ちょっと気まずい
ようやく十五階層到着。
そこは一面雪に覆われている階層だった。
ローブのお陰で寒くはないから、マイナス三十度を下回ってはいない様だ。
ヒースさんも事前に、厚手の外套に着替えていた。
常に吹雪いているため、流石に仮眠を取る時はテントが必要だな。
一応ナージン情報に持てる者はテントをと書かれていたから、用意はしてある。
ただ、一人用なんだよね。
ヒースさんに聞いたら、彼は嵩張るから持ってきてないそうだ。
狭いテントで二人……距離が近いんじゃないか?
まだそんなシチュエーションにもなってないのに、一人妄想してテンションが上がってしまった。
「大丈夫か?」
「ゔっ、スミマセン。大丈夫です」
「では、進むぞ」
この階層では《スノウクァール》と言う豹型の魔物や、《スノウウルフ》と言うオオカミ型の俊敏な魔物が多かった。
しかも、それぞれ少し強い個体のリーダーがいて、統率されていたのは厄介だった。
何度となくドンッされて、“予定”スキルには数え切れないほど感謝した。
それでも、ドロップアイテムが魔石だけでなく、爪や牙なんかも落としていたから、洞窟タイプの階層よりも収入は増えそうだ。
そして、外も暗くなり、休息を取る時間になった。
吹雪の中テントを建て中に入ると、思った以上に広かった……
二人入っても密着なんてしない。
建てながら薄々感じてたけど、通りで銀貨二枚とちょっと高かった訳だ。
流石に二人横になるとしたらキツイけど、一人が横になり、一人が見張るなら何の問題もないくらいのスペース。
まあ、体格の良いヒースさんには狭いだろうけどね。
「明日はとうとう地上に戻れるんですね」
「そうだな。十五階層のボスを倒してからだがな」
「はい。でも、ヒースさんはこの後もっと下の階層を目指すんですよね?」
「ああ。だが、一度地上に戻って準備をしてからだな」
ですよねぇ。
このまま続けて潜るには、食糧とかアイテム系が心許ないよね。
それにしても今更だけど、ヒースさんはマジックバッグを持っていない。
食糧とかそこまでたくさん持てないと思うけど、大丈夫なんだろうか?
「ヒースさんはマジックバッグは持たないんですか?」
「便利だが、それに頼りきりも良くないと思ってな。今は、出来るだけ道具に頼らずレベルを上げると制約をつけているんだ。ただ、ユエには食糧面で頼り切ってしまっているがな」
「……ヒースさん、色々反則ですよ……」
なんだこの人!
急に頼りにしてるとか言いやがって!
しかも、どこまでストイックなんだ!
知らずに制約付けてたなんてさぁ、ストレージに頼り過ぎの私は情け無いよ。
けど、今更ストレージ使いません、予定スキル使いません、なんて私が出来るわけないじゃない。
私は大いに頼らせてもらいます!
「レベルが百三十になるまで戻らないんでしたっけ?」
「どれ程時間がかかるかわからないが、そのつもりだ」
「今レベル幾つでしたっけ? 鑑定しても良いですか?」
そう言って鑑定をさせてもらうと、前回見た時より一つアップの百十五だった。
「百二十以上になるとより上がりにくくなると言うからな」
「でも、お荷物の私は同行しないので、ヒースさんの全力であればすぐじゃないですか?」
「どうだかな。ここまで空腹を感じることもなく、睡眠も取れている。かなりコンディション良く進めていたが、一人となるとそうも行かなくなるからな」
そうか、確かに。
臨時のパーティに加入してはと思ったが、下層になればなる程連携の取れないパーティだと、危険が増すんだと。
稀に、囮にされて置き去りにされることもあるとか。
信頼しているパーティで潜るのがベストだ。
そうなるとヒースさんはやはり一人で潜ることに。
ああ、心配だ。
強さは疑っていないけど、コンディションが万全でないといくら強いと言っても隙が出来る。
そうなると……
「心配です!!」
「ハハ、ありがとう。ただ、レベルを上げるには必須なことだからな」
「そこまで強くなる必要って……」
「そうだな、目標が無ければ私は自分を見失ってしまう……」
そうだった……ヒースさんの人生を狂わせたのは私だ。
以前も話したけど、あの時国王を殴っていなければ、ヒースさんはここには居なかった。
今も近衛隊長と言うエリートであり続けて居たんだ。
「ごめんなさい……」
「ユエの所為ではない。私が守れなかった事が一番の原因だ。私が弱いのだ」
「……」
いや、そんな訳ないでしょ。
貴方が弱かったら私はなんだ?
それに、何故この人は強さにここまで拘るんだろうか?
強さの最上位でないと何かダメなのか?
まあ、そんなこと聞ける様な空気じゃ無いんだけどね。
「先に休んでくれ」
「はい……お休みなさい」
ちょっと気まずい空気になったところで、先に休ませてもらうことになった。
翌日のヒースさんは、昨日の話が無かったかの様にいつも通り。
切り替えが上手いんだろうな。
私は申し訳なさが抜けず、無言が多くなってしまう。
それでもダンジョンを進み続け、ボス部屋前まで来た。
扉は開いている。
「ようやくここまで来たな。準備は良いか?」
「はい、行きましょう!」
他のボス部屋同様、中に入ると重厚な扉が音を立てて閉まる。
それと同時に魔物が現れた。
「……だから、多いんだって!!」
「確かにな」
ナージン情報では、平均的に《スノウウルフ》が十体、ボスで体高五メートルほどの《イエティ》が一体と書いてあったはず。
だが、目の前には《スノウウルフ》三十体以上に、なんと《イエティ》が二体。
ボスが二体ってどういう事!?
誰が何を基準に操作したんだこれ!
まあ、そんな愚痴を今言っても仕方ないから倒すしか無いんだけどさ。
「やるよ! やってやんよ!」
「ど、どうしたんだ?」
「ヤケだよ!!」
誰かに弄ばれてる気がしてならなくて、ヒースさんに八つ当たりしてしまった。
それで無くても朝から気まずいってのに、なんかもう本当ヤケだよ!
「ホーリーウェーーブーー!!」
思いっ切り魔力を乗せて放った魔法は、かなり広範囲の魔物を吹き飛ばした。
しかも、イエティも一体倒して。
お陰でまたレベルアップ。
「……スゴイな」
「スゴイのはヒースさんだから! 貴方は強いんだから!」
酔ってる訳ではない。
ヤケを起こしているだけだ。
「……ああ、ありがとう」
そう言ったヒースさんの顔に、少しだけ笑顔が見えた気がした。
そして、あっと言う間にボス部屋内の魔物は討伐された。




