あっと言う間に一ヶ月
隷属の腕輪をつけられてから、早いもので一ヶ月が経つ。
朝の鐘(六時頃)がなる前に第二訓練所へ行きスーに魔法の指導を仰ぐ。
昼の鐘(十二時頃)がなる前に第三倉庫へ行って積み上げられた魔石の鑑定。
夕の鐘(十八時頃)がなると仕事を終え食堂で夕食を取る。
これが私の一日。
この世界は地球と違い、週七日ではなく週六日。
水から始まり、火、土、風、聖、無と、魔法属性で曜日分けされている。
一般的に無の日が休みとされていて、私も無の日以外は毎日同じルーティン。
私以外の人は、昼の鐘が鳴るとお昼を取るようだけど、私にお昼時間は設けられていない。
もちろん毎日スーが魔法の練習に付き添うわけではなく、二日に一回二時間程度教えに来て、それ以外は自主練せよと帰って行く。
魔法を放つには魔力を練って、行使する魔法のイメージを明確にし規定の呪文を唱えるらしいんだけど、魔力や魔法に慣れていない私には難しく、初めは魔力を練るという操作が全然出来なかった。
エヴァに初め聞いた丹田を意識して魔力を出すけど、練るってよくわからないんだよ。
それでも何度も何度も私の魔力が切れるぐらい練習してようやく出来る様になった。
スーはかなりのスパルタで、ついて教えてくれる時には、何度MPを0にして気絶させられたこか。
あの目眩と吐き気は本当に辛い。
それでも、レベルは1のままでも魔力量は上げることが出来た。
そんなスパルタのスーから教わった魔法は、聖魔法初級のヒールとキュア、中級のハイヒールとアンチドーテ。
ヒールとハイヒールは外傷を癒す魔法、キュアは軽い状態異常を解除する魔法、アンチドーテは解毒の魔法である。
初めてヒールの魔法が成功した時はかなりテンションが上がった。
自分の指先を切ってやれって言われて切った時は涙が出たけどね。
でも自分の体を傷つけるとあってか、回復のイメージが掴めてすぐに発動する事ができた。
あの、傷がみるみる治っていく光景は神秘的だった。
そんなこんなで魔法の練習はキツいながらも順調。
午後の魔石鑑定はある意味キツかった。
そもそも初日の作業説明以来ルーベンは三日に一回くらいの頻度で顔を出して、私によって鑑定、選別された魔石を持っていくだけ。
魔石の鑑定は第三倉庫に積み上げられた木箱の中に大量に入っている魔石を、ランク別、属性別に分けるという地味な作業。
この魔石というものは魔物という人を襲う生き物の核なんだとか。
魔物にも強さのレベルが存在して強い個体の魔石ほど内包魔力量が多いそうだ。
鑑定すると適している属性とランクがわかるからそれを分けるという事を延々一人で時間までこなす。
そう、孤独との戦いが一番キツかったのだ。
しかも次の日倉庫へ行くとまた木箱が積み上がっているという謎システム。
どうやら、城から派遣した騎士や兵士達が倒した魔物の核は鑑定されず、まとめてこの倉庫に集められるらしい。
これに終わりなんてないんだろうなと思った。
ただ、午後の時間は自由に自分のペースで仕事ができる事はありがたかった。
たまにストレージからお菓子を出して食べていてもバレない。
そんなこんなであっと言う間に一ヶ月。
だが、この一ヶ月こんな気絶や孤独と戦うだけのルーティンを毎日続けていたわけではもちろんない!
この国を脱出する為に“隠匿操作”スキルを完全に使いこなせるようになり、気配を消して食糧庫へ忍びこみ、毎日ちょっとずつ食材をくすねていた。
一気に持っていくと騒動になりそうだから毎日ちょっとずつね。
罪悪感なんて皆無だね!
ここで大変役立ってくれたのが、“ストレージ”と言う亜空間収納庫スキル。
これがまた夢の様なスキルでした。
少女時代に憧れた有名なあのポケットのような仕様。
無限と思える収納量に、《経過空間》《停止空間》と言う時間が経過する空間と、時間が停止する空間の両スペースを使用する事が出来るのだ!
使い方も簡単。
収納したい物に触れ、どちらかの空間に入れたいと思えば大きな物でもOK!
