剣圧って
ヒースさんとシチューを食べている時にそいつらは来た。
「ねえ、魔物避け切らしちゃったから一緒に良いかしら?」
「おねが〜い」
「減るもんじゃないし良いよね?」
「なんか良い匂いするんだけどぉ」
《薔薇の宴》の襲来だ。
なんでこいつらとはこんなに縁があるんだ?
なぜ他の冒険者のところに行かないかなっ!?
「普通に嫌ですけど?」
絶対嫌なんだけど。
どうして私が良いって言うと思ったんだろう?
「はあ!? お願いしてるんじゃない! 何が嫌なのよ!!」
「え? 態度が? あなた達が? 全て嫌です。良く私に言えますねそんな事。他の冒険者のところへ行ってください」
「ん? あっ、こいつあの治癒師!」
「うわぁ、最悪ぅ。声掛けるの間違えたじゃ〜ん」
「ああ、あの」
ジーナがそう言って三人とも私たちに気づく。
ってか、気づかず声掛けてたのかよ。
「どぉするぅ? 今からだと暗くて危なくない?」
「そうね、灯りもないし移動は危険ね」
「ねえ、この場所譲りなさいよ。聞いたけどあんたアタシ達よりランク下でしょ?」
えぇぇ、何その理屈。
確かに私はFランクだけど、そもそもアンタ達だってEじゃん。
同じ初級に分けられるようなランクじゃん!
「良い加減にしろ。それが頼む側の態度なのか? 君たちは一つ上のランクに求められたら従うのか?」
「はあ? 従うわけないじゃない」
ジーナが「何言ってんだこいつ」みたいな顔をして、さも当然のように言い放つ。
ええ?
自分たちは良くて他の人はダメってどういう神経してんだよ!
何故そんな考えになるんだろ?
謎すぎて話が噛み合う気がしない。
「じゃあ、私たちも従う義務はないじゃん。早くどっか行ってよ」
もうこのやり取りが嫌。
顔も見たくないんだから、本当に早くどっかに行ってほしい。
「こいつっ! 調子に乗ってんじゃないわよ!」
「嫌ぁ。それにその美味しそうなの頂戴よぉ」
ジーナが激昂し、アデラはそれを意に介さず勝手に鍋に近づく。
「触らないで! 完全に強盗じゃない、ギルドへ報告するから」
「はぁ!? ただ頂戴って言っただけじゃん。まだ食べてないしぃ」
アデラの喋り方はイラつくな。
埒があかない。
すると、ヒースさんが私に鍋をしまうように言ってきたので、ストレージにしまうと、焚き火に水を撒き、火を消した。
それと同時に魔物避けの匂いも消えていった。
「話をしても平行線だ、別へ行こう。ああ、この場所は君たちに譲ろう」
「ちょ、ヒースさん……そう言うことじゃっ」
ヒースさんが冷静に言うもんだから、私は可笑しくなってしまった。
譲れってそう意味でないと思うし、ヒースさんも解って言ってるところがなんだかツボった。
「何て事を!」
「なんなのこいつらぁ、ホント最悪ぅ」
「ふざけんな!!」
ジーナは二人よりも短気で手が早いのか、弱い私に向かって殴りかかってきた。
が、ドンッという音を立てて、反動で飛ばされる。
「ジーナ!」
「ちょっとジーナに何すんのよぉ!」
「いや、私何もしてないし」
飛ばされて転がるジーナを見て、今度はクラウが剣を、アデラが短剣を抜いて戦闘態勢を取る。
「やめるんだ。仕掛けてきたのはそちらだ。手遅れになる前にここから去るんだ」
「今更遅いわ!」
「はあ、仕方ない」
クラウの言葉にヒースさんが剣を抜いた。
え? ヒースさん戦うの?
もうこいつら死亡確定じゃん。
こんな奴らの為にヒースさんの手を汚して欲しくないんだけど!
と考えている間に、キンッと言う音が鳴り、ヒースさんは剣を鞘に収めていた。
武器を向けていた二人を見ると、尻餅をつきガクガク震えていた。
そして、若干アンモニア臭が漂ってくる。
何が起きた?
「え? ヒースさん何したんですか?」
「若干魔力を乗せて剣圧をぶつけただけだが、思った以上に効いてしまったな」
「殺すつもりはなかったんですね?」
「もちろん。いかに殺さず無力化するかは、心得ているつもりだ」
カッコ良すぎるぅぅ!
それをサラッと出来てしまうんだから、もう! もう! もう!
語彙力が崩壊だよ。
なんでそんなにいちいちカッコいいですか貴方は!!
「さあ、今のうちにここを離れてしまおう」
「はい!!」
魔物避けもなく、震えたまま放置はどうかとも思ったけど、知ったこっちゃない!
自分たちで対処しやがれ。
私たちはランタンの魔道具を持って、先へ進んだ。
不思議と魔物に襲われる事はなかったから、魔物避けの匂いが付いてたのかな?
暫く歩いて、あいつらが追ってきていない事を確認してまた火を起こし、魔物避けを焚く。
これは大量に購入済みだから、まだまだありますよぉ。
《薔薇の宴》も魔物避けを売ってくれって言ってれば、売らないこともなかったのに。
実際に売ったかどうかはわからないけどね。
「ヒースさん、さっきは散々でしたね」
「そうだな。あれほど杜撰な準備で、十五階層までは辿り着けないだろう」
「えっ? 地上には戻れないって事ですか?」
「恐らくな。十四階層までどう下ってきたのかは不明だが、あの実力では難しいだろうな」
「違うパーティと来たんですかねぇ?」
「その可能性はあるな。女性パーティだからと助ける冒険者がいても可笑しくは無い」
「ああ、確かに」
確かにさっきも、助けてもらうのが当たり前みたいな話かけられ方だったし。
そんなに三人とも魅力的だった?
まあ、私よりは綺麗だろうけどさ、性格がねえ?
……決して強がりじゃない!
「恐らく、今後近づいては来ないだろう」
「……あれを食らったあとだとねぇ……」
そうだね。
私もあのヒースさんの剣圧をぶつけられたら、粗相する気がするもんね、見えてなかったけど。
あれに懲りて突っかかってこないと良いなぁ。
それからお互いに仮眠を取り、辺りが明るくなってきたところでダンジョン脱出のため、十五階層を目指した。
十四階層の砂漠では⦅サンドウォーム⦆と言う、ウォームのミミズ版がたくさん出てきた。
胴体が尋常ではないほど長く、どこに核があるのかもわからない。
暑さにへばりながらも、【ホーリーウェーブ】をぶつけまくって倒していった。
《薔薇の宴》への鬱憤を晴らすように。
お陰でまた一つレベルアップ。
ヒースさんも一つ上がったと喜んでいた。
さあ、次はようやく転移陣のある十五階層だ!




