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案内人は中世的


 一際豪華なホテル前。


「本当にここに泊まって良いんですか?」

「もちろんです」

「でも、国賓扱いはしないで下さいね?」

「ユエ、今更だ。既に国王直属の諜報部隊長が護衛をしている時点で気付くべきだ」

「……そうだった。ナージンさんは偉い人でした……すっかり忘れてましたよ」

「いいんですよ。それに私は立場を明かしてはいけない身なのでね。そのまま商人と思ってもらって問題ないですよ」


 あまりにも商人感が強いナージンさんの本来の立場をちょいちょい忘れる。

 かなり強いってことも認識しているのに、戦っているところを見たことがないから余計実感が湧かない。

 それでも安心感があるのは、彼の醸し出す空気なのか。


 それから高級ホテルに入った私はまた言葉が出なかった。

 天井が高く広いエントランス。

 大きなシャンデリアに、細部までこだわった彫刻の数々。

 伝統的で有名なあの絨毯みたいなのが、床一面に敷き詰められている。

 

 場違いだ。

 どう考えても私なんて場違いだ。

 エントランスの時点でこれだよ?

 客室内はどうなってるんだ……



「……」

「広いな」


 客室に案内された私はやはり絶句。

 恐らく、こう言った豪華な部屋は慣れているであろうヒースさんも広さに驚いていた。

 それもそうだ。

 最上階の角部屋、何平米あるのか全く測定できない広さだ。

 強いて言うなら最高級ホテルのプレミアムスウィートルームが正しいだろうか。

 ガラス張りの窓からはヤヴォン国の王都が一望出来る。


 一人でこれは広過ぎる。


「あの……ナージンさん。部屋は変えられませんか?」

「お気に召しませんでしたかな?」

「お気に召すも何も広すぎます!私には勿体なさすぎるので、このホテルの一番グレードが低い部屋でお願いします!!」

「しかし……」

「良いです、本当に一番狭い部屋でお願いします!」


 「でも」とか「やはり」とか言うナージンさんを説き伏せ、なんとか粘って勝ち取ったグレードの低い部屋も、通常ホテルのスウィートルームと言えるくらいの広さだ。

 これでもまだ落ち着かないよ。


「ヒースさんごめんなさい。ヒースさんは広い部屋が良かったですよね?」


 そう、ヒースさんも隣の部屋なので、必然的にグレードを下げてもらったんだ。


「いや、私はどの部屋でも構わない。勝手についてきた身なのでな。ナージン殿、礼を言う」

「いえ、お気になさらず。ヒース殿が同行を申し出てくださらなければ、ユエさんは来て下さらなかったかもしれないのでね」


 いや、ヒースさんが同行しなくても来てたよ?

 ただ心細かったのは事実だけど。

 まあ敢えてそれは言わないけどさ。


 それから夕食が部屋に運ばれる事になったんだけど、これまた絶句。

 ディナーはフルコースですよ。

 テーブルマナーなんて、友人の結婚式でしかやってきてないけど大丈夫かな?

 配膳係の人はいるけど、私一人だから自由に食べて問題ないとは思うが緊張する。


 メインディッシュは牛肉のステーキでした。

 久々に食べた牛ステーキはとても美味しかった。

 パンもふわふわだったし。

 明らかにお金がかかっている料理群。

 それぞれの量は少ないけど、お腹いっぱいです。


 特に配膳係の人にマナーを指摘されることもなくコースを食べ終えたけど、やはり一人の食事は寂しいなと思ってしまった。

 これまでワンド国を出てからの移動では誰かしらと共にしていた気がする。

 ワンド国での一人の食事を思い出し、寂しくなった。

 明日はヒースさんと共にして良いか聞いてみようかな。


 そんなことを考え、今日は就寝する事にした。

 しかし、このホテルは流石だ。

 部屋に一つお風呂が付いていたのだ、それも私の住んでいた部屋のお風呂よりも立派なものが。

 ゆっくり浸かった。


♢♢♢


 コンコン


 翌朝の豪華な朝食も済ませ、部屋の扉がノックされた。

 

「ユエさん、おはようございます。ナージンです」


 早速朝からナージンさん。

 早く働けってことかね。

 でもその気持ちはわかる、国王は容態が悪いんだから一刻も早く助けたいよね。


「どうぞ」


 入室を許可し、部屋にナージンさんが入ってきた。

 この部屋には広めの居間もあり、そこに置かれた対面のソファーに座ってもらう。

 

「ユエさん、早速で申し訳ないですが、城に来てもらえますかな?案内は私ではなく、城勤の者に頼んでおりまして、私は陰から見守らせてもらいます」

「わかりました。私はどう言う体で城に入れば良いんですか?」

「見習い魔法士として、城を案内する事になっています。衣装はこれに着替えてもらう事になりますが、宜しいですか?」


 そう言って渡されたのは、ワンド国のローブのような物ではなく、動きやすそうなシャツに国章の入ったベスト、裾が広がったロング丈のガウチョパンツ。

 見習いから昇格すると、専用のローブが配られるそうだ。

 ただ、私は昇格することもないし、本来の見習い魔法士でもないからローブを着ることはない。


 一度ナージンさんは部屋から出て、私は渡された制服のようなものに着替えてから、部屋を出た。


 すると、隣の部屋の扉が開き、


「城に行くのか、私は同行できないと言われているからな。すまない」


と、ヒースさんが声を掛けてくれた。


「いえ、むしろヒースさんは目立ち過ぎますから。ゆっくり休んで下さい」


 逆にヒースさんが登城したら騒ぎになるんじゃないだろうか。

 近衛隊長だった事を知ってる人がいるかもしれないし。

 そんな訳でヒースさんはお留守番。


「じゃ、行ってきます」

「ああ、気を付けて」


 そんなやりとりもなんだか嬉しかったのは、昨日の夕食が一人だったからと思おう。

 決してときめいてなどいない。



 それから、ナージンさんと共にホテルの外で、城案内人と合流する事になった。


「おっ、いたいた。カイラ、こっちだ!」

「おはようございます、ナージンさん」


 確かナージンさんの部下って言ってたけど、流石にナージンさんの裏の立場をこの場では呼ばないか。


 しかしこの人、何と中世的な印象なんだろう。

 ローブを着ているからか、名前からも外見からも、女性なのか男性なのか判断がつかない。


 髪はシルバーなんだけど少し水色っぽくキラキラしていて、サラサラの前髪がないワンレン風ボブ。

 目は切長でクールな印象。

 ただ、声が少し高い気がするから女性なのかもしれない。

 

「初めまして、カイラです。ユエさんですか?」

「あっ、申し訳ないです。初めまして、ユエと申します。宜しくお願いします」

「恐らく疑問に思われてると思いますが、私は女性ですよ」

「!?……ジロジロ見てごめんなさい」

「ハハハ、カイラは一見わかりませんからな」

「お綺麗で見惚れました」


 身長も割と高めだから男性と言われても納得してしまうが、女性だと分かると、よりカッコ良く見えるのは不思議だ。

 あの男装の麗人に、皆がのめり込む気持ちがようやくわかった気がする。


 カイラさんは、魔法士の中でもエリートで火と風の二属性に適正があるそうだ。

 特級の魔法も操る事が出来るほど優秀なんだって。

 なので、城の案内人と護衛を兼ねてくれるそうだ。


 ホテルの入り口で一旦ナージンさんとは別れる。


 ここからは呪詛士特定作戦の開始だ。


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