なのでストレージの《停止空間》には暫く生きて行くには問題ない分ぐらいの食料を溜め込む事が出来た。
もちろんこの一ヶ月に私が一番恩恵を受けたのは言うまでもない“予定”スキル様である。
この世界の事を何も知らない私に知恵を授けてくれたのも予定スキル様。
ーーーーー
イベント:この世界の一般常識が載った書籍を借りる
日時 :開始 3152年6月6日 12時00分
終了 3152年6月6日 16時00分
場所 :現在地
繰り返し:なし
アラート:なし
ーーーーー
無の休みの日に、こんな都合の良い予定を組んでみたら、実行出来たんですよ!
初め、書籍を取り寄せるとか、書籍を貰うとか入力してみたけどNGで、借りるにしたら実行出来た。
もちろん時間指定しないとダメだった。
レンタルだからね。時間になると書籍は消えていった。
この予定で借りられた書籍は二冊。
一冊目は「シーファの歴史と実情」。
この異世界の名前が『シーファ』らしい。
内容は、
・一年は十二ヶ月、一月三十日で、五週にわかれ、一週六日
・この世界の大陸は五つ、それぞれの大陸の特色
・現存している種族名とその特徴
など、この世界のことが沢山載った本だった。
二冊目は「就職の薦め」。
就職……なぜ?と思いながら本を開き目次を見ると納得。
ステータスに表示される【職業】の一覧から始まり、その職業の特色、補正内容、それによるおすすめ職業、適さない職業、実際の仕事内容、平均給与などなど細かく載っていた。
その本には他にも、大手職業組合の商人ギルド、冒険者ギルド、鍛治師ギルド、薬師ギルド、教会などの組織図や仕事内容なども詳しく載っていた。
しかも、この大手職業組合に加入すると身分証を発行してくれるとか、その組織別の入会金や年会費も事細かに記載してくれている素晴らしさ。
この本だけあれば良いんじゃない?って思うほど素晴らしい本だった。
この二冊のおかげで、この世界の一般常識は身についたのではないだろうか?
あと脱出する為に必要なのは身分証とお金。
身分証は、気配を完全に消して深夜に城から抜け出し、冒険者ギルドで偽名で作成した。
冒険者とは、護衛や魔物討伐など、主に身体を張った様々な依頼を受けてお金をもらう職業である。
そんな身体を張った職業に向かない私が、何故冒険者ギルドで身分証を作ったかと言うと、入会金が一番安く、深夜にも営業してくれていたからだ。
本当は商人ギルドに加入したかったけど、入会金が高い上に、深夜は営業せず、無の日は身分証発行の受付をしてない為、断念せざるを得なかった。
入会金?
ちゃんと払いましたよ、日本円相場で一万円程。
エヴァのお財布から拝借して。
もちろんこっちの世界でも窃盗という名の犯罪だろうけど、知ったことではない。
しっかり魔石の鑑定という働きをしているのに給金は一切もらっていないのだから、この城の人から貰ってもいいよね?という考えだ。
話は逸れたが、身分証は偽名でもあっさり作ることができた。
ただ、名前のチェンジは出来ないし、専用カードを作る際に私の血を一滴垂らしたから複製も出来ない。
偽名は母の名の『ユエ』。
聞き覚えのある名前でないと呼ばれた時に反応できないからね。
冒険者ギルドにも技量によってランク分けがある。
一番下はF、それからE、D、C、B、A、 S、SSという順で上がっていくそうだ。
FとEは新人、DとCは中堅、BとAは一流、Sは英雄、SSは勇者職みたいなものらしい。
私はもちろん一番下のF。
きっと一生上がらない気はする。
それに他国へ出られたら商人ギルドに登録したいと思ってるし。
とりあえず身分証の確保もOK。
後は大事な『お金』のみ。
これはこの国の国庫から頂くつもり。
もちろん慰謝料という名目で。
勝手に異世界に呼ばれた挙句、隷属の腕輪を無理やり付けられたんだよ?
こりゃ慰謝料たんまり案件でしょ?
この慰謝料も予定スキル様でいただく予定です。
予定は確定。
実に素晴らしい!
ここまでお読み頂きありがとうございます!
一応まだ続きます。