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プロローグ 伝説

プロローグが思っていたより長くなってしまいました。始まります。

―――そこは地獄と形容するにふさわしい光景だった。血のにおいが充満し、そこらじゅうが火の海だった。そこには絶望が満ちていた。


もはや誰も立っているものはいなかった―――ただ一人の男を除いて。いや、立っているという表現はふさわしくない。その体は見るも無残な姿であった。整った顔の左目は潰れ、もう二度と光をともすことは無い。体中から血が流れ、今にも倒れそうな、まさに満身創痍―――そんな状況でも彼は笑っていた。


「ははっ・・・まだ生きているとは…相変わらずのしぶとさだな」


そう笑った彼の名は後に聖帝として語り継がれる剣士レドニアである。


彼の目の前にはひとつの死体がある。その死体こそがこの地獄をたった一人で作り出した張本人であった。その名を修羅王ドルベニスという。ドルベニスは世界を滅ぼすために歴史上最悪と言われる『修羅の天災』をひきおこした。


『修羅の天災』は、多大な被害をもたらし、世界に五つある大陸の二つが荒野と化したのであった。


レドニアは世界中の強者たちが倒すことができなかったドルベニスを討ったがその笑顔の影には悲愴がにじんでいた。レドニアの行動はたくさんの人々を救った。しかし、これを成し遂げるために払った犠牲はあまりに大きすぎた。


レドニアは守るために剣を振り続けた。しかし、彼に願いを託して死んでいったものは数多くいる。レドニアは、自分の手から零れ落ちていくものを見るたびにどうにもならない無力さを痛感するのであった。


「お前たちとこの瞬間を分かち合いたかった・・・・・・っ」


もはや立っていることもできずに倒れこんだレドニアの目の前に光が浮かんだ。次の瞬間レドニアの体が光り輝き、傷が癒えた。もう二度と光をともすことは無いはずだったレドニアの左目もきれいに癒えたのだ。


『ありがとうレドニア。あなたのおかげで私は救われました』


「あなたは誰でしょうか…?」


『私はこの世界の意思です。アナタは私を滅ぼそうとしていたドルベニスを倒してくれました。私はただそこにあるだけの概念的な存在、しかし、命をとして戦ってくれたあなたにはお礼がしたく、短い間ですがこの世に顕現しました。私にできることであればあなたの願いを叶えましょう』


レドニアの目に希望の灯がともった。失ったものを取り戻すことができるかもしれない。守ることができなかったものたちとまた笑い会うことができるかもしれない。レドニアは希望を胸に立ち上がって叫んだ。


「本当に願いを叶えてくれるのであれば、・・・・・・私が守ることのできなかったものを元に戻してくれ!」


光は戸惑うように小さく点滅した。


『・・・申し訳ないが・・・それはできない・・・』


「・・・っ・・・なぜ!世界の意思ならばそのぐらいできるはずだろう!」


『先ほども言ったように私は概念的な存在・・・人間よりは力を持っているが、過去を変えることはできない。新しく創り出したり、性質や姿を変化させたりはできるのだが・・・』


レドニアは呆然とし、泣き出した。彼が失ったものを取り戻せるかもしれないという淡い希望は打ち砕かれたのだ。彼は本当に一人になったのだ。


しばらくして泣き止んだレドニアは覚悟を決めた顔で言った。


「次にドルベニスのような悪がこの世界を地獄に変えようとしたときにその悪を討ってくれるような最強の剣士を生み出すための世界をつくってくれ!」


またも光は小さく点滅した。


『・・・・・・その願いも力が足りない・・・』


「・・・っなら私の命でどうだ。」


『・・・本気で言っているのですか?』


「まだ力が足りないのか?」


『いや、それなら願いを叶えることはできますが・・・あなたは死ぬのですよ・・・』


「ここで死ぬことを恐れていたら私が守ることができなかったものたちに顔向けができない」


『しかし・・・あなたにお礼をするために顕現したのに・・・あなたの命を奪うのは・・・』


「それなら私と私の仲間たち五人を剣に転生させてくれ!そうして新たな世界でも私たちもいき続け、戦い続ける」


『一度決めたら後戻りはできない、それでもいいのですね』


「ああ、覚悟はできている。やってくれ」


『わかりました』


すると光の周りに四つの剣が浮かんだ。


『さあ、あとはアナタだけです、レドニア』


「ええ」


レドニアは光に向かって歩き出した。光はレドニアを歓迎するようにまばゆく輝いた。光とレドニアは交じり合い輪郭がぼやけていく。さらに光がまばゆく輝いた瞬間世界に光があふれ、真白に染まった。


「「「「「『さあ、いこう新たな世界へ!』」」」」」


世界に色が戻っていく―――

次話から主人公が生きる世界に入ります。

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