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是非とも同じくらいの愛情を

賛否あると思います。



 クリフ君の事で頭がいっぱいで、宿までどうやって帰ったか覚えていない。

 

 次の日もクリフ君に会いに行き、ブラッシングをしたりスキンシップしたけど、やはり綺麗な毛並みのあの子も一緒だった。

 馬って恋人同士はこんなに一緒にいるものなのかな?

 基準がわからないけど、彼らは幸せそうだ。

 妬ける。

 私の方が先にクリフ君と知り合ったのに!

 いや、馬相手にと思うだろうが、妬けるものは妬けるんだ!


 でもこの子、大人しくて良い子なのよ……

 私が近付いても警戒したりしないし、触らせてもくれた。

 嫌がる素振りも見せず。

 クゥゥ、良い子を見つけたのかクリフ君は。

 君が幸せなら良い……よ。


 そんな後ろ髪惹かれる思いで、その日も宿に戻ったが一日中クリフ君の事ばかり考えてしまう。

 昼も夜も何を食べたか覚えていない。


 そして、商人ギルド長と約束した日の昼。

 商人ギルドへやって来た。

 今日は一人だ。

 ヒースさんは明日からの為にやる事がいっぱいあるとか。

 そりゃそうか。

 思えば、毎回私の予定に付き合わせてるんだよね。

 申し訳ない。


 商人ギルドの受付でギルド長との約束がある旨を伝え、ギルド証を提示する。

 すると、「こちらです」と三階の一室へ案内された。

 案内してくれた職員がその部屋のドアをノックし、私が来た事を伝える。

 すると、中からは女性の声が聞こえた。

 ドアを開けてもらい、中に入ると。


「いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは、四十代半ば頃のスレンダーな女性だった。

 ただ、印象が少し薄いというか、ギルド長って感じがしない普通の職員さんっぽい。

 でも、そんな事言えないし顔に出してもいけない。

 ギルド長になられる方は、そう言う所にもきっと敏感だ。


「失礼します。初めまして、ユエと申します」


 先手で挨拶をしておく。

 取引先と話すと思って対峙しよう。

 名刺がないからちょっと違和感があるけど。


「まぁ、そんな畏まらないで。私はこの商人ギルドエンデル支部の長を任されているシャーリーよ。どうぞ座って頂戴」


 ほっ、堅苦しくはなさそうだ。

 けど、これはトラップかもしれない。

 まだ気を緩めてはいけない。


「失礼します」


 そう言って座ると、案内してくれた職員さんは退室して行った。


「今お茶を用意しているから待ってね」


 えっ?

 ギルド長自らがお茶を入れてるんだけど?

 普通さっき出て行ったような職員さんが一度退室して、お茶を持ってくるとかじゃないの?


「そんな、ギルド長自らとは……恐縮です」

「ふふ、私のお茶は評判良いのよ」


 確かにとても良い匂いがする。

 紅茶の香りかな?

 でも他にも何か知っている匂いが混じっている。

 甘酸っぱいようなフルーツの香り、何だっけ?


「あっ、あんずか」

「あんず? それは何かしら?」

「あっ、すみません……アプリコットですか?」

「まぁ、知っているの? まだこの街では流通してなくてね、良ければ感想を聴かせて?」

「私で良ければ」


 そう言って、出来立てのお茶を出してくれた。

 猫舌なので、フーフーしながら頂く。

 

「ん! アプリコットの甘酸っぱい香りと味がしっかり感じます。紅茶の苦味とあいますね。少し果肉を入れても良いかもしれません」


 なんて、知ったかです。

 日本で飲んだ事があるから味の予想は出来た。

 しかも細かく刻んだドライフルーツ入りの物を。

 少しでも果肉が入っているだけで、高級感が増すのは何故だろうね。

 

「うん、美味しいわ。香りだけ楽しむ物と、食感が加わった物二種類あっても良いわね。ありがとう」


 一口紅茶を飲んで微笑んだギルド長の顔は、とても穏やかだ。


「さて、リリー達の話をしましょうか」


 リリーとは、あの綺麗な子の名前かな。

 穏やかだったギルド長の顔が引き締まる。

 戦闘モードか?


「単刀直入に言って、私は手放す気はないわ」


 ですよねぇ。

 

「私も出来ればクリフ君と別れたくはありません。ですが、とても仲の良い二頭を見ていたら引き離すのも忍びなくて」

「そうなのよね。私も毎日お世話しているから、あの二頭の仲睦まじさは感じていたわ」

「リリーちゃんは穏やかですよね」

「そうなの、うちの子はね____」


 ギルド長の琴線に触れてしまったようで、マシンガントークが始まった。

 全然私の話を挟ませてもらえない。

 いかにリリーちゃんは賢いだとか、目が澄んでいるだとか、毛並みが綺麗だとか。

 ギラギラした目でこれでもかと熱弁してくる。

 はぁ、これは無理だな。


「あのギルド長! ちょっと宜しいですか!?」

「あら、ごめんなさい。リリーの事になるとどうもいけないわ」


 ギルド長の話を遮り、声を掛けると我に返ってくれたようだ。

 私はリリーちゃんの話でもうお腹いっぱい。


「リリーちゃんの事はわかりました。今後の事です。私も出来ればクリフ君とリリーちゃんを離したくはありません。断腸の思いで……クリフ君をギルド長にお預けしようとも考えました。どう思われますか?」

「そうね、クリフも賢く穏やかだからリリーには良い相手なのよね。ちょっと妬けるけど。でも二頭を離れさせて、リリーが悲しむ姿も見たくないのよね。クリフを共に世話するのは問題ないわ」


 妬けるところも、馬が悲しむ姿を見るのが嫌なところも共感できる。

 あとはどちらが引き取るかって事だけど、私には二頭を幸せにする環境作りが難しい。

 それならお任せしようと思うのは、無責任かな?

 

「リリーちゃん同様クリフ君へも愛情を注いで頂けますか?」

「努力するわ。それにクリフを邪険に扱ったりなんかして、リリーに嫌われるなんて考えられないわ!」


 ああ、そっちね。

 本当にリリーちゃんファーストなのね。


「ギルド長、いえ、シャーリーさん。クリフ君をお願い出来ますか?」

「幸せにするわ」


 どこの娘を送り出す母か!

 でも、そんな感じ。

 

 それから二人で牧場に行き、伝わるかわからないけどクリフ君とリリーちゃんに話した。

 心無しか、クリフ君の顔に寂しさが見えたのは気のせいじゃないと信じたい。

 

「クリフ君、今まで連れ回したり、振り回してごめんね……リリーちゃんと……ゔっ、幸せになって……ねっ」

「ヒヒィーン!!」


 ダメだった、クリフ君を前にしたら涙が止まらない。

 クリフ君の首に抱きつき、泣きながら伝える。

 また来るからねと伝えて、あまり長く居ると私が離れられなくなるから頑張って牧場を後にした。


「月に一度、手紙を送るわ。長めに滞在する街では商人ギルドに居場所を伝えてね」

「……わかりました」


 グチャグチャになった顔を拭きながら答える。

 ギルド同士では通信用の魔道具があるそうなので、有料で手紙を送る事ができると聞いた事がある。

 是非ともクリフ君の様子を教えて欲しい。

 本当は写真があれば良いんだけど、そうもいかないのがこの世界の悲しさ。

 インスタントカメラなんて渡したら大変な事になりそうだから断念。


 あぁ……寂しいよクリフ君。

 だから、この街を離れるまでは毎日通うからね。




ここまでお読み下さりありがとうございます。

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