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泣いてばかり

なんか、ずっと泣いてます。


 パァァァ……


 怪我をした馬を切り捨てると言われ、衝動的に回復魔法の“ハイヒール”をかけてしまった。

 みるみるうちに馬の足と体の傷が治っていく。

 ぶっつけ本番だったが、魔法がちゃんと馬にも効いて良かった。

 体感的に、城で訓練した時より魔力消費量が多い気がする。

 心から治れと祈ったのも影響するのかな?


「あんた、聖魔法も使えたのかよ……」


 倒れた兵士の横にいた男性冒険者が、目をまん丸くして私にそう言って来た。


 あっ、……そうだった、聖魔法って貴重だったんだ。

 何も考えず使っちゃったけど、後悔は全くない。


 ヒヒィーン!


 ま、言葉なんてわからないけど、馬も喜んでそうな気がするし、知られても良いや。


 馬が高らかに鳴いた後、私に鼻を擦り付けてきた。

 馬の鼻の頭あたりを撫でる。


「治って良かったね。すみません……次の街までつれて行って良いですか?水は私があげるので」

「……ああ、動けるようなら問題ないだろう」


 聖魔法から話を逸らし、馬を連れて馬車に戻った。 

 一旦街道の外れに行き、休憩を取る。

 傷は回復しても、体力や血は戻らないから少し休ませてから出発となった。

 私の勝手で馬を連れて行く事にしたけど、乗客の皆さんの反対は無かった。

 もしかしたら、移動が順調に進んでいて、予定時刻よりも早く進んでいたのも良かったのかもしれない。


 その後馬は、馬車の後方に紐で緩く繋ぎ、後ろから走ってついて来ることになった。

 

 走る事数時間、今日の野営地に到着。


 ストレージから鍋を出し、そこに魔道具の水袋で水を並々入れ馬に出す。

 馬に水をやっていると、御者が余った飼料を連れてきた馬に分けてくれた。

 御者にお礼を言い、出してやると喜んで食べていた。


 私は食欲がなかったので、水のみ。

 近場の岩に背をもたれて座りながら、馬の食べている様子を見る。


 美味しそうに食べているけど、君の飼い主と思われる男性はいないんだよ?

 馬は頭が良いと聞くから、飼い主がいない事も理解していて、気丈に振る舞っているのかもしれないと勝手に解釈したら、泣けてきた。

 ワンド国を脱出した時まだ泣くまいと決めてたのに、速攻で泣く。

 この世界に来て、自分が思っていた以上に泣いている気がする。

 情けない。

 

 飼料を食べ終わった馬は、私の元までトコトコ来て、隣で膝を折って横たわった。

 回復してあげたのが私だから懐いてくれたのかな?

 近くから体温が伝わってきて暖かい。

 その日は馬に寄り添うように眠りについた。


 翌日目を覚ました時、夢は覚えていないが誰かにありがとうと言われたような気がした。

 昨日まで感じていた重たい気持ちが晴れていくのがわかった。



♢♢♢



 テーレ出発から三日目の十五時頃、昨日は想定外の事があったが、目的地へは当初の予定通りの時刻に到着。


 検問の際に、昨日の出来事を護衛の冒険者がヨーク国の兵士に話し、場所を移動させられた。

 私は連れてきた馬を引き、冒険者の後についていく。

 つれて行かれたところは詰所の奥で、訓練場のような場所だった。


「ここに遺体を出してもらえるか?」


 訓練場で待機していた、隊長と名乗る人が指定した場所に、兵士の遺体を出す。


「……クレインか。ここまで運んでくれた事、感謝する」


 横たわる兵士を見つめ、口を強く結ぶ隊長さん。

 仲間の死に慣れなんてないだろう。

 無言で見つめる様が余計に辛い。 


 そして、横たわって顔だけ布が被さっていない兵士に、馬が顔を擦り寄せる。


 おいおい、こりゃ泣けってことか?

 こう言う生き物と人との場面ダメなのよ。


「クリフか……クリフもここまで連れてきてくれて感謝する。怪我をしてたとか」

「ええ、治療して連れてきました」

「ポーションか?」

「いえ……」

「回復魔法か?」

「……はい」

「……そうか」


 それ以上隊長は何も言わなかった。

 私が回復魔法を使ったのは冒険者達に見られてるし、嘘をつくのもどうかと思って素直に答えた。


 それから、その場に隊長は残り、別の兵士に別室へ連れて行かれた。

 そこで彼を運んできてくれたことへの謝礼を貰う事になった。

 私の自己満足でやったことなのに、謝礼をもらうことでまた何かモヤモヤしたけど、その場に埋葬されるより家族の元に帰れるのだからと兵士に言われ、受け取った。


 私が詰所から出る頃にはもう誰もいなかった。

 乗客たちも御者も冒険者も。


 こう言う時一人は本当に寂しいし、虚しい。

 ずっとモヤモヤしてる思いを誰にも吐き出せない。

 そんな状況がこの世界に来てからずっと続いている。

 普段考えないようにしてたけど、その分今になって溢れてくる。

 誰か、誰か助けて。

 精神的に限界だよ。

 誰も頼れないんだよ。


 夕日が沈む空を見ながら、隠匿操作で気配を消して泣きながら歩いた。


 ヒックヒック言いながら歩いていると、通りの人がギョッとした顔をしていたけど、どこから泣き声が聞こえるのかわからないみたい。

 すれ違う人達が不思議そうな顔や、恐怖を感じているような顔をしている。

 お化けだと思われたかな?

 すれ違う人のそんな顔を見ていたら、とても失礼だが、何だか面白くなってきて、涙は止まった。

 きっと今の私の顔は認識されていないだろうけど、ヒドイ事になっているだろう。

 見られていたら、もっと怖がられていたかもしれないね。


 そんな当てもなく、どことも知れない道を歩き続けていると、変な名前の宿を見つけた。


【宿の隣】


「……」


 テーレと姉妹店か?

 似たようなふざけた宿名と、とても似ている外観。

 宿の中もテーレの【隣の宿】とそっくりな内装。

 やっぱり姉妹店じゃなかろうか?


 宿の受付は男性だった。

 もしかしたら兄弟でやってるのかなと思ったが、似ている感じがしない。

 やはり私の勘違いか。

 受付の男性に取り敢えず二泊お願いし、部屋に入る。

 今回くらいはちょっとゆっくりしても良いよね?


 夕食を食べる前にお風呂に入る。

 こんなにもお風呂が気持ち良いと思った日は無い。

 悪いものが洗い流されていく感覚。

 三日振りのお風呂がまた涙を誘う。

 いや、泣きすぎて水分が足りてないから!

 昨日は嘔吐もしたし、今日は歩き泣きしたし、もう本当カラカラですよ。


 でも、体が温まったからか、あのさっき感じたどうしようも無い絶望感から、ちゃんと思考が戻ってきた気がする。

 それとお腹もすいた。

 昨日からほぼ水分だけ。

 それもさっき泣いて全部出切った。

 スープが飲みたい……


 お風呂から上がり、宿の一階の食堂で豆のスープとパンを注文し、その美味しさにまた泣きそうになった。

 ただのスープなのに!

 きっと精神が正常な時なら、ああスープねで終わるような味なのに。

 どんだけ涙腺緩くなってるんだよ!


 ダメだ早く寝よう。




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