今度はナージンさん
カジさんがいてもいなくても変わらなかった話し合いも終わり、商人ギルドを出ようとした時、その人に会ってしまった。
「おやユエさん、ご無沙汰してますな」
「えっ!?ナージンさん!?」
まさかのスパイ商人ナージンさんとここで会ってしまったのだ。
確かに別れ際にまた会いましょうなんて言われたけど、それほど時間が経ってないぞ?
しかし何故彼はダンジョンがメインの街『ダージ』にいるんだ?
「おや?隣の方はワンド国の……」
「どこかで面識があっただろうか?私はヒース」
「いえ、ワンド国でお見かけしたなと。私は商人のナージンと申します」
絶対元近衛隊長だって知ってるでしょ。
「ユエさん、唐突ですが今からお時間頂けませんかな?」
「……」
怪しい。
怪し過ぎる。
だって、ナージンさんは恐らく私が異世界からの召喚者であると知っている。
でなければ私を“トウコ”と別れ際呼ばないだろう。
しかもヤヴォン国の諜報部隊の人だったよね?
「ユエさんは私の事を既にご存知ですよね?話だけでも聞いて頂けないでしょうか?」
「……」
って事はヤヴォン国に関する事で話があるのか……
どうしよう。
一緒に移動をしていた中で、色々教えてくれていたから、悪い人だとは微塵も感じなかった。
今もそうだ。
気のいい商人にしか見えない。
ただ、それ自体がナージンさんの偽りであるなら、私はナージンさんの思い通りに騙されている事になる。
困った。
「ユエ、心配なら私も同席しようか?ナージン殿が良いならば」
「!?良いんですか?お願いしたい……」
一人では心細い。
もしもなんてないかもしれないけど、ヒースさんは私が召喚者である事も知っているから、助言してくれるかもしれない。
むしろ、ただ居てくれるだけで心強い。
「そうですなぁ、ヒース殿もユエさんの事情はご存知のようですのでかまいません」
「じゃ、ヒースさんお願いします!」
「承知した」
そして、今度はナージンさんが商人ギルドで部屋を借りてくれた。
また出戻り。
ここ最近、よく商人ギルドの部屋を借りてるなぁ。
♢♢♢
「早速ですがユエさん、いやトウコさん。鑑定で私を見ているかもしれませんが、改めてご挨拶致します。私はヤヴォン国王直轄諜報第二部隊の隊長をしておりますヤコブ・カンパトリと申します。商人ナージンと偽っていた事謝罪致します」
「ッ!いえ、謝罪は不要です!それが貴方の職務なんでしょう?私も偽っていますし……」
「そこです。貴方はワンド国が召喚した異世界の方ですよね?」
「ええ……でも何故私だと特定出来たんですか?沢山人がいる中で」
「ヒース殿には申し訳ないが、我が国の諜報員が城内に何名かいましてな。そこからの情報と照らし合わせたんですよ」
ナージンさんに詳しく聞いたら、召喚者全員の特徴と氏名、適正属性やスキルなんかも知られているらしい。
それら私たちの情報と、各ギルドの新規入会者を照らし合わせて何名かに的を絞ったらしい。
ちょっとワンド国!
各ギルド!
個人情報ダダ漏れじゃない!
人の口に戸は立てられないにしても、漏れすぎでしょう!
ナージンさんが優秀なのかもしれないけど、流石にここまでとは。
しかし一番の決め手は、
「なんと言っても召喚者の方は顔立ちがこの大陸の者と違うので、見極めやすかったとも言いますが。そのお顔立ちとアイテムボックス持ちで半ば確信していましたが、トウコさんのお名前を呼んだ時の反応で断定に至りました」
自分のせいだった!
確かにアジアっぽい顔つきの人はいないなと思っていたけど、そんなに他と違う顔付きだったのか。
盲点。
しかもアイテムボックス持ちって自分で言っちゃってたし。
「私は聖属性持ちである事と、顔立ち、気配遮断で確信した」
ヒースさんもか。
だから気配消せるのかって聞かれた時難しい顔をしていたのか。
結局自分で教えてしまっていたようなものじゃん。
「警戒心が足りてませんでしたね……。じゃ、ワンド国も私の偽名に気付いてるって事ですか?」
「恐らく特定し始めているとは思います」
「マジかぁ……」
「ただ、今はヨーク国にいるので簡単には突き止められないと思いますがね。それで、単刀直入にお願いなのですが」
お願い!?
嫌だなぁ……こんな強くて偉い立場の人にお願いされる事って結構な無茶振りなんじゃない?
「お願い……ですか」
「ええ、ですがそんなに構えるようなお願いではないんです」
「命に関わるようなとこではないと言う事か?」
すかさず助け舟を出してくれたヒースさん。
「ええ、ユエさんには危害が加えられないよう配慮します」
「そうですか……因みにどんな依頼ですか?」
「ユエさんもヒース殿も、ここからは他言無用でお願いしたいのですが、現在我が国の国王が病に臥せっております。その原因が呪詛である事までは突き止めたのですが、容疑者が特定できないのです。鑑定の魔道具を使っても呪詛師である事までは特定出来ず。そこで、召喚された方達であれば鑑定スキルで詳細を知る事が出来ると踏みました。如何でしょうか?」
「呪詛って呪いであってますか?」
「ええ、そうです。大司教様でも解呪に至らず、呪詛を掛けた本人に解呪させるしか手立てはなく」
「国王様の容態は大丈夫なんですか?」
「幸い遅効性の呪詛ですが、持って後二ヶ月程だと」
マジかぁ……
なんかまた変な事に巻き込まれてないか?
カジさんが言ってた裏主人公ってこう言う事なの?
でもなぁ、ここまで聞いてやりませんとは言えないじゃん。
何となくヒースさんの方を見る。
「受けようとしているか?」
「ええ……ここまで聞いてしまったら受けざるを得ないと言うか……」
「ヤコブ殿、無理強いはしないな?」
「……もちろんです。出来ればお受け頂くのが一番ですが」
何よその間は!
逆に怖いわ!
ナージンさんと二人でヤヴォン国に向かうのか……色々不安だなぁ。
「ユエ、この話を受けるなら私も同行しよう」
「えっ、何で!?」
「事は急ぐのだろう?そうなるとユエのレベルアップが間に合わない。危険では無いと言うが、自衛出来ないユエを今更放って置く事もできない。ならばついて行こう」
何じゃそりゃ!
あんたどこまで良い男なんだ!




