結婚してたんだ
バタバタと来た時のように帰って行ったヤロ・フォン・ブター伯爵。
玄関に塩を撒こう。
「男爵、玄関に塩を撒きましょう」
「し、お?何故だね?」
「私の故郷では、嫌な客が入ってこないようにするおまじないなんです」
「そうか、しかし塩は貴重なんでな、やめておこう」
そうか、確かに塩は日本より断然高かったから、無駄にするのは勿体無いか。
しかもヤロ如きに。
浅慮でした。
「しかしユエさん、あの大金はどうしたんだね?」
「そうです、我が家にはあのような大金は持ち得ないので、ユエさんが工面して下さったのですか?」
「いえ、あれはエメリアさんが行った治療の代金の一部です。これはその残りですのでお渡ししておきますね」
「「……!?」」
そう言って私はヤロから徴収したエメリアさんが行った治療の対価の残りと、慰謝料をまとめた麻袋を男爵に渡す。
かなりギッシリ入っていて重さのある麻袋を受け取った男爵と、それを見たラメリアさんは開いた口が塞がらない。
「……なんだこの量は……しかも何故これを貴方が……」
「そこは聞かないで頂けると嬉しいです。しっかりヤロから徴収した、エメリアさんの対価ですから安心して下さい」
「ユエさん……」
今までの緊張感が解けたのか、ラミーさんが泣きそうだ。
どうやら、六年前に亡くなった奥さんの治療代で当時かなり無理をしたそうだ。
だから、今も借金が残っていて、本来大金貨五十枚なんて払える経済状況では無かった。
毎月の借金支払いと、使用人達の賃金支払いで火の車だったのが現状のサンディス家。
しかし、このエメリアさんの対価で借金はチャラになる上余裕も出る。
そりゃ泣きたくなるよね。
良かった良かった。
取り敢えず夜も遅くなっているので、今日は解散となった。
でも、私は一つ予定を組まなければならない。
ーーーーー
イベント:ヤロ・フォン・ブターは私の情報を知り得ない
日時 :開始 終日
終了 ーー
場所 :なし
繰り返し:毎日
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は日毎に「3」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
“はい”。
いきなり部屋にやって来て、ヤロの野望を妨害した怪しい女。
あのヤロが調べないわけがない。
もしかしたら、異世界から召喚された人間だと断定されてしまう可能性もある。
そうすると、ワンド国に知られる可能性すら出てくる。
大変困る。
なので、この設定内容。
しばらくはOFFにする事は出来ないが、日毎に「3」ならば問題ない。
今、《毎日》で設定している予定は、【怪我をしない】消費魔力「100」と、【魔物に__】消費魔力「100」の二つだけだ。
後は、お風呂とかトイレだけど、毎日の設定はいつも夜中に魔力を消費してくれているので、他の予定を組んでも大丈夫。
どんとこい! ヤロ!
♢♢♢
翌朝、男爵、ラミーさん、エメリアさんの三人と朝食を取る。
エメリアさんの細さは変わらないが、笑顔が見られるようになって少しホッとした。
食堂で会った瞬間また頭を下げられてしまったが、お礼は受け取るから顔を上げて普通に接してとお願いした。
様付けは変わらず歯痒いが、楽しそうで何より。
エメリアさんはしばらくの間屋敷で療養するそうだ。
貴族の義務として、十三歳から三年間学校に通わなければならず、それまでに体力を戻し、勉強も頑張るんだって。
入学試験もあり、「お姉様のように首席を目指しますわ!」と意気込んでいた。
是非とも頑張ってほしいが、無理もしないで欲しい。
しかし、ラミーさん貴族学校主席か。
どんな内容かもわからないが、賢く優秀である事だけは理解できる。
そんな優秀なラミーさんはやりたい事は無いのだろうか?
今まではエメリアさん奪還の為に冒険者業をしていただろうけど、それも晴れて無くなった。
私のレベル上げに協力してもらう予定だが、良いのだろうか?
この世界の本で読んだが、一般的な女性の結婚適齢期は、十八〜二四って書いてあったと思う。
ラミーさんは丁度その歳頃。
もし好きな人がいたら一緒になりたいと思う歳だよね。
朝食を終え、男爵は仕事へ、エメリアさんは寝室で休息の為それぞれ部屋を出て行った。
私とラミーさんも移動し、居間で腰を落ち着ける。
ケージさんは立ったままだ。
「では、これからの話をしましょうか」
早速本題を切り出すラミーさん。
「ユエさんはレベル三十を目指しているんですよね?」
「はい、出来ればレベル三十までお付き合い頂けると嬉しいんですが、ラミーさんのやりたい事などは無いですか?」
「えっ?どうしたんですか急に。協力するとお伝えしたはずですが」
「そうなんですが……ラミーさんが結婚とか考えていたら申し訳ないなと」
と、思ってる事を言ってみたら、
「まぁ……クスクス。そんな方はおりませんよ?」
「ケージさんは?」
ここで、ケージさんにも振ってみた。
いかにもお嬢様一筋ですって感じだから、まだ私に付き合ってくれるかもしれないけど念の為。
「俺ですか?俺は既に結婚してますから心配いりませんよ」
「えっ!?」
ケージさんを侮っていた……美女のお嬢様の従者はお嬢様が好きって設定を勝手にしてた。
まさか既婚とは。
それにしても良く奥さんはお嬢様との旅に同行する事を許可したな。
こんな綺麗なお嬢様と二人なら間違いが起きてもおかしく無いのに……
「ケージはメアリー一筋ですから。メアリーは我が家で働いてもらっているメイドなんですよ。今度ご紹介しますね」
同じ職場か。
なら、理解有りか。
「では、お二人ともしばらく私にお付き合い頂いても良いですか?どの位で三十になるかもわからないんですが……」
「ええ、もちろん」
「俺も大丈夫ですよ」
そんな二人からの許可を改めて貰い、今後の予定を決めた。
手っ取り早くレベルを上げるなら、やはりダンジョンに行くべきとなり、ここから一番近いダンジョンの『ダージ』と言う街へ向かう事になった。
『ダージ』街へはこの街から十日程。
ヤブォン国に近い街だそうだ。
ヤブォン国……ちょっとざわつく国名だが、別に入国するわけでは無いから大丈夫だろう。
まだヤロの動向も気になるって事で、出発は明明後日になった。
第二章終了です。
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