可愛い顔をしていても魔物
納豆事件のあとは、滞りなく進んだ朝食。
いや、少しヒースさんの顔色はよろしく無かったか。
納豆の残り香が原因?
「ヒースさん、大丈夫ですか? お茶飲みます?」
「すまない、貰えるだろうか。未だかつて、ここまで嗅覚に刺激を受けた記憶はない」
「えっ? そんなにですか? もっとあるでしょう……体臭とか、腐敗臭とか」
「腐敗臭などは慣れている。そのような臭いよりもよっぽどだ」
「嘘!? そこまでですか!? 健康的な食べ物なんですけど……」
「ユエの故郷では一般的だと言うが、それを食すなど、正気の沙汰とは思えん」
「そこまで言います!? 美味しいのに……」
分かり合えませんでした。
そもそも、ヒースさんは匂いを嗅いだだけで、食べてないのに。
でも、食べたら食べたで酷評されそうな気はするけどね。
あの粘り気と豆の食感とか特に。
『そろそろ行くの』
「あっ、スミマセン。急いで片しますね」
バステト様はいつの間にか朝食をペロリ。
それに、私たちが納豆論争をしていたから気付かなかったのか、光を感じぬ間に、本気バージョンに変化されていた。
慌てて食器類や家具を仕舞い準備をする。
バステト様は周りに結界を張り、ヒースさんと私はバステト様の背中に乗らせてもらう。
『じゃ、出発するの!』
「バステト様、今日も宜しくお願いします!!」
「バステト神、宜しく頼む」
そう言って、火山島から空へ駆け出した。
ヒースさんは空の旅にだいぶ慣れたようだ。
納豆も慣れてくれるかな?
あの拒否感からして、無理か。
♢♢♢
途中見つけた島で一度休憩を挟みつつ、およそ七時間程の空の旅をしていると、終わりの見えない海に、ポツンと浮かんだ小さな島を見つけた。
「あっ、今日の予定場所はあそこですかね?」
『そうみたいなの。変化時間もそろそろなの』
「今度も問題なさそうな島ですね」
昨日立ち寄った火山島とは違い、今日は問題のない島に辿り着けている。
目の前に見える島も、規模は小さいものの、特に異常がある様には見えない。
バステト様に降りてもらい、結界を解除すると。
「!? さっぶ!! ハッ、ハッ、ぶぇっくしょん!」
「確かに寒いな」
バステト様の結界の中があまりに快適だったから、油断してローブを纏っていなかったのだ。
急いで快適温度に調節可能なローブを纏う。
「はぁ……あったかい。今結界も張りますね」
「すまない、助かる」
助かると言いながらも、全然寒そうに見えないんだけどね。
ただ、今は氷点下という程の寒さではない。
恐らく一桁台ぐらいかな。
“予定”スキルに入力し、結界を張ると快適な空間の出来上がり。
上から見てわかっていたけど、この島には木が生えていない。
草などはあるんだけど、海岸は岩だらけ。
無人島感が強い。
ただ、生き物は生息しているようで、対岸には生き物が沢山集まっていたように感じる。
この島にいる生き物を騒がせてはいけないと思い、いない方の海岸に降りてもらった。
ゴツゴツした岩場から離れ、草の生えている比較的平坦な位置に移動する。
まだ時間は早いので、おやつにすることにした。
ソファと小さいテーブルを出す。
「バステト様、今日もありがとうございました」
「にゃぁ〜」
バステト様に温かいお茶をお出しする。
もちろんフーフーして冷まして差し上げました。
「ヒースさんも、温かいお茶どうぞ」
「ああ、ありがとう」
比較的大きめの三人掛けのソファなので、私とヒースさんの間にバステト様がいっらしゃる位置関係だ。
「はぁ、あったまるぅ〜」
「温かいのも美味いな」
「あっ、お菓子食べます?」
「菓子?」
「色々あるんですけど……」
ストレージから、お煎餅、ブロックチョコレート、チョコチップクッキー、ポテチ塩味を一種類ずつテーブルの上に出した。
「こっちがお煎餅、こっちがチョコ、こっちが__」
と、一応何かわからないかもしれないから、説明していく。
「……」
「このお茶に合うなら、このお煎餅ですね。どれも美味しいですけど、食べたいのあります?」
「……」
「にゃっ!」
ヒースさんは何故か一点を見つめて無言。
ヒースさんの代わりに返事をしてくれたのは、バステト様。
バステト様は、ポテチを指している。
この世界で特に見たことのない形だからかな?
