ヤロ襲来
外が騒がしく、バタバタと人が行き交う音がする。
男性の使用人が食堂へ入ってきて、サンディス男爵に何かを告げる。
顔が強張る男爵。
きっとヤロが乗り込んで来たんだろう。
「食事中失礼する」
そう言って食堂を後にした男爵。
その後を追うラミーさん。
エメリアさんも察したんだろうが、動く事が出来ない。
あんな奴の顔もう見たくないよね。
「私も行きます。エメリアさんを部屋へ」
何故か偉そうに指示を出す私。
それでも私がエメリアさんの恩人と分かっているのか、何も言わずに頷くメイドが三名、エメリアさんを連れ出した。
隠匿操作をして応接室に忍び込む。
すると、いかにもな悪人面で、体積は男爵の二倍はあろうかという男性が、男爵の前に座っている。
「エメリアが戻っているのだろう!?直ぐに引き渡すんだ!」
「何故です?」
「無理矢理連れ戻したのだろう!?」
「いいえ、エメリアが帰りたいと申したので」
「そんなわけない!」
「ブター伯爵が今まで会わせて頂けませんでしたからね。あんなに痩せ細って……」
「いいから返すんだ!あそこまで成長させたのは誰のおかげと思っているんだ!!」
「成長……?あれが?」
「そうだ、エクストラヒールまで使えるようにしてやっただろう」
「……」
やはり目の前の男はヤロ・フォン・ブター伯爵だった。
ヤロとサンディス男爵が話しているが、最後のエクストラヒールの辺りで男爵の顔色がどんどん悪くなり、絶句してしまった。
えっ?エクストラヒールが使えて何が悪いんだろう?
上級回復魔法だよね?
「あの歳でエクストラヒール……なんて事を」
男爵が絞り出すように声を出した。
どうやらエクストラヒールというよりも、エメリアさんの十一歳というまだ未熟な体で上級魔法を使うのは、生命力を削る行為なんだとか。
人によって成長の違いはあるが、本来十五歳の成人になり、肉体、魔力が安定してから使わなければ危険を伴うそうだ。
知らなかった……
でも確かに十一歳ってまだ小学生だ。
小学生にいきなり百メートル走を九秒で走れなんて言ったって無理だ。
もし、出来たとしても発達していない身体を壊しかねない。
そんな事をヤロはエメリアさんにやらせていた。
男爵の理性に感服する。
私の子供がそんな事されたら殴り飛ばしているよ。
「貴方はエメリアに隷属の首輪を着けて無理矢理従わせていたんじゃないか!」
あっ、キレた。
そりゃキレるよ。
「知らんな。現に今着いているのか?」
「……着いていない」
「何の証拠もないではないか」
そう、私とケージさんは首輪を地下室に置いてきているし、手元にあったとしてもそれが外されていては、誰に着けられた首輪だったか証明する事は出来ない。
分かって言っているヤロ。
「なら、エメリアをこちらに引き渡すのだ、男爵」
自分の優勢に強気なヤロ。
「それが出来ないなら、今までエメリアに投資してきた分の金を今すぐ払え。それも出来ないと言うなら……」
ゾワッ
いやらしい顔でラミーさんを見るヤロ。
キモイキモイ!
「待って下さい。お支払いします。大金貨五十枚でしょう」
「いや、大金貨百枚だ。エクストラヒールまで使えるようにしてやったのにこちらの損害は計り知れない。大金貨百枚でも足りないくらいだ」
五千万から一億!?
しくじったー!五千万しかあいつから取ってなかった。
どうしたもんか……
「わかりました、全てお支払いします。ですが来週まで時間を下さい」
「ならん。今この場で応じなければエメリアを戻すか、ラメリアを我が家に嫁がせよ」
このブタヤロー!
