他言しない事を推奨する
説明回が続きます。話の進みが遅くてスミマセン。。
コンコン……
コンコン……
「……ヤバッ!目覚ましかけ忘れた!今日朝からミーティ……ってあれ? ここどこ?」
暫くの沈黙。
うっすら木窓の隙間から覗く明かりで見える室内に、違和感を感じる。
コンコン……
「あっ、ハイ?」
「スズキ様おはようございます、エヴァでございます。失礼して宜しいでしょうか?」
エ……ヴァ?
あ、そうだ、昨日よくわからない現象に巻き込まれたんだっけ。
あれはやはり夢じゃ無かったのか……
「おはようございます、ちょっと待ってください」
起きたてだから髪の毛を手櫛で整えてから、エヴァさんの入室を許可する。
「失礼致します。洗顔用のお水をお持ちしました。朝食のご用意も出来ておりますので、ご準備が整いましたらお声がけくださいませ」
そう言って、エヴァさんは新しい水桶とタオルを置き、部屋の木窓を開けた後昨夜の桶を回収して出て行った。
動作が早い……
開け放たれた窓から明るい光が入ってくると共に、爽やかな風も入ってきてとても気持ちが良い。
ところで今は何時なの?
備え付けの椅子に置いていた鞄からスマホを取り出し、時間を確認する。
時刻は六時十二分。
こんな早い時間に朝食の準備まで出来てるって、城勤の皆さんは何時出社なんだ?
朝早くからお疲れ様です。
時間確認で気付いたけど、スマホの充電が満タンなんだが。
昨日充電はしてないし、夜には五十パーセント以下だったと思う。
不思議だ……
ま、とりあえずわからない事は今は置いておいて早く着替えて準備しよう。
もちろん朝起きて、口の中がとてもきもち悪かったので歯は念入りに磨いた。
仕事鞄にマイ歯ブラシ常備は基本です。
「エヴァさん、準備できました」
部屋の扉を開け、廊下に向かって声をかけるとエヴァさんが部屋に来てくれた。
「では昨日の食堂にご案内致します。朝食後、別室にて今後のお打ち合わせとなりますので、昨日お受け取りになった身分証もお持ちください」
「あっ、昨日のシルバーのプレートですね。ーーありました」
「では、参りましょう」
エヴァさんに昨夜と同じ食堂に案内してもらい、端の席に着席。
昨日とは打って変わって食事をしている人が多数いた。
主に騎士の格好をした人達。夜勤交代とかかな?
ただ、この食堂もかなり広く、騎士達とは二十メートル以上離れているから顔はあまり見えない。
皆様体格も良く雰囲気イケメン風だから、そのご尊顔を拝みたかったが、残念。
用意されていた朝食もまたとてもシンプル。
少し硬いパン一つに具なしスープ、サラダにカリカリベーコンのみ。
私には問題のない量だけど騎士達も同じメニューなのかな?
ここからでは、その量まで見えないからわからないけど、身体資本の騎士には物足りないのではと勝手に危惧してしまう。
いや、雑念は捨てて早く食べよう。
うん、やはり何か物足りない。日本の食事に慣れ親しんだ私にはなかなか酷だ。
少し物足りない朝食を終え、エヴァさんにより打ち合わせの部屋へ案内してもらった。
「こちらで、しばらくお待ち下さいませ。担当者をお呼びして参ります」
暫くして扉がノックされ入室を許可すると、エヴァさんと一緒に一人の男性が入ってきた。
中肉中背で四十代ぐらいの賢そうな男性って印象。
格好は召喚された時に広間にいた人たちと同じように、魔法使い風の長いローブを纏っている。
「お初にお目にかかります。私、宮廷第二魔術師団長補佐をしておりますエドゥアルドと申します。本日はどうぞ宜しくお願いいたします」
「初めまして、スズキです。よろしくお願いします」
挨拶を終え、エドゥアルドさんは私の向かいの席に座った。
エヴァさんは扉近くに立ったまま。
「あの……エヴァさんは立ったままですか?」
「私のことは気にせずお話ください」
まあ、メイドさんが世話をする人の前で座る事はないか。
それから、エドゥアルドさんにステータス表示をするよう指示されたので、プレートを出し、昨日と同じ画面を表示した。
「ふむふむ、聞いていた通り【販売部】と言う職業は聞いた事が無いですね。このユニークスキルの“予定”とはどのようなものかお分かりになりますか?」
「いえ、まだ分からなくて……そもそもスキルとかここに表示されている内容自体よく分からないんですが」
「そうでした、スズキ様のいらした世界にはステータスが無いとお聞きしました。このステータスと言うのは__」
エドゥアルドさんがステータスについて詳しく教えてくれた。
・職業はその人の最も適したものが現れ、職業に応じて能力に補正が入る
・HPはその人の生命力を、MPは魔力を数値化したもの。HPが0になると死亡し、MPが0になると気を失う
・スキルはその人が行使できる能力であり、魔法や身につけた技能などを言い、後天的に取得可能
・ユニークは先天的に与えられた特殊スキルで、存命中同じスキルは他に発現しない。
なんとなく理解はしたけど、やはり不思議だ。
説明されても現実味が無いと言うか、理解しても受け入れられていないというか……
ただ、HPが0になると死亡すると言われた時はちょっとゾッとした。
「スズキ様は“鑑定”能力をお持ちですので、ご自身の“予定”に鑑定をかけてはいかがでしょうか?情報が知りたいものに向かって『鑑定』と唱えるか、思うだけで情報が表示されるはずです」
「情報が表示される……すごいですね」
「ええ、“鑑定”スキルは通常人族では授かる事がほとんどないと言われるくらい稀少な能力です。個人のステータスを確認する場合は鑑定の魔道具などを使用します。こちらのプレートでも確認は出来ますが、このプレートは限られたごく一部の方にしか与えられません。ですのでこちらは無くさない様に十分注意して下さい」
“鑑定”能力も、このプレートも稀少って事か。
このプレート売れるのかな?
