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息をのむ程の景色


 ゴブリンの処理は苦痛だった。

 討伐部位が耳なのでその部分の切り取りと、魔石の回収。

 それは冒険者組がやってくれたけど、討伐したゴブリンを一箇所に集めるのを手伝った。

 死体を持って集めることの苦痛。

 子供ぐらいの身長だし、腰蓑を巻いただけの出立ちだが、全く可愛くもない上に激臭。

 オェオェ良いながら一箇所に集める。

 ある意味荒療治。

 まだ慣れないけど、耐性がそのうち付くと信じたい。

 集められたゴブリンの死体達は、一気に燃やされた。

 これがまた悪臭で、吐き気を堪えるのに必死だった。


 そんなこんなで苦痛を乗り越え、フレイ街の隣村へ着いた。

 隣村につくまでに魔物に襲われる事はなかったが、六匹のゴブリンが群れで出て来たと言う事は、もしかしたら集落ができている可能性があると冒険者の二人は考え、村長にこの事をギルドへ連絡して欲しいと伝えていた。

 この村にギルドはないが、連絡手段の魔道具があるらしくギルドへ派遣の手配を取ってくれると承諾してくれた。


 そうして私たちは宿屋へ。

 今日の走りを労った後、クリフ君を厩舎に預けた。

 ここでびっくりしたのは、ケージさんとラミーさんが夫婦もしくはカップルかなと思っていたのが違ったこと。

 部屋が別々だったので判明した。

 ただチームを組む仲間だって言ってた。

 ま、男女二人だからカップルだって決めつけるのも良くないね。


 夕食を取り、ゴブリン討伐の疲れと臭いを取る為、お風呂を呼び出しゆっくり浸かる。

 夕食前にお風呂に入りたかったがそうも行かず、ゴブリンの臭いが消えない状態での夕食は正直キツかった。

 出来ればもうタン街までゴブリンには遭いたくない。


「グギャグギャッ!」

「ギャギャッ!」


 ……翌日すぐ遭ってしまった。

 

 今度は四匹。

 ケージさんとラミーさんが危なげなく倒す。

 私も処理を手伝う。


 それから、移動をする度、何度これを繰り返しただろうか。

 予定で設定した私がイケナイんだろうけど、遭い過ぎじゃ無い!?

