勘が良いのも考えもの
ヤヴォン国の王都に入り、商人ギルドへ向う前に宿を取りに行く。
ギルドでナージンさんへ居場所を伝えるには、先に宿を取っておいた方が良いからね。
前回ナージンさんが取ってくれたラグジュアリーな宿ではなく、一泊銀貨一枚夕食無しの宿を取った。
もちろん、バステト様も一緒に泊まれる宿だ。
いつもより少し高めの宿だが、その前に入った宿ではバステト様を見て断られてしまった。
うーん、神様だけど見た目が子猫だから、こればかりは仕方が無い。
前に村で宿泊する際、カバンに隠れてもらった事が、人間の都合を押し付けてしまったと後悔したんでね。
私が合わせるべきだなと、悔い改めました。
それから商人ギルドへ向かったのだが、ヒースさんは宿で先に休むと言ってギルドへは同行しなかった。
空の旅がかなり堪えたのかな?
ロッテントークへの空移動、大丈夫かな……
そんな心配なヒースさんを宿に残し、やって来ました王都商人ギルド。
相変わらず大きく立派な構えをした建物。
未だに緊張するが、奥の受付に行き、ギルド証を提示しナージンさんへの言伝を頼んだ。
きっとナージンさんから連絡があるだろう。
「ユエさん、お久しぶりです」
ナージンさんへの言伝をお願いした翌日、泊まっている宿にナージンさんが訪ねてくれた。
しかしナージンさん、情報を得るのが早く無いかい?
二、三日は待つかなと思ってたのにもう来てくれたなんて、ちょっとビックリ。
とても忙しい人なはずだよね?
忙しい中訪ねてくれたのは嬉しいんだけど、なんだか申し訳なくなってしまった。
「ナージンさん、ご無沙汰してます。お忙しいのになんか、スミマセン……」
「いやいや、良いんですよ。ユエさんがいらしたなら、何をおいても参上しますよ」
「そんな……ありがとうございます」
何をおいてもって、言い過ぎじゃ無い?
まあ、ご挨拶って事だよね。
「ユエさんが戻られた事をカールに伝えるので、食事の予定は後日となりますが宜しいですかな?」
「大丈夫ですよ。あっ、もし可能でしたらこの方もご一緒しても良いですか? 難しい様でしたらヒースさんにお願いしますが」
肩に乗っているバステト様を見る。
「先ほどから気になっておりましたが、綺麗な猫ですな。それでは、室内では無く庭園での予約を進めます」
「良いんですか!? ダメ元だったんですけど……」
「何故か、その猫は同席した方が良い様な気がしましてな。カールへも伝えましょう」
「ありがとうございます!」
まさかの食事の同席オーケーでした!
ナージンさんもバステト様の威光に気付いたのかな?
何にしてもバステト様がいて下さるだけで心強い。
また来ますと言ってナージンさんは帰っていった。
この事をヒースさんに伝えようと思って、隣の部屋をノックするも反応がない。
あれ?
ヒースさんお出かけかな?
まあ、食事の予定が決まってから伝えても良いか。
何かあれば訪ねてくれるだろうしね。
と思っていたけど、暫くヒースさんに会う事は出来なかった。
どうやら宿に戻っていない様なんだよね……
どこに行ったんだろうか?
流石に何も言わず、ワンド国に戻ったって事はないだろうけど、何かあったのかな?
もしかしたら、王都の冒険者ギルドで依頼を受けているのかもしれない。
依頼を受けているなら伝言があっても良いかなと思ったけど、急な依頼だったら、私に伝える余裕ないかもしれないもんね。
空の旅の件もあったからちょっと心配だけど、きっと大丈夫だよね?