いや、今は自分の能力を“鑑定”しなくては。
予定欄を見ながら“鑑定”と頭で唱えてみた。
▽▽▽
予定:スマートフォン、タブレットを用いてスケジュールに入力した予定内容を、魔力を消費し実行する。※他言しない事を推奨する
△△△
おぉ、目の前に情報が出てきた!
ちょっとプレートの情報と重なって読みずらいのはしょうがない。
でも、この能力のおかげでスマホが今も使えるのかとなんとなく納得した。
しかし、ご丁寧にも他言しない事を推奨と表示してくれている。
このまま伝えいない方が良いって事か。結局どう使うかまでは書かれていないしね。
取り敢えず日本でのスケジュール機能を伝えてみよう。
「どうやら、この世界にはない道具を使って予定を登録し、登録した日時になるとその予定を知らせるという能力の様です」
「ほう、この世界にない道具とは?」
「これです。これは私にしか使用出来ないそうです」
そう言って、持参していた鞄からスマホだけを取り出し、エドゥアルドさんの前に出した。
取られたら嫌だから私にしか使えないって嘘ついちゃったけどね。
「予定を知らせる能力ですか。それはあなただけですか?」
「そうですね、他の方の予定も登録できると思いますが、共有機能は無い様ですね。あまり人の役には立たないかと」
「そうですか。ユニークスキルは特殊なものが多いので期待しておりましたが……」
「なんか、スミマセン……」
「いえ。ただ、“鑑定”スキルをお持ちですので、後方支援としてはとてもありがたいです。では、続いてスズキ様の魔法適正を調べましょう」
と言って、彼は手のひらサイズの水晶玉を懐から出した。
「これに触れて魔力を流すと、貴方の適正属性がわかります」
「あの……魔力を流すってどうやるんですか?」
「……失礼致しました、魔力のない世界からいらしたんでしたね。ではエヴァ、スズキ様の手を取り魔力の流し方を教えて差し上げなさい」
「かしこまりました。それではスズキ様、両手を前にお出しください」
言われるままエヴァさんに両手を出すと、両手を握られ、彼女は目を瞑った。
するとフワッと私の中に何かが入ってくる。
そのフワッとしたものは私の体を流れ、エヴァさんに戻っていくような感覚だ。
「今流したものが魔力です。丹田にあるツボから魔力を出し、巡らせるよう意識してください」
丹田ってどこだっけ?
「あの、丹田ってどこですか?」
「……失礼致します。(トンッ)この辺りです」
エヴァさんが一瞬呆れたような表情をしたのは見逃すまい。
それでも示されたお腹の下あたりを集中して意識する。
先程感じたばかりだったからか、フワッとしたものを感じることが出来、出すことに成功。
とてつもない違和感は拭えないが、お腹から下半身へ、下半身からまた上半身へ、そして手に。
「出来たようですね、ではこちらに触れて魔力を流してください」
言われるまま水晶を触ると、ピカッと光った後淡い緑色と金っぽい色に変わった。
「おお、二属性に適正があるとは。しかも風と聖ですか。ふむふむ」
エドゥアルドさんの顔色を窺う限り、どうやら私の適正属性は良いもののようだ。
「魔法の属性に関してご説明させていただきます。基本の水・火・土・風の四属性に加え、聖・無の六つの属性に分かれます。風属性は一般的ですが、聖属性は千人に一人の確率と言われるほど稀少な属性です。聖女様がお持ちのように回復支援に特化した属性です。一部攻撃魔法を使用することもできます。また、一般的に適正属性は一つしか持たないものがほとんどです。二属性の適正は千人に一人、三属性は一万人に一人、四属性は確認されているだけで過去に賢者と呼ばれた五名のみです。六属性全てに適正を持ったと言われている者は伝承に残る【神使】と呼ばれた偉人一人のみです。名前は伝えられておらず、【神使】は創造神様の加護を唯一授かった人物であるとも伝えられています。ですが、あまりに古い伝承のため実際はどうであったか定かではありません。ですので、今では最大適正は四属性が最高と言われています。スズキ様は二属性適合した上に希少な聖属性持ちであり、“鑑定”スキルもお持ちなので城で保護されることとなるでしょう。良かったですね」
エドゥアルドさんが興奮した様に話し始めた。
徐々に早口になっていったので、後半よく聞き取れなかったけど、創造神様って単語が気になった。
日本では聞き慣れないけど、加護ってことは神様かな?
こんなとんでもない世界だから神様が身近でも不思議ではないと納得してしまう私も、この状況に順応しつつあるのかもしれない。
「あの、私には無いですが神様の加護って貴重なんですか?」
「そうですね。神々の加護に関してですが、通常授かることはありません。勇者様・賢者様・聖女様がそれぞれ一柱から加護を受けていることは驚愕に値します。加護持ちは十万人または百万人に一人とも言われておりますから」
「そ、そうなんですか……三人はすごいんですね」
「ええ、その通りです。では、本日はこの辺りで失礼致します。結果を報告しなければなりませんので、明日また同じ時間に参ります」
エドゥアルドさんに明日もよろしくと伝え、彼は退室していった。
スマホを見ると時刻は十二時五分。
結構時間が経っていたのか。
半日しか経っていないけど、もう疲れたな。
情報が多すぎて頭が痛い。理解するのも精一杯だよ。
エドゥアルドさんと話した後は夕食まで自由時間と言われ、取り敢えず私の当てがわれた部屋に戻った。
一人で色々この状況を整理したい。