 恐らく、十五匹ぐらいには遭遇していると思う。


 三日目の野営時、耐えきれなくなり予定スキルの“FとEの魔物は除く“を削除した。

 やはり私は考えが甘いんだと再認識。

 予定スキルが無ければ簡単に命を落していただろう。

 はぁぁ。


♢♢♢


「はぁぁぁ」


 これは残念な溜息ではない。

 あまりの絶景を前に声が漏れたものだ。


 予定スキルを変更した後からは魔物に一切出会う事なく、無事予定日の正午にはタン街に着いた。

 御者のおじさんと冒険者にお礼を言ってこの街で別れた。

 冒険者の二人は二、三日この街にとどまるとも言ってたから、また会うかもしれない。


 そして今私とクリフ君は、御者のおじさんオススメの浜辺へ来ている。

 日本の海より数倍キレイな砂浜と、透き通っていて遠くまで海中が見える海を眺めて、ため息を付いている。 

 恐らく地球にも綺麗な砂浜や海はあっただろうけど、実際自分の目で見たことがない私は感動していた。

 クリフ君は海に来た事があるかわからないけど、喜んでいるようで良かった。


 ストレージから出した鍋に水を並々入れ、牧草と共にクリフ君に出す。

 私もタオルを出して砂浜に引き、腰を下ろす。


 なんて良い時間なんだ。

 天気も良く、気温は少し高いが海の潮風がとても気持ちが良い。

 きっと帰った頃には塩でベタベタしているかもしれないが、お風呂に入れば良いと今の気持ち良さを取る。


 ストレージからフレイ街で買ったシチューとパンを取り出し食べ始める。

 一人と一頭でのんびり昼食。

 こんな綺麗な海を見ながらとはとても贅沢だ。


 食後、ちょっぴりウトウトしながら、のんびりした時間を過ごし、満足したところで宿に行こうと街に足を向けた時、それが目に入った。


 少し離れた崖の先に、夕日に照らされた建物が見えたのだ。

 神秘的であり、かつ荘厳さも感じる。

 こちらからは崖を見上げる形となるが、その建物の存在はハッキリ見てとれる。


 そのあまりの存在感に動きを止め見入る私の顔に、早く帰ろうと言わんばかりにクリフ君が鼻を擦り付ける。

 そのおかげで現実に引き戻され街に向かったが、無性にその建物へ行きたい気持ちが募る。


 それでも今から行くのは帰りが遅くなると踏みとどまり、街へ戻った。


 街に戻り、露店のお姉さんにオススメ宿を聞き向かうと、オススメなだけあり、一泊夕食付き大銅貨五枚の安価な宿とはとても思えない程豪華な夕食を提供してくれた。

 そして驚くことに、漁が盛んだからか魚を生で食す文化もあった。

 酒場も兼ねる宿の宿泊客の多くが、酒を飲みながらツマミに生魚を食べている。

 ちなみに魚醤で。

 この街の人や、馴染みの商人たちは生魚に抵抗がないとか。

 むしろ、平然と食べる私に驚かれた。

 生魚を初めて目にする者は誰しも臆するし、手をつけない者も多いというが、私は食大国日本で育っているので、臆するも何も普通のことよと出されたものを平らげる。

 それを見た配膳係の従業員や客たちは気を良くし、色々この街の事を話してくれた。

 ついでにさっき見つけた建物のことも聞いたら、あれは教会らしく、神聖な場所なんだと教えてくれた。


 なんでも、何千年前に一度だけ神がその教会に降り立ったとか。

 当時の司教は腰を抜かして、寝込んだとも言い伝えられているらしい。

 そんな眉唾の話を聞いたけど、納得するくらい神秘的だったなと思い返す。


「姉ちゃん、興味あんのかい?」

「ええ、浜辺から見えたんですが、何故か無性に行きたくなる場所でしたね」

「だろだろ!あそこはこの街の誇りなんだ。明日行ってみろや」

 

 そう気さくに酒場のマスターが声を掛けてくれた。

 この街の名所と謳ってる場所なので、訪れる人が多く治安も割と良いとか。

 明日、クリフ君と行ってきますとマスターに伝え部屋に戻る。


♢♢♢


 翌日、早速クリフ君を連れ目当ての教会へ向かう。

 ここで私はクリフ君へ初めて跨った。

 実は、“予定”スキルにクリフ君へ乗って教会へと設定したところ、起きてクリフ君の所へ向かうと、昨日までは無かった鞍が付いていたのだ。


 そして体は自然とクリフ君に跨り、手綱を握って出発の合図を出している。

 ああ、不思議。

 自然に体が動くことに慣れてきていたつもりだが、出来ないはずの乗馬ができている自分が不思議でしょうがない。


 ゆっくりとクリフ君のペースに合わせ向かってもらう。

 程なくして目的地の教会前まで着き、降りる。

 その途端“予定”スキルがオフになったのか、太ももがガクガク言い出した。

 恐らく十五分ぐらいしか乗っていなかった筈だが、それだけで私の普段使わない筋肉は悲鳴を上げている。

 ちょっと休憩しよう。


 近くにあった岩に座り、クリフ君に水を出す。

 あまり動けなくて、雑な出し方でごめんよ。

 しかしこの筋肉痛、すぐきてくれた事は嬉しいが何時間も乗っていたら私の体はどうなっていたのか考えると怖い。

 今は下半身だけだが、そのうち全身に感じるだろう。

 王城を脱出する前は逃げるために頑張って筋トレしていたが、ワンド国を脱出すると安心して全くしていなかった。

 これは本気でまた鍛え直さないと。

 と、言っても自分に甘いからやるとは限らない。


 そんな事を考えながら休憩し、まだガクガク言っている私の体に鞭を打ち、クリフ君には外で待っていてもらい、教会に向かう。


 近づけば近づく程、神聖な雰囲気が肌にひしひしと感じる。

 見た目は高さ十メートルぐらいの縦長ないわゆる教会という佇まいなんだけど、オーラというか形容し難い雰囲気を醸し出しているのよ。

 勿論教会の入り口には騎士と思しき人が両側に立っているが、特にチェックをされる事も無く、中に入れた。


 大きな入り口を入り、私は息を呑んだ。


 何も遮るもののない正面は、全面ガラス張りで、海を一望できるようになっている。

 そして、正面のガラス少し手前の両端に、男女の石膏像がそれぞれ外を望むようにこちらに背を向け設置されていた。

 普通教会の銅像は入り口に向かって、入ってきた信者向けに置かれているように思うんだけど、この教会は違った。

 ここから見える景色も、太陽光の当たる後ろ向きの石膏像も、私をなんとも言えない気持ちにさせる。


「奥へお進みください」


 手慣れたように、入り口にいた騎士が後ろから私に声をかける。

 恐らくこの光景を見た人たちは皆私と同じ様になるのだろう。


 すみません、と言い、中央に奥まで真っ直ぐ敷かれた絨毯を進み、丁度男女の石膏像の中間にくる位置で止まる。

 石膏像を覗き込むと、二つの像とも微笑んでいるのが分かった。

 この景色を楽しんでいるような顔。

 この教会は神様を喜ばせるために作られたのかな? 

 きっと頓珍漢な考えだろうと思うが、そう思わざるを得なかった。


 前に向き直り、祈りの作法なんて分からないけど両膝をつき両手を胸の前で組む。

 目を瞑り、神に感謝をした。

 その瞬間。


 パァァァァァ……


 眩い光に包まれた。

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