奪還作戦(後半)
投げ入れたら煙玉の煙が収まったので、扉を開け地下に下りる。
どうやらしっかり眠り薬は効いてくれたようで、階段下には兵士が一名倒れていた。
ケージさんがその倒れた兵士の体を探し、鍵を見つけ出す。
地下を奥に進むと最奥の扉の前で、もう一名兵士が倒れていた。
倒れた兵士を脇に寄せ、鍵を開け扉を開くと、焦茶の髪の少女が床に倒れていた。
「エメリア様だ」
「わかりました」
ケージさんが倒れた女性を上向きにし、エメリアさんと確認する。
目は閉じているがとても綺麗な顔立ちだ。
髪色は違うけど、輪郭はラミーさんに似ているように思う。
それにしても華奢だなぁ。
ちゃんとご飯をもらえてるのだろうか?
特に汚れた感じはないから、体を洗うことはさせてもらっているのだろうけど、ちょっと首が細過ぎないかな?
ここから見える足首も手首ぐらいの細さじゃない?
早くここから出してあげよう。
ちょっと泣きそうなんだもん、私が。
「じゃ、外しますね」
「頼む」
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イベント:エメリア・サンディスに着けられた隷属の首輪を外す
日時 :開始 3152年8月1日 12時54分
終了 ーー
場所 :現在地
繰り返し:なし
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は「5」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
もちろん、“はい”。
カシャンッ
カラン、カラン、カラン
首輪が外れたのを確認したケージさんがエメリアさんをおぶる。
首に痛々しい跡がいくつも付いている。
また泣きそうだよ。
やめてよ。
泣くのをなんとか堪えて、私は二人の服を掴み隠匿操作を発動する。
ここからは時間との勝負。
恐らく今隷属の首輪を外した事でヤロにバレただろう。
ヤロが『モーナ』に戻ってくる前に屋敷に戻る必要がある。
と言ってもヤロが『モーナ』を発ってから何時間も経っているので、そう早く戻ってくることはないだろう。
それでも地下で倒れている兵士が見つかるのはもっと早いはずだ。
地下の階段を上り、扉を閉める。
本も元の位置に戻し、部屋を出た。
ここまでは順調だった。
「うっ……」
ヤバイ!
エメリアさんが思ったより早く起きそうな気配。
地下部屋の中だったから薬の効きが弱かったのか。
(エメリアさん起きそうですよ!)
(マズイな……声を出されたらバレてしまう)
まだ本邸から出られていないのに……
「う……うん?……ここは?」
起きたー!
しかも、廊下の真ん中で!
幸い近くに人はいないが、いつ来てもおかしくない。
ケージさんが急いでしゃがみ、私が手でエメリアさんの口を塞ぐ。
(んーっ!)
(静かに!私はラメリアさんの友人でユエって言います!ねっ、ケージさん!)
(エメリア様ご無沙汰しております。今はこの方を信じて話さずについて来てください。一刻を争います)
(んんん!?)
エメリアさんは自分の首を摩って、違和感に気付いたようだ。
と、前からメイド服を着た使用人が近づいてくる。
ドクン、ドクン、ドクン
心臓の音がひどく響く。
メイドは隣を通り過ぎ、一つ隣の部屋に入っていった。
(ふぅーっ)
(急ぎましょう!)
それからはエメリアさんが静かにしていてくれた事もあり、無事屋敷を脱出する事が出来た。
ヤロの屋敷を出た後も隠匿操作はそのままに、早足でサンディス家に向かった。
サンディス邸に着くまでずっとヒヤヒヤだったよ。
サンディス邸の門を潜り、屋敷内に入ると同時に私は二人から手を離した。
「ふぅーっ。無事帰ってこれましたね」
「「「おかえりなさいませ、エメリア様!!!」」」
私が手を離し、エメリアさんを認識したと同時に、入り口付近にいた使用人達が一斉に声を上げた。
中には泣いている人もいた。
バタバタバタバタッ
「「エメリア!」」
屋敷の二階から、サンディス男爵とラミーさんが慌てて下りてくる。
「お父様、お姉様!」
それからは家族の涙の再会となった。
この光景では私は泣かない。
良かったねぇで済んだ。
さっきのエメリアさんの足首の方が、ひどく私の心を締め付けたよ。
エメリアさんはメイドに連れて行かれた。
お風呂にでも入って、しっかりご飯も食べて欲しい。
私がメイドでエメリアさんの体を見たら、大号泣する自信があるね。
「ユエさん、この度は本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げたら良いやら。私達に出来ることでしたら何でも仰ってください」
イケメン男爵がそう言ってきた。
じゃ、後妻になんてふざけた事は言わない。
「いえ、ラメリアさんとケージさんにお願いしている事があるので、見返りは何も必要ないんです。きっとこれからが大変だと思いますし……」
絶対ブタヤロー否、ヤロ・フォン・ブターが乗り込んでくるから。
イケメン男爵のお礼も程々に、私は屋敷で充てがわれた部屋に戻った。
ふぅーっ、本当に身体も心も疲れた。
でも、まだやらなければならない事がある。
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イベント:エメリア・サンディスに、精神的苦痛を与えたヤロ・フォン・ブターの金庫から、慰謝料大金貨五十枚を支払う
日時 :開始 3152年8月1日 14時05分
終了 ーー
場所 :現在地
繰り返し:なし
アラート:なし
ーーーーー
【消費魔力は「5」です。実行しますか?】
【はい・いいえ】
よし、実行可能だった。
あんなに痩せ細ってた上、回復魔法を使わせてたんでしょ?
これでも足りないくらいだよ。
それ以上にあのヤロは儲けていたはずだし。
“はい”を押すと、目の前に大金貨がジャラジャラ落ちてきた。
これを麻袋にしまい、ストレージへ。
これである程度は準備出来たかな。
事が起こるまではゆっくりさせてもらおう。
それから、夕食が出来たと声が掛かり、皆さんがいる食堂に行くと、少し顔色の良くなったエメリアさんがいた。
「ユエ様、この度は私の為にお力をお貸しいただき、誠にありがとうございました」
と、深々とお辞儀をされてしまった。
「いえ、気にしないでください!お顔を上げてください!」
「いや、本当にありがとうユエさん」
「ユエさんありがとうございました」
イケメン男爵、美女お嬢に立て続けにお礼を言われる。
顔を上げたエメリアさんの瞳はエメラルドグリーンだった。
これまた綺麗な色だわと見入ってしまう。
皆さん席に着き、さあ夕食だと言う時に、外が騒がしくなった。
いよいよお出ましか?




