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旧大日本帝国軍の不満と落ちどころ

皇軍は不滅である。その精神性が誇り高き限り

 旧大日本帝国軍は不満があった。いや、それでは語弊があるだろう。旧大日本帝国軍の佐官以上の人間に不満があった。


 確かに日本の国力、経済力、技術力は極めて強大で天皇制を敷いている点から見たら何ら祖国大日本帝国とは違いはない。


 だが。その天皇陛下は大正天皇でもなく、未来かつ世界線が違う日本の天皇陛下である。天皇陛下を敬う気持ちはあれど…ちょっと従い難い感情が沸き上がる物だった。


 しかも、自衛隊と言うのは気に食わない。主力を担っているのは彼らであるのだが、われらが皇軍の誇りを失うべきではないのだ。



 だが、佐官としてはクーデターを起こすことは考えてなかった。物理的に離れているし、どうやっても銃火器は持ち込めずに治安維持部隊に殲滅されるのがオチだからである。ただ、何らかの爪痕を残すべきだと主張する将校も居たが、以前の大日本帝国の国会は乱闘国会と言われるほどであったが、あれと比べるといくらかマシだった。


確かに不満はあるし、心情的にわだかまりはある。であるが、そもそも旧大日本帝国軍の将兵は凡そ2/3に減少している。1/3は軍歴を終えた者たちで、経済的に安定を見せた樺太にて予備役となって日本から樺太に進出してきた日本企業に就職、樺太という現地に根を張り始めている。


 旧大日本帝国軍は連邦軍(日本国憲法が連邦制になった事を切っ掛けに名称と役割が規定された)であるが、樺太・千島州に依頼され州軍の教育を行っている。また、樺太・千島州は、日本という独特な雰囲気を持つ本土に合うことができなかった旧大日本帝国軍将兵が入植している。また、各州は日本国憲法の範疇の中で自治を行うことができる。

 そのため、樺太・千島は大日本帝国の気風を継いだ独特の雰囲気を醸し出す州となった。







 とある樺太の地にて。


「なぁ、お前吉田とヤッた事があるか?あいつはすごいぞ~~!」

 中隊長を務める某佐官が、同僚に昼間から話すのには憚れるわけのわからない話を始めた。ちなみに吉田は吉田である。

「はぁ……貴様それで皇軍の誇りはあるのか?」

「あるに決まっているだろう!それに貴様こそ東京で妙な代物を買っていたではないか!抱き枕カバーとか言う物を!」

 ちなみにその抱き枕カバー。なんでも擬人化を始める変態国家が作った日本製の抱き枕である。勿論絵柄は推して図るべし。

「!!!!あれは俺の生死にかかわる重要な物だ!妙な代物ではない!」


 そう、大日本帝国軍は栄光ある皇軍だった…………栄光ある皇軍だった(過去形)。


 何とも1世紀先の技術は、栄光があり一目見て下らんと言い捨てそうな皇軍でさえ、娯楽で押し流しかけている。


 やはり同じ日本人。日本人は全員ロリコンなのだ(そもそも日本人女性は諸外国人からは幼く見えるらしい)

 


 だが、そこは大日本帝国軍の将兵である。娯楽に押し流されかけていても、それはそれ、これはこれ。

「なぁ、話は変わるが貴様は東京に行くらしいな。決起するのか?」

「バカいえ、拳銃すら持って入れないくせにどうやって決起するのだ。新年一般参賀に行くのよ!」

「一般参賀といえば……陛下を一目見れる可能性があるあの行事か。」

「そうだ。それでこの目で確りと見届けるのよ」

「ほぅ。なるほどな。でどうやって行くのだ?樺太から直接東京に航空機の便は出ていないはずだ」

 そう、樺太の飛行場は軍民両用なのだが、いかんせん民間の航空機材がいささか貧弱で、双発ターボプロップの短距離路線しか開通していないのである。なお、双発ターボプロップといえども、収容力は19世紀前半の旅客機の性能を大きく上回っているのだが。

 東京ー樺太間を結ぶ長距離便は、需要があまりないと考えられているため就航しておらず、この時点では樺太:大沢ー北海道千歳間の航空便があるのみである。


「千歳まで出たら鉄道に乗り換えるのだ。東京に行くために北海道新幹線とやらの切符を買うたのだ。東京に着いたら一泊して臨むつもりである」

「そうか。後でどうだったか聞かせてもらおうか」


 ちなみに、その佐官は元日の一般参画で“天皇陛下、万歳!”をやるの勢いで(実際は狭くてできなかった)滂沱の涙を流していた。

 そんなことがあった明後日、とある樺太の駐屯地にて。


「おう、行ってきたのだろう。どうだった?」

「…………」

「おい、どうした?軍医を呼ぶか?」

「本物だ……天皇陛下は本物だ!あの何とも言えない我々とは一線を画した雰囲気!感動であった!」

「そ、そうなのか。よかったな。」

「貴様、信じてないな!次の一般参画は全員で東京に行くぞ!」






 その次の年。第1の部で天皇陛下が出てきた瞬間滂沱の涙を流す集団が見られた。周りの一般人は引いた。そして、その旧大日本帝国軍のそこの駐屯地の佐官以上は絶対に一回は一般参画に行かなければならないという伝統が出来上がった。



 さて、樺太・千島は一般人という名の予備役や現役軍人が多くを占め、全体的に尚武な国であった。また、本国(日本)の政治は以前の乱闘国会の時代よりかはましになっているがやはり腐りかけているといえた。

 だが、日本のインターネット網が持っていた前の世界の主要国家の国会の様子を見ていると、今の本国とあんまり変わらない。軍事政権であっても民主政治あっても君主制でもどこも腐っていたのだ。


 そう、大日本帝国軍人の希望は失われた。だが、一重の希望があった。樺太・千島である。樺太・千島には多くの大日本帝国軍人もしくは予備役が多くを占め、賛同者も多い。ここで、旧皇軍の出身者でかつ政治に明るいものが理想的な国づくりを求めて軍をやめ、政治界隈へと飛び出していったのだ。大日本帝国の保護領や植民地に駐屯していた皇軍の尉官・佐官連中のほとんどが統制派であったこともあったのかもしれないし、統制派と皇道派の主要人物が軒並みどこかに吹っ飛んだからかもしれない。


 後に国家公安委員会の緊張が副産物となった旧大日本帝国退役高級将校が政界に飛んで行った事柄は、のちにとある巷では令和維新と呼ばれ静かな維新とまで言われる程である。“清く正しく”を言われたおおよそ理想的な州議会は、日本国内にそれなりに影響を与えた。


 ただ、成し遂げた彼らは理想が100であったのに対して、出来上がったものは60%。ギリギリ及第点であったこともあって若干不満であったが、継続が困難であるとして精力的に維持に努めた。


 そんなことがあった今日この頃。樺太・千島州と朝鮮州に衝撃的な情報が入る。


『ラシア軍が集結している』


 ラシア軍。それは日本の北部に位置する強大な連邦制の国家である。連邦制というのはこの世界において珍しくなく、逆にこの世界の半分以上が連邦制を敷いている。ただ、議会があれど無かれど軒並み王政や帝政だが。


 ラシア軍は極めて強大で強かである。それは日ラ戦争のときにすでに感じていたものである。皇軍は州として成立して3年という比較的短い期間に強大な国の戦いの矢面に立たざるを得なかった。


 ちなみに、ラシア軍集結のその情報が出てきたのは防衛省。連邦軍の総括を行っている行政組織である。


 その一報が入り、防衛出動待機命令の発令がされたのだった。

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