油断した
夕食の準備が出来たと、エヴァさんから声が掛かった。
エヴァさんが入室した際、不思議そうな顔を一瞬していたけど、なんだったんだろう?
本当に一瞬だったから、私の勘違いかもしれない。
その後、食堂では昨日と似たよう夕食を取り、また自室に戻る。
昨日同様お湯が入った桶とタオルを置いて、エヴァさんは帰って行った。
既にお風呂で化粧は落としていたから、持ってきてもらったお湯は歯を磨くために使う。
夕食を食べた後だからか、やけに眠気が強い。
寝る前にもう一度、夕食前に実行出来たあの予定を入力する。
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イベント:水洗トイレで用を足す
日時 :開始 3152年5月20日 17時50分
終了 3152年5月20日 18時00分
場所 :現在地
繰り返し:なし
アラート:なし
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【消費魔力は「30」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
“はい”を選択。
そう、水洗トイレが使用できたんです!
夕食前、予定が実行できた時、めちゃくちゃ喜んだ。しかも、日本の自室仕様だったから余計に。
乙女の日がきたらどうしようかと思ってたけど、これで不安は解消された。
ただ、魔力消費量が多めだから、多用出来ないのだけが難点。
それから、時間通りにトイレは消えた。
眠るには早すぎる時間だし、まだ検証をしたい事は山ほどあるのに、瞼が開かなくなってきてしまった。
ベッドに横になりながら何とかスマホの目覚ましをセットしたと同時ぐらいに気絶した。
♢♢♢
ブーッ、ブーッ、ブーッ、トンッ
「ふぁぁーっ、……体が痛い」
スマホの目覚ましを消して、欠伸をしたら体が軋んだ。
恐らく昨日初めて魔力を使用した事や、10時間近く眠ってしまった事が原因だと思われる。
それにしても、よく寝たわ。
今は朝の四時半。
かなり早い時間だけど、朝風呂に入りたかったのでこの時間に目覚ましをセットした。
念の為鑑定で今の魔力量を確認すると、満タンになっていた。
体力と一緒で、眠ると回復するのかね?
朝シャンして、化粧も着替えも終え準備万端の状態でエヴァさんのモーニングコールを待つ。
コンコン。
「スズキ様、おはようございます。エヴァでございます」
「おはようございます。準備は出来てますので、すぐ朝食で大丈夫です」
「えっ……?はっ、失礼致しました。ご案内致します」
今朝は驚いていた顔がはっきり見れた。
朝の洗顔用の水も無いのに、どうしてって感じかな?
それとも化粧バッチリだったからとか?
それでもすぐ表情を戻して、いつも通り綺麗な歩き姿勢で案内してくれたのは流石です。
昨日より早い時間に朝食を食べ終えたから、エドゥアルドさんが来る時間までまだ余裕がある。
ただ、打ち合わせ用の部屋ではエヴァさんも待機してる為、スキルの検証が出来ない。
手持ち無沙汰でスマホをいじいじ。
あっ、今更だけどカメラ機能は使えるのか。
でも電波は立っていないから電話もネットも使えなかった。
そりゃそうか……
コンコンッ
スマホいじいじからしばらく経ち、ようやく部屋の扉がノックされ、エドゥアルドさんが入室してきた。
だが、昨日と違い、初日に会った宰相と、これまでに面識の無い男女も一緒に入室してきた。
なんで?
もう関わることはないと思ってたんだけど。
初日のあの鑑定で明らかに私への関心は失ってたよね?
いや、昨日の検査結果を報告してるはずだから、何か考えがあってきてるんだろうけど。
なんか嫌な予感がするな……
「おはようございます、スズキ様!なかなかお話し出来ず申し訳ありませんでした」
「いえ……本日はお越し下さるとは思っていなかったので少しびっくりしています」
「ハハハ、少し慌ただしかった故申し訳ない。今日は今後スズキ様のお世話をする者をご紹介に参りました」
「はあ……宜しくお願いします」
それから全員席に着き、初見の二人の紹介となった。
女性がスーと言う名前で、男性がルーベンという名前。
今後、スーが適正魔法の使い方を、ルーベンが鑑定能力を使用した仕事を教えつつ一般常識を、それぞれ私に教えてくれるそうだ。
二人とも印象は可もなく不可もなくあまり愛想は良くない。
色々教えてもらうんだから文句は言えないけど。
簡単に二人の紹介が終わると、宰相に促され二人と握手をする事に。
「それでは、私はここで退席させて頂きます。希少な聖魔法に適性があったとは大変喜ばしい!スズキ様には期待しておりますのでよろしくお願いしますぞ」
と、宰相からも握手を求められたのでなんの疑いもなく差し出された手を取った。
カチャッ
「ん?これは何です?」
握手をした私の右腕に宰相がプラチナの様な素材のバングルを嵌めた。
「是非鑑定して見てください」
「鑑定」
▽▽▽
魔道具:隷属の腕輪(ミスリル製)
これを付けられた者は、所有者の出した指示に逆らえない。無理に外そうとしたり指示に背くと全身に電流が流れ気絶する。
五回指示に背くと死に至るほどの電流が流れる。
所有者でないと外すことはできない。
所有者シェーマス・アルガンド
△△△
「はっ?」
「スズキ様、いやスズキよ。この城にて能力を行使する、この腕輪の事を他人に話さない、城内の人間に危害を加えない、この城、国より脱走しない、自害しないことを命ずる。末長くよろしく頼むよ」
宰相はニヤっと口角を上げ、そう私に告げるとさっさと部屋から出て行った。
「……」
この状況に私の脳が停止する。
「今日、それを着けるとは聞いていたわ。攻撃魔法系は何かあってはいけないから教えることは無いわ。それでも聖属性の回復魔法は必ず覚えてもらうから覚悟していてね」
スーがそう言うと、
「では、午前はスー殿が魔法基礎を指導。午後は魔石の鑑定だな。こちらは一般常識を教える必要などあるまい」
今度はルーベンが今後の予定を話進める。
「そうね、じゃ明日からって事で」
「うむではこちらも忙しい身なのでな、失礼する。エヴァはこの後第二訓練所と第三倉庫の案内をしたら終了だ。明日から案内は必要ない」
「かしこまりました」
バタンッ
そう言ってスーとルーベンが部屋から出て行ってしまった。
会話は聞こえているけど、理解出来ない。
「えっ……ちょっと意味が分からないんだけど」
「……」
鑑定結果から目が逸らせない。
無言のエヴァ。
「……ハッ……ハッ……スゥッ、ハッ、スゥッ、ハッ、ハッ____」
苦しい、息が出来ない。
「……!?」
バタンッ、バタバター
勢いよく部屋の扉が開かれた気がするけど、私はその場で意識を手放した。




