勇者+魔王~勇者と魔王の最終決戦~
ーー幾年にも及ぶ永きに渡る戦いは、いよいよ結末を迎える。
大剣を持った男の後方には、傷付き、血を流し、息を絶えさせ、しかし、執念で立ち続ける者たちがいる。
銀の鎧を身にした戦士達は、人ならざる怪物と戦いを続けている。
「勇者よ・・・。貴様の名を聞こう」
「ゼロ・・・。俺の名前は・・・勇者ゼロだ」
ゼロと名乗った勇者は、大剣を天に掲げ、迷い無き瞳を魔王へと向けた。それに対するは、勇者の何倍もの巨体であり、禍々しき気を放つ人ならざるもの。人呼んで、魔王。
「さて、勇者よ。その大剣レクイエムソードを掲げてどうする?我を斬れるのか?」
「当然だ。貴様を滅ぼすためにここに来たのだからな」
「ふむ・・・。」
魔王は一呼吸置いて
「驕りが過ぎるな」
と、それまで以上の膨大なる気を放ち、しかし、怒りを見せるわけでも余裕を見せるわけでもなく、淡々とした表情で言った。
「驕り・・・?それはどうかな。俺は今、喜びに震えている」
「よろ・・・こび・・・とな?」
「貴様に殺されたたくさんの仲間や師匠!その者達の仇を討てるのだからな!」
「ふははは!そうかそうかそれは良い!ならば全力で我を滅ぼしてみよ!」
「ゆくぞ!」
互いに咆哮の響きが、最後の戦いのゴングとなった。
勇者の剣が禍々しき空気を裂く。
魔王の拳が勇者の剣撃を弾く。
金属音、風切り音、咆哮。
無数の音を響かせ、戦いは留まるところを知らない。
「見ろ!勇者様が押しているぞ!」
戦士達は希望に満ちた声を上げた。
高ぶる士気により、人ならざる怪物は段々と倒れ、消滅してゆく。
「勇者様!負けないで!」
「勇者様!頑張れ!」
その声は、勇者に力を与える。
「勇者よ!貴様の敗れた姿を小虫共に見せつけたらどのような反応をするかな」
「貴様が滅んだときの歓声と同じレベルじゃないか?」
攻撃は緩まず、次第に息を切らしてゆく両者であったが、それでも互いに諦めることはしない。
魔王の世界を揺るがす攻撃にも、勇者は怯えることなく剣で防御する。
周囲の人間に傷一つつけさせない、という思いが剣に宿り、光り輝く気を放つ。気が盾の形に変化し、魔王の全ての攻撃を防ぐ。
「面白い!面白いぞ勇者よ!」
一瞬、魔王の嵐のような攻撃が止んだ。途端、盾は更に光り輝き、勇者は口角を上げた。
「これが俺達の怒りだ!」
盾から放たれた巨大な光線は魔王を貫く。
「受けたダメージを二倍にして返した・・・。これならば貴様も無事では済むまい!」
勇者の言葉通り魔王は絶叫し、禍々しき気は縮小してゆく。
「ぐ・・・貴様・・・!その剣の本当の使い方を・・・知っていたのか・・・?」
「剣の声が聞こえたのさ」言葉を放った途端、勇者は口から大量の血を吐き、よろめく。
「勇者様!?」
「近付くな・・・!・・・この剣は持ち主の寿命を力に変える・・・しかし、これほどとはな・・・」
「クク・・・。そうか、貴様・・・我と相討つつもりだったな?」
「そうでもしないと・・・勝てないさ」
勇者は大きく息を吐くと、切っ先を魔王に向けて叫ぶ。
「さぁ、そろそろ決着をつけよう!俺もこれが・・・これが最期の一撃だ!」
「ふははは!よくぞ言った勇者よ!最期か!ならば!我も全力の一撃を貴様にぶつけよう!」
勇者は、国に残してきた妻のことを想う。
「必ず帰る」という約束を破ったこと。
後にも先にも約束を破ること無かった勇者にとって、それだけがただ一つの後悔であった。
だが、もう退くことはできない。
ここで魔王を滅ぼさなければ、未来はないのだから。
「いくぞ魔王よ!」
「こい!勇者よ!」
開戦時の数倍もの咆哮を上げ、両者は激突した。
天は割れ、地は裂かれ。
周囲の戦士達は立つこともままなら状況で。
しかし誰一人退くことなく。
勇者の姿を目に焼き付けるために。
涙を流し、顔を背けず、前を、ただ勇者を見ていた。
「ぐおおおお・・・!!くそ・・・ここまでか・・・!」
魔王の断末魔が響く。と、同時に体が消滅する。
「やった・・・ミディ・・・やったぞ・・・はは・・・くそ・・・」
禍々しき空気が晴れ、空から光が射した。そこに魔王の姿はなく、勇者だけが佇んでいる。光を浴びた勇者は満足そうに空を見上げ、そして、倒れた。
こうして、永きに渡る戦いは、勇者の勝利で幕が閉じられる。世界に平和が訪れ、絶望していた人間は希望を取り戻し、輝かしい未来に向けての一歩を踏み出してゆく。
勇者の伝説は永久に語り継がれ、誰もが憧れるただ一人の英雄となった。