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どこかで見た顔なんだけど


 エメリアさんがサンディス家に戻ってきてから四日が経った。

 今日は『ダージ』街に向かって出発する日だが、あれからヤロからのアクションは何もない。

 むしろ何もできない状態と言って良いだろう。

 エメリアさんの治療を目当てにしていた貴族から、苦情が殺到しているとか。

 エメリアさんに聞いたが、治療時に首輪がバレてはまずいと思ったヤロは、彼女にベールを被せ、顔を見えない様にしていた。

 なので、治療していたのがエメリアさんであるとはバレていない。

 サンディス男爵家は無事と言うことだ。

 ヤロがどうなろうと知ったことではない、自業自得だ。

 

「ユエ様、行ってしまわれるのですね。寂しくなります」


 そう言ってくれたのは未だに様付けをやめてくれないエメリアさん。

 この三日間、エメリアさんの体調が良い時は外でお茶をしながら話をした。

 特に面白い話もないんだけど、タン街の教会はとても素敵だったとか、魚が美味しいよとかたわい無い話を楽しそうに聞いてくれた。

 こんな可愛い妹がいてラミーさんが羨ましい。

 

「そうだね、エメリア。ユエさん、今回のことは感謝してもしたりない。我々に出来ることがあればいつでもこの屋敷に来てくれ。貴方なら大歓迎だ」


 エメリアさんに微笑みながらそう言ったサンディス男爵。

 もう後妻は狙わないから、是非ともエメリアさんを守り通してほしい、切に願う。

 いや、初めから後妻は冗談だ。


「こちらこそ、今日までお世話になりました。近くに立ち寄った際はまたお邪魔させてください」

「お父様、エメリア行ってきますね」

「ケージ、二人を頼むよ」

「かしこまりました」

 

 ラミーさんが行ってきますと言い、ケージさんに私たちを頼むと男爵が言う。

 もちろんケージさんはかしこまるよね。


「では、皆さん、また会いましょう!」


 挨拶をしてクリフ君を引き、ラミーさん、ケージさんと共にサンディス邸を後にした。

 

♢♢♢


「……本当に魔物や野盗に襲われずにここまで来るとは」


 そう言ったのはケージさん。

 タン街からずっと一緒に移動しているが、これまで何にも襲われていない。

 本来はダンジョンで戦う前に三人での戦闘に慣らす必要があるが、それもなく明日には『ダージ』街に到着してしまう。

 一応ここに来るまでに、カマック様から言われた聖属性の攻撃魔法を練習している。

 “予定”スキルでレンタルした本で。

 出来る様になったのは、聖属性の矢を放つ《ホーリーアロー》と言う初級の攻撃魔法。

 一つしか覚えられなかった私の無能さは置いておいて、威力はなかなかである。

 ラミーさん曰く、初級の攻撃魔法の三倍くらい威力があるのでは?と持ち上げてくれるが、そんな事あるかな?

 確かに練習した時、魔法の矢が大木を突き抜けてその奥の木で弾けたのはちょっとびっくりしたけどさ。

 ラミーさん自身も《ホーリーアロー》を見たのは初めてなので正確には測りかねるらしい。

 牽制に使用するなら《ウィンドウボール》、直接攻撃は《ホーリーアロー》と使い分けて行こうと言う話はしているが、未だ実戦には至っていない。


「順調でしたねぇ」

「いや、順調で片付けられる話じゃねぇ!お嬢もなんとか言ってくださいよ!」

「ユエさんは謎が多いですからね。考えても仕方ありませんよ」

「お嬢まで……」


 恐らくケージさんのツッコミがまともだと思うけど、スルーしてほしい。

 何故これまで魔物と戦闘してこなかったかと言うと、“予定”スキルをOFFにした際、どんな魔物に会うかわからなかったからだ。

 とんでもなく強い魔物と会ってしまったら私は足手纏いでしかない。

 連携云々言っている場合では無くなる。

 それに、またFとEに絞って設定すると、なかなか先に進めなさそうな気がしたからって言うのは建前で、もうゴブリンまみれは嫌だったからだ。


『ダージ』街近くのダンジョンだと、一階層〜十階層位までが初級、十一階層〜二十階層が中級、二十一階層〜三十階層が上級、それ以上の階は特級というようにダンジョンに入る指標が示されている。

