相手がホームレスなので「こっち見んな」が出来ない鶴の恩返し
一匹の鶴が罠にかかって苦しそうにもがいておりました。
そこへ一人のホームレスが通りかかりました。
「……鶴って食べられるのかな?」
今夜は焼き鳥かな、と男の脳裏に炭火焼きの甘ダレの香りが過ります。
しかしその鶴を見ていると可哀想に思えてきて、男は鶴を逃がしてやりました。勿論罠を仕掛けた人物に見つかりボコボコにされました。男は軽く後悔しました。
その日の晩、男が外で星を眺めていると、一人の女がやってきました。それは昼間に助けてもらった鶴でした。
「家を失いました。どうか泊めて頂けませんか?」
着物を軽くはだけさせ、お色気に訴えでるスタイルで攻めるも、男はそんなことを気にするでもなく真顔で「良いですよ」とこたえました。
「ヨッシャッ!!」
威勢良くガッツポーズを決める女。久々の恩返しに気合が高まります。
「じゃ、おやすみ」
すると、男が突然原っぱに寝そべりました。
「はい、布団」
と、段ボールを女に差し出します。段ボールには『愛媛みかん』と書かれており、少しくたびれて使い込まれた感がありました。
「えっ? 家は……?」
「ん? ないよ」
女は絶句しました。
マジかよ……。声にならない女のやるせなさが溢れ出しました。
男はそのまま寝てしまいました。
──絶対に覗いてはいけません
昨日徹夜して練習したセリフが水泡と帰すと、女は無言で男との間に段ボールを立てて背中を向けました。静かな夜が女を明るく照らしています。
朝、男は暖かい心地に目を覚ましました。
隣では女が膝を丸めてすやすやと寝息を立てておりました。
「なぜ羽毛布団が……?」
男はいつの間にか自分を暖めていた羽毛布団を、そっと女にかけてやりました。
「……寒い」
男は羽毛布団に潜り込み、二人並んで再び眠りに就きました。
それから二人は大きな羽毛の枕に頭を並べて、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。