直ぐには無理な額をわかって言ってるだろ。
どこで調べたか知らないけど、きっとこの家の財政状況を把握しているんだ。
それなら……
(サンディス男爵、ユエです。ヤロに払うと言ってください)
(しかし……)
(何とかします。証書を作成するように言って時間を稼いで下さい)
ヤロに聞こえないように男爵の耳元でささやく。
男爵は一瞬ビクつくが、ヤロは特に気にしていない素振り。
「伯爵わかりました。用意しますので今しばらくお待ちください」
「ハハハ、無理な事を。今日中でないと受け付けない、一秒でも超えた場合ラメリアは私の物だ」
はあ、キモイ。
男爵は同席している執事に紙を持ってくるように言ったので、証書を作成してくれるだろう。
私もやる事をやらねば。
一度応接室を出て私の充てがわれた部屋に入った。
これからやる事を見られてはいけないからね。
ーーーーー
イベント:エメリア・サンディスが今までに行ってきた治療行為でヤロ・フォン・ブターが受け取っていた代金を、ヤロ・フォン・ブターの金庫から受け取る
日時 :開始 3152年8月1日 19時33分
終了 ーー
場所 :現在地
繰り返し:なし
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は「5」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
イベント内容が長くなってしまったが、詳しく書かないと実行出来ないんだよ。
この入力に時間がかかるのが“予定”スキルの唯一の弱点だ。
迷わず“はい”を押す。
ジャラジャラーー
えぇ……これいくらよ。
何年頑張ればこんなに稼げるんだ?
大金貨が目の前に山程。
数えられないから一度ストレージに入れて見よう。
……四百八十二枚。
四億八千万!?
あのヤローどんだけボッタクってんだ!?
いつからエメリアさんが回復魔法を使い働かされていたかは分からないけど、四、五年でこんなに稼げるもの!?
貴族相手にでも吹っかけてないとこんな額いかないよね?
色々言いたい事はあるけど、お金は手に入ったから今はよしとしておこう。
次に。
ーーーーー
イベント:ガイズ・サンディス男爵の作成した証書に、ヤロ・フォン・ブター伯爵はサインをする
日時 :開始 3152年8月1日 19時40分
終了 ーー
場所 :なし
繰り返し:なし
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は「1」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
“はい”。
もし、何かイチャモンつけて来ても跳ね返せるよう、証書にサインだけはさせないと。
なんだかんだ言ってサインしない可能性すらあるからねあのヤロは。
男爵が証書を作れば悪いようにはならないでしょ。
そして今度は隠匿操作を外し、全員に私が認識出来る形で応接室をノックする。
「失礼します、ユエです」
「入りたまえ」
男爵により入室許可される。
「誰だ?部外者は出て行きなさい」
ヤロにそう言われたが、
「ラメリアの友人で恩人です。この件にも協力してくれるとの事なので同席させて頂きます」
男爵が同席を許可してくれる。
ここは男爵の屋敷だからね!
ヤロは丁度証書にサインを終えたようだ。
「友人の家の危機という事で微力ながら助太刀させて頂きます。なんでも大金貨百枚必要とか。これを」
ドンッ!
ヤロの目の前に大金貨の入った麻袋を置く。
「なんだねこれは?」
「大金貨百枚入っています。ご確認下さい」
「なっ!?おい、確認しろ!」
「ハッ!」
ヤロの後ろに控えていた従者が二名、袋を開けて中身を確認する。
その中身にヤロの顔色はどんどん悪くなっていく。
「旦那様、大金貨百枚を確認いたしました……」
従者がそうヤロに告げた。
「なにぃ!?きっ、貴様何者だ!?」
「ラメリアさんの友人です。お金はしっかりあるでしょ?契約成立ですね」
「……では、伯爵。夜も遅いのでお引き取り下さい」
男爵が話を合わせてくれる。
分が悪くなったのか、麻袋を引ったくって「覚えておれ!」って撒き散らして帰っていたヤロ。
実に悪役っぽいセリフ。
そのお金は貴方の金庫のお金なんですけどねとは言えない。