バステト様の目が、キラキラしているようにも見える。
「バステト様、このポテチですか?」
「にゃっ!」
右前足を上げて肯定のポーズ。
早速、塩味のポテチの袋を開け、バステト様の分は小皿に取り分け、前にお出しする。
残った分を別の皿に開けて、テーブルに置く。
「どうぞ〜。やっぱシンプルな塩味は最高!」
「んにゃぁ〜」
バステト様も美味しそうに、バリバリ音を立てて食べてらっしゃる。
「ヒースさん、どうです? じゃがいもをスライスして揚げたチップス何ですけど、美味しいですよ?」
「……ああ、すまない。まさか高価なチョコレートがこんなにも。しかもクッキーにまで入っているとは、驚いてしまった」
「確かにチョコレートは市場や街で見かけなかった! 貴重なんですね……」
「ああ、砂糖がそれなりに貴重な上、チョコレートの原材料の加工が難しいと聞いたことがある」
「私がいた世界では、当たり前に買えるものでした……」
そうか……こっちでは確かに砂糖も胡椒も高かった。
それをドバドバ使うようなチョコレートはかなり高価になるよね。
飽食の時代と言われた現代日本のありがたみを、改めて実感する。
「当たり前か。ユエがいた国は、武力同士の争いもなかったのだろう?」
「はい、私の国はですが。他の国では今も続いていると思います。改めて、恵まれた国にいたと実感しています」
「そうか。では、このポテチ?を頂こう」
「どうぞどうぞ」
ポテチを一枚とり、パリパリっと食べるヒースさん。
表情はあまり変わらないように感じる。
「芋の旨味と塩が合っていて、食感も良いな」
おっ、少し口元が緩んだ気がする。
どうやら気に入ってくれたようだ。
良かった。
温かいお茶とポテチを食べながらのんびりしていると、ソファの後ろからドンっと言う音が聞こえてきた。
ビックリしてそちらを向くと。
「ぎゃーー!!」
そこには、見上げる程大きいペンギンがいた。
可愛いはずのペンギンも、ここまで大きいと迫力があり過ぎて、全然可愛く感じない。
バステト様は、本気バージョンでもあんなに可愛く凛々しいのに、何が違うんだろう?
神だからか?
そのペンギンは、結界に何度も体当たりをして弾き飛ばされる。
しかも、弾き飛ばされる度、ギュオギュオとよく分からない鳴き声を出している。
その声を聞きつけたのか、複数のペンギンがワラワラと集まって来始めた。
そして最初のペンギンと同じ様に、体当たりを繰り返す。
「見た事のない種類のピギンか」
「ピギン? この魔物の事ですか? ペンギンじゃないんだ。ちょっと鑑定してみます」
「ダンジョンで、エンペラーピギンに出会した事があるが、フォルムなどが似ている」
「鑑定では、ロイヤルピギンと言う、この島固有の魔物みたいです」
「島固有の魔物か。その様な種もいると聞いた事があるな」
「これ、明日までずっと体当たりしてるんですかね……」
今では結界を囲む様に、沢山のロイヤルピギン達が体当たりを繰り返している。
これが続くと、これまた昨日同様熟睡できないんじゃないか?
でも、よくよくこのピギン達を見ると。
「体は大きいけど、瞳はつぶらで可愛い……」
「見た目に騙されてはいけない。この体当たりも、かなりの攻撃力があるはずだが、この結界は物ともしないな」
「結界無しだったら?」
「そうだな、大木位は軽く粉々になっているだろうな」
「マジか……それにしても、可愛い面してドンドンうるさいな!」
今はまだおやつの時間。
これが朝まで続くの?
見えているだけで二十匹以上いるけど、これを全て倒すわけにもいかない。
そもそも、私達が彼らのテリトリーに入ってきたから、攻撃してるんだろうし。
取り敢えず、“予定”スキルの今張っている結界に追加で、【ピギン達に認識されない】を追加してみた。
すると、さっきまでのドンドンと煩かった体当たりがピタッと止み、ロイヤルピギン達が去って行った。
「良かった、離れていきましたね」
「ここまですんなり引き下がるとは……やはり凄まじい能力だな」
「ハハハ、悪用ではないでしょ?」
「そうだな。彼方からすると、私達が侵入者であるからな」
ロイヤルピギンがもうちょっとペンギンサイズで、魔物でなかったら可愛く愛でれたんだけどなぁと、離れていくピギンの背中を見ながら、若干残念さを感じた。
そんな残念な気持ちになりながらも、隣でお腹を出して寝ているバステト様を見る。
はぁ、癒されるぅ。
あんなにドンドンと煩かったのに、それを物ともせずスヤスヤ出来るとは、さすが神である。
しかし、そんな神の丸出しのお腹に顔を埋めて、猫吸いしたい!
「……ユエ、またダラシの無い顔になっているぞ」
「ごめんなさい、あまりにバステト様が可愛らしくて」
そんな可愛らしいバステト様の姿に癒されながら、のんびりした時間を過ごしていた。
ヒースさんにチョコレートも薦め、少し恐縮しながらもブロックチョコレートを一つ食べてくれた。
「甘さが丁度良い。チョコレートとはこのような味なのだな」
「美味しいですよね。子供の頃なんて、虫歯になるからってなかなか食べさせて貰えませんでしたけど、その反動で、大人になってめちゃくちゃ買いましたよ」
「子供の頃か……」
あれ?
ヒースさんの顔が険しくなった。
やばい何か地雷踏んだか?




