緑茶はお気に入り
ヤヴォン国王都出発の日。
前日、商人ギルドへナージンさんへの伝言をお願いしていたから、お見送りに来てくれた。
「本当にこのまま徒歩で向かわれるんですか?」
そうナージンさんに聞かれた。
「はい。徒歩では無いんですが……人気の無いところまでは徒歩で」
「人気の無いところまで……その後の方が気になりますがな」
「アハハハハ……」
笑って誤魔化す。
まあ、完全に誤魔化せて無いだろうけど、あえて突っ込まないのはナージンさんの優しさだね。
「流石にカールが来る事は難しかったのですが、宜しく伝えてくれと言われましたよ」
そう笑顔で話を変えてくれた。
「アハハ、カールさんは流石にですね。ありがとうございます。ヒューマニアに戻ったらまたとお伝え下さい」
「わかりました、お伝えします。しかしユエさん、くれぐれもお気をつけて。何も情報が無いのが心苦しいですが、ユエさんならきっと大丈夫でしょう。ヒース殿、ユエさんを宜しく頼む」
「ああ、承知した」
宜しく頼むって、何故かナージンさんが私の父になった様な会話。
そんな歳じゃ無いし、心配される様な事したかな?
まあ、心配してくれるのは純粋に嬉しいけどさ。
「じゃあ、ナージンさん、行ってきます!」
「お気をつけて。またヤヴォンにいらしたら、王都にお立ち寄りください」
そう言って、ナージンさんとは王都の城門で別れた。
三度目の別れとなると、意外にサッパリ悲しみもなくお別れ出来た。
また会えるからね。
それから歩く事一時間程。
周りに人気の無い森の中に入った。
“予定”スキルで【魔物に出くわさない】をオンにしているので、ここまで魔物とは出会っていない。
バステト様は神なので、もちろんこの予定の対象外だ。
バステト様を肩から降ろし、少し離れる。
パァーッと、また目を開けられないほどの光を出し、本気バージョンの姿に変化された。
やはり神々しいお姿だ。
ついつい拝んでしまう。
『じゃあ、乗るの』
「ヒースさんからどうぞ」
「……ああ」
やっぱりまだちょっと怖いのかな?
少し躊躇いがちにバステト様の背中に乗ったヒースさん。
それでも私をエスコートして乗せてくれたのは流石だ。
「ヒースさん大丈夫ですか?」
「以前よりは心構えができている分、幾分かは」
「良かったです!」
『乗ったの? じゃあ、出発するの』
そう言ってバステト様が上体を起こし、結界を張り駆け出した。
隠匿操作でヒースさんに触れていたけど、一瞬体に力が入った様な気がする。
緊張してるのかも?
あっと言う間に高度は上がり、大きかった森が小さくなっていく。
「ヒースさん、大丈夫です?」
もう一度聞いてみた。
「ああ、だいぶ耐性がついた様に感じる」
「特訓の成果ありですね!」
「……まだ少し恐れはあるが、暫く経てば慣れるだろう」
「確かにこれだけ周りが見えているとちょっと怖いですよね。下とか特に」
下を覗くと、既に地面は遥か下。
どのくらいの高度なのかはわからないけど、軽く二千メートルは超えてるだろうなぁ。
それにしても遮るもののない景色は、一言で言って最高。
森や林が広がっているが、街道もあり、所々に集落なんかも見える。
ただただ過ぎ去る景色を見ているだけなのに、心が洗われる様な気になるのは何故だろう?
「ヒースさん、気持ち良いですね」
風自体受けてはいないんだけど、心地良いのはバステト様のおかげだろうね。
「ああ、この高度と速さに慣れると素晴らしい。本来なら一生体験できる事では無いからな」
以前みたく無言では無く、会話をしてくれた。
本当に特訓の成果が出てるなぁ。
それから進む事三時間ほど。
ヒューマニア大陸の終わりが見えて来た。
早すぎる……
「バステト様、一度休憩します?」
『うーん、そうするの。今日の予定地まで海が続くから一度休むの』
一応、出発する前にバステト様とは打ち合わせ済み。
タブレットの地図アプリを見ながら、ロッテントークまでに通る島を探し、どこの島で夜を越すかも大まかに話し合っている。
今日の泊まる予定の島は、ヒューマニア大陸から四時間近くでいける予定だ。
その前に休憩をしようと、人気の無い海辺に降りる。
もちろん隠匿操作を発動しているので、誰かに気づかれることもない。
「バステト様、お水とお茶どっちが良いです?」
『冷たいお茶が良いの!』
バステト様とは出会ってからずっと、一緒の食事を取っている。
そこで私がいつも飲んでいたお茶を、いたく気に入って下さった。
“買い付け”が解放された時にもまとめて購入していたが、バステト様が気に入ってご所望されるので、追加で大量に購入してある。
そもそも“買い付け”での、お茶の出荷単位が一ケースからだから、自ずと大量になるんだけどね。
バステト様は、何度も変化するのは大変らしく、そのままの姿で休憩中。
なので、一回に摂取する水分も大量だ。
大きな桶に並々注いでお出しする。
『冷たくて美味しいの! 疲れた体にはお茶が一番!』
「フフッ、ありがとうございます」
祖国のお茶を褒められて、なにか嬉しいからお礼を言った。
「バステト神が飲んでいるものは?」
「私の祖国の飲み物です。少し苦味のあるお茶ですが、飲んでみます?」
「一杯頂いても良いだろうか?」
バステト様が美味しそうにお茶を飲むから、ヒースさんも興味を持った様だ。
ヒューマニアでは紅茶が一般的だったけど、緑茶でも少し甘みがある方のものだから大丈夫かな?
バステト様と同じお茶をヒースさんにも出す。
「ほう。サッパリとした味わいだ。喉越しも良い」
「美味しいですよね。もう少し寒くなったら、暖かいのもお出ししますね」
「それはまた味わいたいな」
どうやらヒースさんも緑茶を気に入ってくれた様だ。
「それにしても変わった入れ物だな。透明でありながら、その様な凹凸の形状は見た事がない。しかも持ち手が凹んではいないか?」
二リットルペットボトルを見たヒースさんの感想。
ペットボトルは柔らかいからね。
注いでる時に凹んでいるのを見て、不思議に思った様だ。
「この蓋を取ると注げるんです。蓋をすると溢れません。しかも軽いんですよ。ホラッ」
「なんと……これ程軽いのに透明と……素材の検討がつかない。不思議だな」
ですよねぇ。
ヒースさんがペットボトルを持って、マジマジと見ている。
ヒースさんにペットボトルを見せても、詳しくは聞かれないとわかっているから安心して出せる。
まあ、私もペットボトルの素材は知っていても作り方なんて知らないから、聞かれても説明しようがないけどね。
そんな休憩を挟みつつ、私たちはヒューマニア大陸を離れた。
そして、大凡三時間半ほどで目的の島らしきものを発見したが……
「ここ降りて大丈夫ですかね?」
「……浜辺が辛うじて無事か?」
『そうなの。ほんのちょっとだけなの』
そこは火山が噴火している島だった。
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