セーフティエリアにて
エンデルダンジョン三階層セーフティエリア。
「今日はここで休もう。大丈夫か?」
「疲れましたぁ」
「ハハ、お疲れ様」
ヒースさんが優しい。
ただ、残念ながら二人きりでは無い。
ここのセーフティエリアには二階層と違い、いくつかの冒険者パーティが既に場所を確保して休んでいた。
何名かは傷を負っている様なので、初級冒険者なのかもしれない。
傷を負った人が、丁度ポーションを飲んでいるところだった。
このセーフティエリアはさほど広く無く、大凡二十畳ぐらいだろうか。
空いている壁際に行き、壁を背にして座った。
ヒースさんが小さめの火を起こし、私は小さい鍋を出す。
街でゲットしておいたスープの入った寸胴を出し、二人分を小さい鍋の方へ移す。
ストレージの《停止空間》に入れているので熱々なんだけど、他者へのパフォーマンスは必要だよね。
なので温めます。
それからしっかり手を洗い、ヒースさんにも手を洗ってもらう。
そして、パンを二つ渡した。
温まったスープも器によそいヒースさんへ。
ゴロッと野菜の入ったスープはとても美味しかった。
パンをスープにつけて食べる。
うん、美味しい。
(おい、あれマジックバッグか?)
(そおじゃね?羨ましいなぁ)
(俺たちも稼げる様になったら絶対買おうな!)
怪我を負っていた人がいた、若いパーティの会話が聞こえてきた。
そうだよ、マジックバッグは高いんだよね。
私のはマジックバッグでは無いけど、バッグ経由のストレージを使っているのでそう見えているだろう。
ダンジョンに挑む人たちの目標の一つとして、マジックバッグを購入することがあるらしい。
これがあるのと無いのでは雲泥の差があるんだと。
現にマジックバッグの無い彼らはなかなか大きいバッグを所持している。
転移陣があると言っても五階層ごとだから、そこまで持ち堪えるための食料、水は欠かせないし、これまで倒した魔物のドロップ品や、対策アイテムなんかも嵩張るだろう。
本当に私は楽をさせてもらっている。
心の中でメル様に感謝をした。
夕飯も食べ終え、私は魔法の本を読む事にした。
と言っても“予定”スキルでレンタルだ。
壁際を向き、スマホを取り出す。
ーーーーー
イベント:聖属性の魔法書を借りる。ただし、魔法書はストレージの《経過空間》に出現する
日時 :開始 3152年9月28日 19時11分
終了 3152年9月28日 20時11分
場所 :現在地
繰り返し:なし
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は「1」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
はいを押そうとした時、
「たまにやっているそれは何だ?」
ドキーッ!
「ヒィッ!」
「あっ、すまない」
ちょっとヒースさん、耳元で囁かないで下さいよ!
めちゃくちゃドキッとして、体がビクッてなったじゃん!
「私のスキルです、内緒にして下さいね」
詳しくは説明しない。
したらえらい事になるだろうからね。
ちょっとのハプニングはあったが、“はい”を押し、バッグ経由のストレージから魔法書を取り出した。
「魔法書を持っていたのか」
「いえ、レンタルです」
「レン……?何だって?」
「あっ、こっちの話でした。気にしないで下さい」
ヒースさんは私のスキルに興味津々で、距離が近い。
「!?ユエ……その魔法書は……」
「うん?普通の魔法書ですよ?」
ヒースさんが言っていた【ホーリーウェーブ】を探そうと本を開くと、ヒースさんが驚いた顔をして本を凝視している。
「その魔法書を何故持っている?それは確か四百年程前、当時の聖女が書き記したものではないか?今はシア教本部の大聖堂で保管されていると聞いていたが……」
「えっ!?」
私は慌てて著者を調べた。
ミリア・ジャーナと書かれている。
この人が聖女かどうか私には判別出来ない。
「もしかして、ミリア・ジャーナって方ですか……?」
「確かそうだ。まあ、原本ではないか。複製された物が出回っているとは知らなかった」
「……そうですね……」
えっ?流石に原本じゃないよね?
確かにどこからか借りているんだろうけど、まさかね?