♢♢♢
「はっ、初めまして! ユエと申します」
ヒースさんに会えないまま、私は今ヤヴォン国国王フランツ・カール・ヤヴォンと対面している。
しかも、以前ナージンさんが取ってくれていたラグジュアリーな宿の庭園で。
確かに人目に触れず、高貴な方が使える場所は限られるもんね。
この宿はセキュリティもしっかりしているし、最適って事だ。
「そんな畏まらないでくれ、今はただのカールだからな」
「そう言われましても……」
なかなか気さくに話して下さるが、私はもう萎縮しちゃってしょうがないよ。
なんせ庶民の格好をしていても、キラキラしてらっしゃるんだもん。
ナージンさんの見た目からして五十代かなと予想していた国王。
だが、目の前にいるのは、四十代前半に見えるシュッとしたイケオジだ。
そう言えば、ナージンさんの本来のシュッとしていた姿も、四十代くらいに見えてたわと今更。
「ハハハ、ユエさん、カールは作法など気にしませんから、安心して食事を楽しんで下さい」
ナージンさんはいつも通りの商人ナージンさん。
少しホッとする。
それに、私の膝にはバステト様が丸まっている。
失礼だが、少し撫でさせてもらい自分を落ち着かせる。
「スミマセン、緊張しちゃって……」
「しかし、ナージンから聞いてはいたが、見事な猫だな。装飾も素晴らしい」
「先日、森で出会いまして……懐いて下さった様です」
「ふにゃぁ〜」
欠伸をしたバステト様。
ああ、癒される。
そんなバステト様に緊張を解され、食事を進めていく。
私に配慮してくれたのか、コース料理などでは無く、一人一皿好きな料理を提供してくれた。
「ユエ殿には本当に世話になった。改めて感謝する」
そう言って、デザートを食べていた私に頭を下げたヤヴォン国王。
「い、いえ、いえ! 大した事は……したのか? あっ、感謝を受け取ります。こちらも大金を頂きましたので、ありがとうございました」
そうだよね。
人の命を救ったんだから、大した事をしたんだよね。
大した事してないなんて言ったら、その人の命が大した事ないって言ってる様なもんだもんね。
救えた本人を目の前にしたら、なんだかその感謝をすんなり受け取れた。
「フフッ、こちらこそだ」
「イケオジ……」
「ん? ユエさんイケオジとは何です?」
「あっ、いえ、こちらの事です。アハハハ」
クスッと笑ったヤヴォン国王の笑顔がこれまた美形で、つい声が出てしまった。
しかし、ワンド国の国王とえらい違うなぁ。
絶対こんな非公式に庶民と会う様な人じゃないよね、あのワンド国王は。
私の勝手な思い込みかもしれないけどさ。
「ところで、本当にロッテントークへ行かれるんですか?」
そうナージンさんから問いかけられた。
「はい、ヒースさんと合流したら行ってきます」
「本当の話だったのか……ユエ殿はどの様な手段で向かうんだ? 良ければ手配を依頼しようか?」
「あっ、いえ! もう手段はあるんで大丈夫なんです。お気遣い、ありがとうございます」
「そうか……過酷な旅になるだろうから、必要な物が有ればナージンに言ってくれ」
「ありがとうございます。ただ、ロッテントークへは三日程で……っ!!」
「ユエさん……三日?」
ヤバイ……ナージンさんが何か勘付きそうだ!
「いえ、三日程あれば準備出来るかなぁーって……ハハハハハ……」
「……」
「そうか、無理は禁物だぞ? 辿り着くにも、上陸するにも危険な大陸だからな」
ナージンさんは、目を細めてかなりジト目で見てくる。
一方、カールさんは私を心配してくれている様だ。
カールさんには創造神様の加護のこととか伝えてないって事よね?
約束守ってくれてて嬉しいですが、ナージンさん、その目はやめてください!
なんかナージンさんから、「まさか、まさかな」なんて声が聞こえた様な気がしたけど、聞こえないふりをした。
「では、またこの国に来たら声をかけてくれ」
「今日はご馳走様でした。楽しかったです、また是非!」
終始気さくな国王の印象は頗る良い。
国王としてでなければ、また是非食事をと思うくらいだ。
若干最後の方、国王って忘れるくらいには話しやすかった。
カールさんはこの後まだ少しここに残るそうなので、挨拶をし、ナージンさんが宿の門まで送ってくれた。
「ユエさんのその猫に対する敬い方と良い……まさかと思いますが、その猫は……」
「ハハハ、ナージンさん、何の事です? 可愛い子猫でしょう?」
「んにゃあ〜」
「……」
そう言って顔を洗う仕草をするバステト様。
それを見てまた無言になるナージンさん。
勘が良いってのも、気苦労が多そうだなって思ってしまった。
あっ、今回は私のせいか。
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