 なので、浅瀬で連携の取り方など実践できるだろうと思った私は、未だに“予定”スキルをそのままにしていると言う事だ。

 で、ケージさんの言葉に戻る。


「ケージさん今更ですよ。もう明日には着くんですから」

「そうだけど……夜も見張りいらないんじゃねぇかと思ってきてるよ」


 ケージさん正解です。

 だけど、今日も見張りは立てる。

 最近は私も見張りの順番が真ん中だったり、最後だったりと日によって変わっている。

 やはりキツい日もあるが、これに慣れないとこの世界は生きていけないと思ってなんとか眠気を我慢している。

 今日の順番は最後。


 前の見張りのラミーさんに起こされ、私の番が来た。


「ふぁぁぁぁ」

 

 欠伸をしながら目を擦る。

 眠気が覚めない。

 ストレージから桶を出し、水を入れる。

 今回の移動の途中で立ち寄った村で、大中小の桶は購入済みだ。

 冷たい水で顔を洗うとスッキリした。

 ついでに体も拭ける範囲で拭く。

 それから日課になっているクリフ君たち馬にヒールをかける。

 最近このヒールの効果が高くなってきている様に感じる。

 と言っても馬たちが怪我をしている訳では無いので、正確ではないが、魔法を放つときの光り方というかエフェクトというか、それが過剰に見えるのは気のせいかな?

 他の人の回復魔法を見たことがないので、なんとも言えないが。


 しばらくは何事もなく暇な見張り時間を過ごしていたが、もうすぐ日が登るだろうという時、事は起きた。

 

 ザッ、ザッ、ガサガサ、ザッ、ガサ……ドサッ


 えっ?何?動物?魔物?な訳ないと思うんだけど……

 

 今は森の中の開けた場所で野営をしている。

 なので、森の奥は暗くて認識ができない。

 ちょっと怖いのでケージさんを起こそう。


「け、ケージさん。今茂みで音がしたんですけど……魔物ではないと思うんですが、移動していたような音がして」

「ん?まじか。どっちだ?」

「あっち?」


 恐らくで指を刺す。

 ケージさんは足音を立てない様に茂みに近づいていく。

 その間に私はラミーさんを起こす。 

 寝たばかりなのにごめんなさい。


(ラミーさん、ごめんなさい。もしかしたら何かいるかも)

(!?初めてですね……)

 

 一応二人とも戦う体制を取る。

 すると、茂みからケージさんが何かを肩にかけ、引きずってこちらに戻ってくる。

 近づくにつれそれが人型であることが認識できた。

 

「そこで倒れてた。意識を失っていて手当が必要だな」


 急いでケージさんに手を貸す。

 ケージさんが担いだその人の背嚢を外し、焚かれた火の少し横に寝かせる。

 革鎧を身につけ、剣を携えた大柄の男性のようだ。

 よく見ると左肩から左胸にかけてザックリ切れていて、血が流れていた。

 息も荒く苦しそうだ。

 私は急いでハイヒールをかける。


 パァァァァァ__


 あれ?やはり前のハイヒールより光が強い気がするな。

 それよりも今は倒れた人の状態を確認しなくては。


 倒れた男性の傷は塞がり、息遣いも正常になったと安堵した時、その顔に見覚えがあった。


 ん?この人どこかで見たことがあるような顔をしている。

 どこで見たんだっけな?

 短髪で、シュッとした顎。

 意識がないので目は瞑っているが、整った顔立ちなのはわかる。

 

 うーん、どこで見かけたんだっけなぁ?



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