出所がどこだかは知らないけど、借りてるだけだから急いで読んでしまおう。
ちゃんと【ホーリーウェーブ】も載ってたし。
それにカマック様から覚えろって言われた、浄化魔法の【クリーン】もついでに。
この【クリーン】と言う魔法、もっと早く覚えておけばよかったと読んだあと後悔した。
浄化というものにはいろいろ含まれる様で、瘴気を祓うのももちろんだが、悪霊や不死の魔物にも効果があり、果てには汚れも落としてくれると言う優れ魔法。
これがあればお風呂に入れない時にも、体を洗った様にスッキリ汚れが落ちる。
しかもこの魔法初級だから、難無く覚えられたんだよ。
ヒースさんにも掛けさせてもらったら、スッキリ気持ちが良いとお褒め頂きました。
同じセーフティエリアにいた他の冒険者達が、羨ましそうに見ていたのは無視しました。
魔力使うからね!
【クリーン】は覚えられたが、【ホーリーウェーブ】はまだ会得出来ていない。
イメージも魔力調節もなかなかに難しい魔法なので、練習あるのみだ。
丁度レンタル時間も近づいて来たので、魔法書をストレージに仕舞い、就寝しようと言う話になった。
魔物に襲われる事はないが、他に冒険者たちがいるので、念の為交互に睡眠を取る事になった。
私が先に見張りをする。
ヒースさんは眠りにつき、話し相手もいないので【ホーリーウェーブ】の練習を始めた。
もう少しで何か掴めそうな気がした時、
ダダダダダッ
「誰か!ポーションと解毒薬を分けてくれないか!!」
一人の男性冒険者がセーフティエリアに駆け込んで来た。
「四階層でキラービーの群れに襲われて、パーティメンバー二人が動けなくなってるんだ、頼む助けてくれ!!」
四階層からここまで助けを求めに来たようだ。
「ヒースさん」
「ああ、行くぞ」
何もまだ言ってないけど、助けを求められたら助けたいのは人情。
私は回復も解毒も出来る。
なら、行くしかない。
私たちが動き出したと同時に。
「加勢するぞ!」
「「おう」」
さっき、マジックバッグを羨ましがっていた若めの冒険者パーティも加勢するそうだ。
でも、君たちさっき三階層で怪我してなかったかい?
まあ、人数がいる分にはいいのか?
わからないけど、もう二組いたパーティは加勢しない様だ。
加勢するしないは強制ではないからね。
「すまん、恩に着るっ」
急いで怪我を負った人がいる所に向かった。
どうやら、キラービーの群れからは逃れて三階層の階段までは来れたそうだ。
だが、それ以上が体力もなく動けなくなってしまったと。
駆け込んできた人は、最後のポーションを飲んで何とか三階層のセーフティエリアにたどり着いたとか。
向かっている間に話を聞いた。
合間に出てくる魔物は、全てヒースさんが一太刀で葬っていった。
これにはみんな唖然。
魔物が出た瞬間にはもう斬られているんだから。
剣筋も何も良く見えなくて分からないし。
おそらく、何でこんな強い人が三階層にいるんだ?みたいな顔をしてるからそう思ってるんじゃないかな。
しばらく全速力で走って、私の息切れが酷くなって来たところでやっと怪我人の元に着いた。
体の至る所にキラービーの攻撃らしき跡がみて取れる。
キラービーは蜂型の魔物だけど、大きさが蜂サイズではない。
子猫ぐらいの大きさで、お尻のあたりに長い針が付いている。
その針で攻撃をしてくる魔物だ。
キラービーの針には少量の毒も含まれているので、徐々に体が言うことを聞かなくなってしまったそうだ。
階段脇に横たえられた二人の頭部は何とか守られているが、それ以外からは沢山の血が出ている。
急いで二人に解毒魔法をかけ、それからハイヒールをかけると呼吸も正常になった。
「聖魔法……?」
「ええ、これで大丈夫かと思いますよ」
「えっ、あの人聖魔法使えんのかよ。ヤベーな」
「マジックバッグ持ってた人だろ?通りでなぁ」
えっ?何が通りでなの?
「まさか聖魔法とは考えてなかった……中級ポーションを複数と解毒薬で足りると思ってたんだ。ハイヒール二回分を払う金がない。しかもアンチドーテまでなんて……」
あっ!そうだった……回復魔法は相場が高いんだった!
しかもハイヒールよりアンチドーテの方が確か高かったんじゃないか……?
そりゃ想定外だよね、そっちは。
「ごめんなさい、ポーションを渡せば良かったですね。やってしまったので、料金はポーション代と同額で構いません」
「「「はあ!?」」」
ヒースさん以外の人全員が驚いていた。




