回復魔法の相場
フードを取ったラミーさんはとんでもない美人だった。
肩まで伸びた金色の髪、今朝見た海を思い出すようなブルーの瞳。
小さい顔に、バランスの取れたパーツ。
もちろんメル様とまでは言わないけど、こんな美人日本でお会いした事ない。
海外の俳優さんのようだ。
こりゃ、どこぞの貴族が放っておく訳ないなと納得した。
「ラミーさん、顔を上げてください」
頭を上げたラミーさんと目が合う。
またあの綺麗なブルーの瞳に見つめられると、同性だが照れてしまう。
十人並みの私の顔が対峙して良いお顔ではない。
いや、私の顔は十人並みというにも烏滸がましいかもしれない。
自分の顔が悲しくなったが、そんな事を言ってもしょうがないので話を進めなければ。
「私が唐突に無神経な事を言ってしまったのがいけないんです。戸惑わせて申し訳ありませんでした」
ラミーさんのお綺麗な顔を拝んだら、さっきのイラつきは消えていて、謝ってしまってた。
美人羨ま!
いや、私がただチョロいだけか。
「ここでは話しづらいので、お二人が良い場所で話しませんか?」
「お気遣いありがとうございます。では、私の泊まっている宿で良いでしょうか?ケージは隣の部屋で寝かせます」
「お嬢!俺は!」
「黙りなさい。あなたは今は休みなさい。話は私がします」
「……かしこまりました」
流石お嬢様、バシッと言えるねぇ。
ケージさんはラミーさんの護衛だから警戒するのは当たり前だよね。
それでも主人の命令には従うんだから、しっかりした主従関係だ。
それから、街に戻り、ラミーさん達が泊まっている宿に行った。
クリフ君は、その宿の厩舎に銅貨二枚渡したら一時預かってもらえた。
ケージさんを彼の部屋に寝かせ、私とラミーさんは彼女の部屋で二人きり。
もちろん襲いませんよ。
「私の本名はラメリア・サンディスと申します。サンディス男爵家の長女です」
貴族の御令嬢がこんな安宿に?って思うような宿に泊まってらっしゃる。
こっちの話し方がラミーさんの素かな?
「ご丁寧にありがとうございます。私はご存知の通りユエです。特に家名はありません」
「貴方は本当に貴族ではないのですか?」
「えっ?何故です?どう見ても庶民ですよ?」
えっ?ラミーさんが納得行かないような顔をしている。
「いいえ、庶民はそこまで綺麗な髪をしていませんし、お肌も手入れされていますよね?それと、ユエさんはいつも綺麗な状態の洋服をお召しになっています。経済的に余裕があるのは明白です」
げっ、そんな所見られてたのか。
確かに経済的余裕はあの国のお陰だが、髪や肌は神様のお陰だ。
出来れば毎日綺麗な体でいたいし、綺麗な服を着たいって言うのが仇になったのか……
でも毎回買ってるわけではなく、ちゃんと洗濯してるだけだよ?
洗濯する貴族なんていないでしょ?
ただ、日本の文化レベルが高すぎるだけだし。
「本当に貴族ではありませんよ。ただ、確かにお金には少し余裕がありますけどーー」
そう言うと、ガバッといきなりラミーさんが頭を下げてきた。
「見苦しいのは承知しています。でもお願いです、私の家族を救うため、お金を融通して頂けませんでしょうか?」
「と、取り敢えず頭を上げてください!」
いや、展開が早いな!
まだ私何も話してないんだけど!
なりふり構ってられない状況なのかな?
馬車の護衛の時は全く感じさせなかったのに。
「ラミーさん、お金が必要なのはご家族を取り戻すためですか?」
「貴方は何故その事を知っているのですか?我家の者以外は知らないはずです」
「また信じてもらえないとは思いますが、神託があったんです。と言っても私は聖職者ではないですからね。たまたま信託を受けただけと言うか何と言うか、ですから本当ですって!」
めちゃくちゃジト目で見られた。
そりゃ、私もこんな事言われたら疑うよ。
「貴方のご家族は聖魔法が使えるんですよね?そして、そのご家族に魔道具を付け、隷属させられているんですよね?それを開放して欲しければ貴方が嫁ぐか金を払うか。どうですか?」
今度はかなりビックリした表情。
レディだからかしっかり口元は抑えてるけど、綺麗な目が飛び出そうですよ。
「何故そこまでのことを……本当に神託……でも、預言者しか受けないのではなかったかしら……?」
「そこは気にしないでください。それに、お金を払っても根本的な解決にはならないと思います。また法外な金額を言われるかもしれませんよ?」
「では、どうしろと!?あんな男に嫁げば良いのですか!?もちろん妹を守るためならと考えました、ですが……どうしても体が拒否するのです。あの男の屋敷の前に行く度、吐き気がするのです」
重症だな。
そして、囚われたご家族は妹さんか。
彼女もさぞ綺麗なんだろうな。
そうなると……色々無事なんだろうか。
「妹さんが拐われたんですか。彼女を娶ろうとはしないんですね?」
「ええ、妹は今年十一なんです。あの男はまだ私に執着しているので、手はつけられていないと聞きました」
「それは良かった……」
本当に良かった。
いや、隷属させられている時点で良くないんだけど、最悪な展開だけは避けられているようだ。
「貴族の義務として五歳の頃に魔力測定をしますが、そこで妹エメリアの属性が貴重な聖属性と判定されたのです。それを知ったあの男、ヤロ・フォン・ブター伯爵が支援を申し出たんです。教会へ入らないためには後ろ盾が必要でした」
ああ、何となくわかったわ。
ブタヤロー、あっ、間違えた、ヤロ・フォン・ブターは金に物を言わせてまずは妹の後ろ盾になり、聖魔法の教育を施してくれたらしい。
エメリアさんが成長して、魔法の腕が上がると、隷属の首輪を付けられてしまったそうだ。
良くしてくれていたはずの男の豹変に、さぞ怖かったんではないだろうか。
今では、ヤロの言う通りに毎日回復魔法を使わされているらしい。
しかもそれでヤロの野郎はかなり儲けているとか。
「そうでした、貴方にお支払いしなければなりませんでしたね。二度もケージに貴重な魔法を使って頂きました。失念しいてた上、お金を融通してくれだなんてお願いをして……申し訳ありませんでした」
「いえ、それは気にしていません。ところで、回復魔法の相場ってどのくらいですか?」
相場を聞くとびっくりした。
私が使える魔法だと、
【ヒール】 一回銀貨二枚
【キュア】 一回銀貨三枚
【ハイヒール】 一回銀貨八枚
【アンチドーテ】一回金貨一枚
高すぎない?
ヒール一回二万に、ハイヒール一回八万って……
確かに聖属性を持つ人は少ないかもしれないし、その人の魔力量によって使える回数は違うけど、高すぎるよ。
重症なのに、すぐに払えない人だっているかもしれない。
しかもこれは相場だからもっと高い場合もある。
王都など栄えた都市だとより高いそうだ。
もちろんラミーさんの支払い申し出は断っておいた。
私が勝手にやった事だし。
ちなみに、ヤロからラミーさんが要求されている金額は大金貨五十枚。
円で見ると大凡五千万。
男爵家の貴族といえど簡単に払える額では無い。
それに勝手な予想だけど、そう言う悪い奴は難癖つけて金額を釣り上げるか、受け取らない気がするのよ。
それならやはりエメリアさんを奪還するしかない!
「ラミーさん、エメリアさんを奪い返しますよ!」
ラミーさんを置いてけぼりにして、一人で勝手に盛り上がっている私。




