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閉路  作者: 一稀美
30/31

苦しみ

私的に好きな回になりました。

スマホを替えてとっても使いやすくなりました!さくさく動くし!私はAndroid派です

梅雨でじめじめしてて嫌ですね~テンパに厳しい時期だ~

ユメは満ちては引き満ちては引きを繰り返す穏やかな海をただただ眺めていた。

この旅行も五日目を迎えいよいよ終盤。この地球に降りたって五カ月。正直言ってこの五カ月は、もう探索しつくしてなにもすることがなかったあの暇な宇宙船生活よりもまだもう一つ暇な生活だった。でもその生活は間違いなく私の生きてきた19年より楽しい時間だった。

波がそっと満ちる。湿った海辺の砂からピューっと水が噴き出る。静かな情景の中私は私のことを考える。


私達五人は同時に生まれた。マサキ、ルカ、チヒロ、モカ、私。私たちの親はより厳選した遺伝子から私達を作った。そんな私たちはそれぞれの役割かのように何か一つより特化した能力を持っていた。

マサキは圧倒的な行動力、リーダーシップ。ルカは規格外の頭脳。チヒロは誰にも負けない狂人な肉体。モカは天性の心理学者。皆の誇らしいほどのスペック。誰一人他の人にとって変わることが出来なかった。私は?


私には何も能力がなかった。宇宙船生活の19年は私にとってコンプレックスを増加させる他なかった。私には皆みたいに一番になれることがない。何か危険なことが起きたときそれを対処する武器は何もなっかた。頭脳も機転も運動神経もまぁまぁ。おまけに2人しかいない片割れの女の子のモカは甘え上手で可愛い癒し系。私の代わりなんて誰でもできるの。私がいなくてもこの空間は何も困ることが起きない。言葉ではいい表せない劣等感が重くのしかかる。19年間私は本当に本当に苦しかった。悲しかった。


初めてこの地球に降り立った時、何もないだだっ広い畑と質素な家と素朴な顔をしたさくらを見た時、私は嬉しかった。文明も何もない世界で私は解放された気がした。誰かと比べ、負けることを考えなくていい世界。先祖代々夢見た地球の衰退具合に皆が落ち込んでいる間、私の心は静かに高鳴っていた。


本当はね。この世界はこのままでいいと思うの。皆のように必死になってこの世界の文明の謎を解き明かそうとなんてしてしてないの。さくらの頭脳は今間違いなく急成長を遂げている。でも今の環境でさくらがいくら頑張っても絶対私を超えていかない。それにこの世界なら、皆の素晴らしい能力も使うところがない。それに比べて何も能力のなかった私は、ここじゃ料理人として重宝されるもの。それがもとの文明を取り戻しちゃったら?私の価値がまた見えなくなる?優越のない自然に囲まれた世界のままでいい。だから、皆には協力して考えてるふりをしてるの。心の中を悟られないように、本当に元の世界に戻ることを願ってるふりを。


ザザー。海風が運んできた磯の香りが私を包む。そっと目を閉じて自然と一体になる。

「ねぇいるんでしょ。聞いてるんでしょ。」

目は開けない。視界からの情報が私の邪魔をするから。

「気づいてないとでも思っていた?あなた、ここ二日私の心を読んで同時に自分の思想を流し込んできてたでしょう?一種のテレパシーってところかしら。」

目をとじたままより一層自然に自身を委ね、ポツリポツリ心の中で話しかける。

「私、あなたと同じ考えみたい。」


「これは……驚いた」

当たりが木霊して声が振動として伝わってくる。ユメは口角を上げる。この声の持ち主は【あの人】。聞いたことないにも関わらずユメは直感的にそうだと感じていた。

「君の正体は……」

この声を遮るようにユメが上から声を被せる。

「知ってるんでしょ?聞いていたんでしょ?」

「実在したとはな……宇宙探索1000年プロジェクトの子孫が」

「いつから私のことを?私達の存在さえ知らなかったそうね。」

「まさかと思って全人類のエネルギー指数を見てみた。驚いたよ。圧倒的に頭脳が成長した5人の人間がいたんだ。」

「人間を支配しているのね。でも、でもどうして私に近づいてきたのかしら。」

「……発言は避けさせてもらうよ。君が一番聞きたくないことだ。」

ユメの顔が心なしか固まる。美しすぎるその横顔は目を閉じていても切なさを滲みだしていた。

「私が一番。一番エネルギーを持っていなかったって訳ね。」


「君は何も悪くないんだ。」

甘く優しく溶かしてくれるような声。ユメの硬く閉じた目からうっすらと涙が流れる。

「君は悪くない。幸せになる権利があるんだ。私が君に永遠の平和を約束しよう。」

ユメが小さく頷く。涙で濡れた頬が太陽にに照らされてキラキラと輝く。


「今日の日が変わる時。5人をここに連れてきてくれないか。」

「私たちをどうするつもり」

ユメが呟く。今度は心の中でじゃなく小さな声で。

「大丈夫。私はあなたの味方なのだから。全ては人間らしく生きる未来の為なのだから。」


ユメがゆっくりと立ち上がる。凍てつく美しさの表情の頬を流れていた涙は一筋の線を残して消えていた。


宿に戻る頃ユメはいつものユメに戻るのだろう。そしてきっと食卓にはユメが今まで作ったらどんなご馳走より美味しい料理が並ぶのだ。

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