過去の話
更新が遅く、申し訳ないです。。
チョコレートの話をしていたら、ヒースさんが険しい表情になってしまった。
子供の頃から高価な物を食べてたなんて、贅沢だと思われたのかな……
なのに文句言ったからとか?
いや、そんな事で顔に出る程、器の小さい人じゃ無い。
「ごめんなさい、何か嫌な事言っちゃいました?」
「違うんだ、ユエの所為では無い。子供時代には良い思い出が無くてな。それに……」
「ヒースさん……?」
「すまない、気にしないでくれ」
いや、途中で話をやめるとか気になってしょうがないでしょう!
ここはあの言葉を使わせてもらおう。
「ヒースさん、以前の言葉をそのままお返します。『話途中で止めるのは失礼に当たるぞ』」
「!?……そうだな、失礼した」
それからヒースさんは、子供の頃の話をしてくれた。
ヒースさんもとい、ジェス・カイルラー家の家族構成は、お父さん、お母さん、お兄さん、妹さん、ヒースさんの五人家族。
代々武闘派な家系で、騎士団長や近衛隊長などを排出している名門なんだとか。
例に漏れず、ヒースさんのお父さんも今は引退したが、騎士団長を任されていたし、五つ上のお兄さんも現在騎士団長を任されているそうだ。
もちろんヒースさんも、小さい頃から勉強と訓練の毎日で、友人と遊びに行くなんて事は中々出来なかった。
それでも、年に一度は家族旅行をしていて、それが唯一の楽しみだったそうだ。
そんな唯一の楽しみに事件は起きた。
ヒースさんが九歳の頃。
その年の家族旅行は、お父さんとお兄さんは参加する事が出来ず、お母さん、妹さん、ヒースさんの三人で行く事に。
もちろん護衛の兵士も帯同している。
楽しい家族旅行を終え、帰宅途中それは現れた。
巨大なエアレーという、黒い馬のような体型に、額から伸びた二本の角は、角度を自由に変えられると言う特徴を持った魔物が、ヒースさん達一行を襲ったのだ。
その巨体からは想像できない俊敏さで、護衛の兵士は次々に倒れていき、馬車は大破した。
なんとかお母さんと妹さんを馬車から出したが、二人は深い怪我を負ってしまっていた。
それでも逃がそうと、ヒースさんも剣を取る。
しかし、護衛の兵士でも歯が立たない程の魔物に、当時九歳のヒースさんが敵うはずも無い。
角で貫かれることは回避したものの、魔物の体当たりで吹き飛ばされ、大木に体を打ち付けたところで意識を失ったそうだ。
次に目覚めた時は、屋敷のベッドの上。
ヒースさんの目覚めを確認した執事が呼んで来たのは、喪服を着たお父さんとお兄さん。
その場で、お母さんと妹さんの訃報を伝えられた。
しかも、生き残りはヒースさんのみ。
ただ、お父さんもお兄さんも、仕方が無かったのだとヒースさんを責めることはしなかった。
しかし、それが返ってヒースさんを苦しめた。
仕方が無かったのだと言われる事で、より罪悪感が増し、自分が強ければ、誰にも負けない強さを持っていればと思うようになったそうだ。
それに加え、毎晩あの魔物とその光景の悪夢にうなされ、眠ることもままならない。
悪夢にうなされるくらいならと、その日以降、常に剣を振り続け、内緒で屋敷を抜け出し、ダンジョンに潜ってレベル上げを敢行。
その甲斐あって、レベルは上がって行き、最年少で騎士団への入団が決まり、何年かして近衛隊に抜擢、昨年隊長に任命されたという経緯を聞いた。
まさか、ヒースさんがここまで話してくれるとは思わなかった。
もっとライトな子供時代の話しかと思って、聞き出した数分前の私を殴りたい。
そうだよ、普段あんなに感情を表に出さないヒースさんが、険しい表情をする程の子供時代なんだから、辛い事があったって推測できるじゃ無い。
それでも、そんな辛い過去を話してくれた事が嬉しかった。
私はただずっと、話を聴き続ける。
どこか、懺悔を含んでいるように聞こえたから。
「それに、息子にも強さを求め過ぎていたかもしれない。離れてようやく、自分の身勝手を押し付けていたと、わかるとは」
恐らく話しながら、ヒースさん自身、気持ちの整理をつけていたのかもしれない。
弱音を吐くようなイメージが無い分、内に秘めていたんだろうと、この短い付き合いだけど、なんとなく思った。
「そんな、私なんてもっと身勝手ですよ。それにヒースさんを巻き込んでますし」
「ハハハ、良いんだ。今頃息子も羽を伸ばしているかもしれないな」
話しはじめの浮かない表情から、今はスッキリとした顔つきに変わっていたヒースさん。
「無理に過去の話をさせてしまって、スミマセン」
「私のような経験は珍しく無いさ。この魔物の溢れた世界では、当たり前に起きている事だからな」
「当たり前でも、辛い事に変わりは無いですよ……」
「そうだな。だが、私は運が良かった。五体満足で助かったのだから」
「何でそんな前向きに考えられるんですか?」
「こう思えたのも最近だ。以前ユエに、『貴方は強い』と言われた時、何かフッと力が抜けたような気がしたんだ。それまでは、強さに固執する余り、その様に考えられてはいなかったさ」
「いやいや、ヒースさん、そんなの言われ慣れてるでしょう」
「今までは、社交辞令なのか、本心なのか掴めない世界にいたからな。叱責混じりに強いと言われた事は無かったさ」
ああ……自棄になってた時の。
まあ、本心だけどさ、そんなヒースさんを前向きにさせる程の事を言ったか?と自分では納得できないけどね。
「ヒースさんは、自分ばかりを責め過ぎですよ……私なんて、人の所為にしてばかりなのに……」
ヒースさんは、私が王を殴ったのに私の所為にはせず、自分の力が無かったからと、自分の未熟さを悔いる。
私はこの世界に来てから、ほぼ人の所為にしていると思う。
もちろん召喚の儀なんて勝手な事したのは、ワンド国の所為だし、ましてや隷属の腕輪なんてねぇ?
自分の迂闊さも反省はするが、人の所為にしないとやってらんなかったよ。
「それが性分なんだろうな」
「性分ですか……」
そんな話をしていると、今まで私とヒースさんの間で寝ていたバステト様が、ムクッと起き上がった。
「にゃぁ〜」
私の膝に右前足を乗せて、私に向かって鳴かれた。
「どうしました? 喉が渇きました? お腹が空きました?」
私の問いに前足で答えるバステト様は、どうやらお腹が空いたそうだ。
「ふふ、じゃあそろそろ夕食にしましょうか」
「にゃっ!」
「ヒースさん、話してくれてありがとうございました。嬉しかったです」
「嬉しい? そうか、その様にも感じるのか。こちらこそ、感謝している」
そう言ったヒースさんの表情は、晴れやかだった。
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