元近衛隊長は伊達じゃない
怪我を負った冒険者の治療を終えて、治療費の話をしたら皆さん唖然としてしまった。
「あのぉ……」
「兎に角今はここを離れてセーフティエリアに行くぞ。君たちは倒れた者達を運んでくれ」
皆さんの正気を戻してくれたのはヒースさん。
確かにここにいても次々とポイズンフロッグが襲ってくるだけだ。
加勢しに来た冒険者パーティと助けを求めに来た冒険者とで、倒れた二人を二人一組となり担いで行く。
セーフティエリアまでの道のりで出てきた魔物は、全てヒースさんが倒してくれたので、皆んな無傷で辿り着くことができた。
「今回は助かった、本当にありがとう」
「「ありがとう」」
そう言ったのは、助けを求めにきた冒険者のパーティだ。
怪我を負っていた二人も途中で目覚めたので、自分の足で肩を借りながら歩いてもらい、何とかセーフティエリアに戻ってきた。
「何があったんだ?」
ヒースさんがそのパーティに経緯を聞いた。
「四階層のセーフティエリアに向かってたんだが、その一歩手前でキラービーの群れに襲われたんだ。どうやらクインビーが統率していた様でな。クイーンビーは出ないと思ってたんだ」
「クイーンビーか……低層では出ないはずなんだが、突然変異か?」
「恐らく……」
確かに、ナージンさんからもらった情報にもクイーンビーは載っていなかった。
統率者がいるとなると厄介極まりないんだとか。
早めにクイーンビーを叩かないと、どんどん群れの数が膨れ上がっていき、中級冒険者でさえ厳しくなるとか。
こうなると初級の冒険者ではどうにもならない。
「君たちはこの事をギルドへ伝えてくれ。私は対処を試みてみる」
ヒースさんなら何とかしてくれそうだ。
でも流石に数には勝てないかもしれないから、ヒースさんにも【怪我をしない____】を設定してもいいかな?
自分に設定したままで今更だけど、とても卑怯な裏技だよね、“予定”スキルは。
他の冒険者達は皆命をかけてるのに、私は安全圏でのうのうとレベルアップ。
本当に今更だけど。
それでも、死にたくない私は“予定”スキルを解除する勇気なんてない。
知り合いにも死んでほしくない。
身勝手でひとりよがりと言われても、使えるものは使って良いだろうと、ヒースさんにも“予定”スキルを適応させた。
今回はいつもと違い、私にではないからか魔力消費が百五十だったのは仕方ない。
「ん?ユエも来るのか?」
「えっ?ヒースさんが行くんですからもちろん」
「……そうか。全て倒しきれるとも言えないが大丈夫か?」
「大丈夫です!行きましょう!」
そう意気込んで出発しようとした時、
「待ってくれ!さっきの治療の……」
そうだった!まだ貰ってなかった。
「そうでした。さっき言った通り、ポーション代と同額で良いですよ」
「本当か?後でやっぱりって言われても払えないぞ」
「構いませんよ」
「……アンタはあいつらとは違うのか……恩に着る」
あいつらって誰?
知らない人と比べられても結局わからないんだけど、そう言って硬貨を渡してきたので受け取っておいた。
「じゃ、報告お願いしますね!」
そう言って私とヒースさんは走り出した。
しかし、走り出し十分で私の体力は尽きた……
さっきの往復で既に疲れてたのに、気合だけで空回り。
「ヒースさんごめんなさい。先に言ってください……」
明らかにヒースさんは疲れていなさそう。
体力の鬼だな。
鍛え方が違うんだから当たり前だとは思うけど、私のお荷物感が半端ない。
「……そうだな。事は急ぐから、済まない先に行くぞ」
「はいぃぃぃい!?」
そう言った瞬間ヒースさんが走り出し、既に遠く見えなくなり掛けてた。
私は驚いて「はい」の一言がおかしな事になってしまった。
何て身体能力。
元近衛隊長は伊達じゃない。
ずっと私に合わさせてしまっていたのが、本当に申し訳ない。
そんな一人置き去りの私は、ストレージから水袋を出して水を飲む。
マップを見ながらトボトボ歩いているが、進みは遅い。
まだ歩けているだけマシだけど、明日がヤバいんではないかと不安にすらなる。
進んでいると、ヒースさんが倒したであろう魔物の魔石が、ちょいちょい落ちているので拾っておく。
それから、たまに出てくるポイズンフロッグをウィンドウボールで倒していく。
もちろん毒を吐かれて体にかかっても、無傷に変わりはない。
ようやく四階層への階段に辿り着いた。
もうヘロヘロではあるが、自分で行くと決めたのだから今更引き返せない。
引き返す体力もないし。
頑張れ自分!
と、奮い立たせて階段を下りていった。
四階層に下り立つと、三階層のジメッと感から解放された。
階段付近にキラービーの姿は見えない。
とにかくマップを頼りに進む。
またちょこちょこ魔石が落ちているのでそれも拾う。
歩きながら、まだ会得出来ていない【ホーリーウェーブ】の練習をしたが、歩きながらっていうのがより難しい。
全然集中出来ない。
歩きながらやるものではないなと、諦めた。
それにしても未だキラービーに遭遇しない。
全部ってくらい倒してるんじゃないのヒースさん。
徐々に落ちている魔石の数が増えてきているし。
私の出番なんて無いんだろうなと思いながら歩き続けた。
……いや、本当、尋常じゃないくらい魔石が落ちているんだが!?
あの人何してるんだ!?
確か魔法も使えるって前に言ってたから、範囲攻撃でも使ったのかな?
魔石を拾い集めるのだけでも大変だぞ。
そして、辿り着いた時、
「……」
「ああ、着いたか、お疲れ」
「……」
終わってた。
何がって?
全てが!
統率されてたであろう無数のキラービーも、クイーンビーすらも形は残っていなかった。
夥しいほどの魔石と、その中心で立っている一人のイケメン。
ちょっとこの状況が飲み込めない。
本当に沢山の魔石が落ちているので、これ全部をヒースさんが倒したんだろうかとは理解できる。
理解できるが、マジかこの人。
「思った程数は増えていなかった。それよりも、ユエ。私に何かしたか?」
「……」
「不覚にも攻撃を受けてしまったが、体が何かに覆われているように魔物が弾かれていったんだ。何かしただろう」
「……」
現状とヒースさんの言葉とどちらにも何も言えない私。
頭の中を何から処理したら良いのか。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい、この状況について行けてなくて。これ全て一人で倒したんですか?」
「ああ、そうだが、私には傷を負わなかった事の方が重要だ。でなければまだクイーンビーに辿り着けていなかったかもしれない」
「はあ……すごいですね」
そんな言葉しか出て来なかった。
「私が何かしたかは別にして、流石ですね。その手に持ってるのがクイーンビーの魔石ですか?その細長いのは?」
「こっちはクインビーからのドロップアイテムで針だな」
「針が大きいんですね。って暢気に話している場合じゃなかった。魔石が消滅する前に拾いましょう!」
そう言って、落ちている魔石を二人で拾った。
“予定”スキルの話は有耶無耶にして。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!




