な作法で問題ないだろうか?」
「毛の流れに沿って頂ければ、概ね大丈夫かと。あっ、背中はゆっくり念入りにお願いします。あまり力を入れ過ぎると怒られます」
「そうか……ユエの動作を思い出しながら、やってみよう」
「ありがとうございます、このブラシでお願いします」
呼び出したキッチンはお風呂同様、中に入ると外は見えないので、ここからではお二方の様子はわからない。
イケメンが神な子猫のブラッシングをするとか、こちらからしたらご褒美でしかないのに、その光景を見られないのが残念だ。
見ようと思えば見られるが、キッチンの予定時間もあるので、料理の手際の悪い私によそ見をしている余裕などない。
雑念を祓い、グラタン作りに勤しむ。
と言っても、作業は比較的簡単。
切った野菜類を炒めて、水や牛乳、グラタンの素を入れて煮詰めた後、耐熱皿に移して、私の技術力では到底活用できない程高機能なオーブンレンジに入れて焼くだけ。
チーズ盛り盛りで。
焼いている間、シンクに溜まった洗い物を終わらせたが、出来上がるまでに少し時間が出来た。
これは、お二方を見に行かねば!
キッチンから出ると、その光景が目に飛び込んできた。
口元が少し緩んだイケメンの膝に、背中を丸めた小さな黒い子猫。
ここからでも既に眩しい。
ブラッシングは終わっていたが、バステト様の背中を撫でているヒースさんと言う構図が堪らない。
これは後世に残さねば。
ポケットからスマホを取り出し、カメラを起動。
まずは動画。
からの、連写。
動画の録画ボタンは、比較的音が小さいから気付かれなかったが、連写で即気付かれた。
「どうした?」
「すみません、あまりに素晴らしい光景だったので、残さずにはいられませんでした」
「ん? 残すとは?」
「あっ、この道具で今のヒースさんとバステト様を写しました。これです」
「!? こ、これは? 精密な絵が動いているように見えるのだが」
録った動画を再生して見せると、かなり驚いた表情をしたヒースさん。
「絵じゃないですよ。ヒースさんとバステト様の様子をそのまま残しました」
「何と言う技術……凄まじいな」
「勝手に撮ってすみません。これからも、ヒースさんとバステト様を撮る事が有ると思いますが良いですか?」
撮った後で許可を取る。
ダメって言われたら泣く泣く削除しますよ。
この世界に著作権があるか分からないけど、勝手に撮られて良い気はしないかも知れないもんね。
「私は構わない。むしろその道具を使わせて欲しいとすら思う」
「えっ? ヒースさん写真に興味あります?」
「私が見た物を、ありのままを写せるのだろう? とても興味がある」
「じゃあ……」
と、私が言いかけたところで、オーブンレンジから焼きあがった音がした。
「あっ、夕食出来たみたいなので、ちょっと見てきます」
オーブンレンジを見に行くと、良い具合にチーズが溶け、グラタンが焼きあがっていた。
香ばしく良い匂いも漂う。
『グラタンの素』様様である。
ただ、オーブンレンジで一度に出来るのは二つ迄なので、先に焼きあがった二つを取り出し、もう二つをセットして焼き始める。
先に焼いたものの一つを私とバステト様で分け、残り一つをヒースさんに出す。
私とバステト様は極度の猫舌だから、二つに取り分けて少し冷ますので丁度良いのだ。
ストレージから白パンとフレッシュサラダも出し、夕食の準備万端。
「バステト様、まだだいぶ熱いので気を付けてください」
「に゛ゃっっ!!」
「あぁ、言った側から……」
フーフーしてお出ししたけど、やはり熱々でした。
恐れ多くも気を付けてくださいと促したが、匂いにつられて食べ始めてしまわれたバステト様。
神だから火傷はしないだろうけど、熱かったようだ。
失礼だが、その姿すら可愛い。
「うむ、美味い」
「熱いけど美味しいですね!」
ヒースさんにも好評で良かった。
某食品メーカー様ありがとうございます。
「あっ、さっきの話の続きですけど、先ほどの絵が動くものを“動画”と言って、絵が止まっているものを“静止画”と言います。どちらも“カメラ”と言う道具で撮影できる物なんですけど、欲しいですか?」
「その道具は、私でも使いこなせるものだろうか?」
「素人の私も使えるので問題ないですよ。ただ、動力源がこの世界にはないので、動力が切れると使えなくなります。私が居れば使える様には出来ますが……」
「異世界の物であるからな。それは仕方のない事か」
「あっ、でも撮った物を形に残す事は出来ますよ。動画は無理ですが、静止画なら、ちょっと嵩張るけど可能です」
「本当か!? ……すまない、興奮してしまった」
ちょっとこれまたビックリ。
ヒースさんがガタッと、椅子から立ちあがろうとしたからだ。
それ程ありのままを移すこの道具がお気に召したのか。
確かに私も、初めてカメラを触った時は楽しくてしょうがなかったのを覚えている。
自分が見た物を簡単に残せるのは、本当に素晴らしい技術だ。
まだこの世界には無いから余計だろうね。
「ふふ、ヒースさんも興奮することが有るんですね。夕食を食べ終えたら、使い方をお教えしますよ」
「……すまない」
えっ?
ヤバい、少し俯いて、顔を赤くしたヒースさんとか激レア過ぎるんだけど!!
それこそ、カメラでこの瞬間を収めたかったよ!
食事中の今が恨めしい!!




