どんな鍛え方ですか!?
カールさんとナージンさんとの食事を終え、宿に向かった。
帰り際ナージンさんにかなり怪しまれてしまったけど、バステト様が神様である事まではわからないだろう。
王都出発日が決まったらまた商人ギルドに言伝をと言われていた。
しかし、初めは緊張してしまったけど、本当に気さくなイケオジだったヤヴォン国王。
救えて良かったと心から思えた。
あんな良い人を殺してまで、国王の座に着こうとした王太子。
もしそんな人が王座に着いていたら、この国はどうなってしまっていたのだろうか?
ナージンさんは、第二王子が王太子になるだろうと前に言ってたけど、それも決まったのかな?
今日の食事の席では、流石にその話は出なかった。
第二王子が国王の様な人である事を願うばかりだ。
そんな事を考えながらバステト様と宿に戻ると、一階の食堂にヒースさんの姿を見つけた。
「ヒースさん! ご無事で良かった!」
「ああ、何も言わずに出かけて済まなかった。少し自分を鍛え直してきた」
「鍛え直しですか?」
「……まずは高さに慣れねばと考えてな……」
「っ!?」
やっぱり、この間の空の旅が堪えていたのか!
そりゃ初めてだったら、あの高度とスピードは怖いよね。
それでもヒースさんなら大丈夫かなって思ってしまったけど、克服しようとしてたとは……
それにしても、どうやって鍛えたんだ?
「どんな鍛え方をしたんですか?」
「……聞かないでくれ」
「えっ? そんな?」
「……」
ヒースさん俯いちゃいましたよ。
逆に気になるじゃん!
高さになれるってどんな鍛錬したんすか!
でもこの感じ、いくら聞いても教えてくれなさそうだな。
無理に聞くのはよしておきました。
「出発はいつにします?」
「……済まない、もう少し鍛え直しても良いだろうか?」
「えっ? まだ鍛えるんですか?」
「自分の脆弱さを知ってしまったのでな」
「……どんだけストイックなんだ!」
突っ込まずにはいられなかった。
だって、どんなかは言わないけど、生真面目なヒースさんがする鍛錬なんだから、かなり過酷なものだったんじゃないかと軽く推測できる。
それなのにまだやるって言うんだから、自分に厳しすぎるよぉ……
「バステト神にも申し訳ないが、もう少し時間をもらっても良いだろうか?」
「にゃぁ」
食堂にいる誰もが、バステト様を本当の神とは思はないだろうから、ヒースさんがバステト神と言っても騒ぎなど起きない。
そんなバステト様は、まぁ良いよぐらいのニュアンスのにゃぁに聞こえた。
バステト様が良いなら私は何も言う事は無い。
「ヒースさん、無理だけはしないでくださいね!」
「ああ、三日後には戻る」
「気をつけて行ってきてください!」
♢♢♢
「……」
ヒースさんに気をつけてと言ってから三日後。
今私の目の前には、かなりズタボロな姿のヒースさんがいる。
その姿を見て言葉が出なかった。
服はボロボロ、綺麗だった髪もバサバサ。
全体的に薄汚れて頬も痩けているし、隈もスゴイ……
「……だから、こんな短期間でどんだけ過酷な鍛え方したんですか!」
「ハハ、自分自身でもやり過ぎたと思ったな」
「で、どんな方法で鍛え直したんですか?」
「……聞かないでくれ」
「結局教えてくれないんすか!」
そこまでやつれる鍛錬内容が、どんなものか気になってしょうがないじゃん!
鳥にでも乗ったのか?
まあ、そんな事無理なのはわかってるから、結局謎のままだよ……
「本当に頑固なんですから……とにかくご無事で何よりですよ。で、その鍛錬の効果は?」
「ああ、今後の移動に支障をきたさない様にはなっただろう」
「そうですか、お疲れ様でした! 後その汚れ落としましょうか?」
「済まない、頼む。ここでは何だな。部屋へ上がろう」
そう言って、ヒースさんの部屋に上がらせてもらった。
ヒースさん全体に【クリーン】をかけ、着いた汚れを落とす。
バサバサだった髪も、何故かツヤツヤしている。
綺麗なヒースさんに戻った。
体に怪我はしていないみたいだから、ちゃんと“予定”スキルが発動してくれてた。
良かった良かった。
でも、服はボロボロだなぁ……
「汚れはこれで良いとして、服はどうします? 明日買い出ししてから出発しますか?」
“買い付け”で購入しようとも思ったけど、そう言えば私、メンズ服買った事がなかったよ。
父へのプレゼントでボクサーパンツやワイシャツ位なら買った事はあるが、父は中肉中背、高身長でガタイの良いヒースさんが着たらピッチピチになっちゃう。
ピッチピチのそれを着ているヒースさんを妄想しちゃって、鼻血吹きそうだったのは誰にも言えない。
「いや、少ないが替えはあるから大丈夫だ。ロッテントークに滞在中にでも購入するさ」
「あっ、でも通貨が違う可能性がありますよ?」
「……そうだったな、失念していた。向こうには一ヶ月ほど滞在と言っていたか?」
「はい、カマック様は一ヶ月位毎日頼むって仰ってましたね」
「そうなると、今手持ちの資金では心許無いな。済まないが出発は明後日でも良いだろうか? 明日換金も含めて準備を終わらせる」
「大丈夫ですよ。バステト様も良いですか?」
「にゃっ」
私の膝で丸まりながら、右目だけ開けてこちらを向き鳴いたバステト様。
まあ、大丈夫って事だろう。
ダメだったら、こんなにのんびりしてらっしゃらないだろうしね。
「あっ、ヒースさんの分の食糧は私が購入済みなので、買わなくて良いですからね!」
ちゃんと言っておかないと、ヒースさんの荷物が増えてしまうし、余計な出費をさせてしまうからね。
付いてきてもらうんだから、食糧費ぐらい私に持たせてください。
もちろん、出発時にはヒースさんの荷物を私のストレージに入れるつもりだ。
「いつも済まない、助かる」
「いえいえ、こちらの方がお世話になってますから」
明後日の朝、宿の食堂で待ち合わせをして、ヒースさんの部屋を出た。
しかし、今日も何の色気もない会話だったな……
そもそも、未だかつて色っぽい会話をした記憶はない。
二人で移動しても、ダンジョンに潜っても二人きりなのに何の進展もない。
いや、別に進展を求めているわけではないんだよ。
ただ、こうも意識されないと女としてどうなのかと心配になるんですよ。
一応ね、日本にいた時は彼氏だっていたんですよ。
この世界に来る一年前には別れていたけどさ。
まあ、男女で何にも過ちが起きないのは、私に色気がないのが一番の原因なんだろうけどね。
しかし、ロッテントークでのカマック様のお願いを終えたら、ヒースさんはどうするんだろ?
まだ強くなる為にダンジョンに潜るのか?
何にしろ、この大陸に戻ってきた時がヒースさんとのお別れになるんだろうなぁ。
今からこれを考えるのは早い気がするけど、既に寂しくなって来ちゃったよ。
そして私も何をしようか?
お読みくださりありがとうございます!
少し更新が遅くなりますが、引き続きどうぞ宜しくお願いします!




