運命
そういえば犬鳴村見てきました。
まぁまぁ怖くて心理的に気持ち悪かったですけど基本ホラーいけるからニヤニヤしながら見ました。
午後15時。おやつの時間。色あでやかな服を着た5人と多少のダサさが否めない服を着た女の子1人の誕生日会が始まった。ダサさが見えるのはもちろんあたし。
「♪ハッピバースデートゥーユー ハッピバースデートゥーユー ハッピバースデーディア さくら(マサキ)(ユメ)(ルカ)(モカ)(チヒロ) ハッピバースデートゥーユー おめでとう~~!!!」
あたしはこの歌初めて聞いたから口パクだけど。
「パーーーーーーーーン!!」
「ひいぃぃぃ!!」
ものすごい爆発音とともに紙がたくさん出てきてあたし、思わず情けない声を上げる。
「さくらちゃんクラッカー初めてぇ?」
コクコクコクコク。
「さくらは大体全部初めてだよね?さっきの歌もショートケーキもハーブティーも初めてだよね?」
コクコクコクコク。
そうなのだ。何よりも今目の前に広がっているキラキラ輝いているお菓子をあたしは初めて見た。そしてこんな美しい食べ物をあたしは見たことがなかった。
「ふふ。さくらはケーキを見るのに夢中で心ここにあらずって感じだね。どうぞ召し上がれ。我ながらうまく焼けた気がするの。」
コクコクコクコク。なかなかこの美しいものを崩しちゃう勇気が出ないでいたんだけど……皆お構いなしに突き刺して掬って食べてるからあたしもケーキの先にフォークを刺してみた。ふわっ。生地にフォークが跳ね返されるような感覚。おそるおそるケーキを口にしてみる。甘い。びっくりするほど甘い。でもめちゃくちゃに美味しい。こんなもの本当に食べ物かなってくらいとにかくあたしの語彙力じゃぁ言い表せれないくらい美味しい。ただ誕生日だっていう理由でこれが年に一回食べれた昔の人々ってどんなに幸せな人生なんだろうとさえ思った。
「あの。あのあたししあわせですぅう皆ありがとうううう」
あたしケーキの美味しさから大声で言う。
「いえいえ。どういたしまして。」
マサキの言葉にモカがすかさず遮る。
「マサキは何もしてないじゃん。ユメ~美味しいケーキありがとう~。」
「いえいえ。ふふ。美味しくできてて良かった。来年はまた違うケーキにするね!」
「やったぁぁ楽しみ~~」
皆口々に喋る。ずっとずっと笑顔が絶えない。
はあぁぁぁ。幸せ。お腹も幸せだし心も幸せ。このお茶なんて言ったかな~確か心を安らげる効果とか。だからこんなにぼーっとしちゃうのね。
「なんかあたし熱気で頭ぼーっとしてきたからちょっと外出てくるね!」
「はーい行ってらっしゃい〜」
ふぁぁ外の空気の気持ちよさ!!!ふぁぁあいいねぇ夕焼けが沈みかけてるのが美しい。
「はぁぁ幸せ」
「そりゃよかった。」
マサキ?いつの間に来たんだろ。足音1つしなかったけどなぁ。
「熱心に深呼吸に勤しんでたから気付かなかった?」
「うん。わかんなかった。楽しいね本当に。」
「あぁすごいいい時間だな。あっそうそう。はい、これ。プレゼント。」
マサキがあたしに青色の石を渡す。
「なぁに?わ…すごい綺麗なにこれ。」
青くて片手じゃぁ収まらないサイズ。涙のような形で1部分が尖り輝きを放ってる。
「これはねサファイアっていう石。誕生石って言うやつでずっと昔に宇宙船の中で親がくれてさ。でもこういうのって女の方が好きだろ?」
「え……そんな大切なもの貰ってもいいの?」
「あぁモカにバレたらすぐ奪われそうだし。さくらには俺達を受け入れてくれて感謝してるから。」
「でも……」
「いいからいいから。さくらはさ、夜が似合うんだよ。」
あたし、よく分からなくて押し黙る。マサキが気にせず話を続ける。
「よく空とか見に来てるじゃん?その横顔綺麗だなぁと思ってた。まだ16歳になったばかりだけど、絶対この青が似合う素敵な大人になると俺は思うよ。」
「マサキ。ありがとう。」
「どういたしまして。お誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
何だかとても嬉しくて少しつまらせなが言葉を繋げる。
「マサキもお誕生日おめでとう。その……あたしが言うのもなんだけど」
「ん?」
「生まれてきてくれてありがとう。」
マサキは一瞬驚いた顔をした。すぐにいつものクシュッとした顔に戻ってあたしの背中を撫でる。
「ありがと。お陰で生まれてきて1番楽しい日を送れたよ。宇宙船時代は別に祝ってなかったからな。ありがとな。」
お互い何も言わず笑い合う。
「へへ。でもすごいよなぁ同じ誕生日って。」
「うん!!!すごいよね!」
「運命なんだろ?ふっ」
「ちょっと〜もういじらないでよ〜〜本当にそう思ったんだから〜!」
好きだよ。
この言葉を言うのはやめた。マサキがあたしはこのサファイアが似合う大人になるって言ったから。この青が似合うまでこの気持ちは持っておくことにする。似合うその時にマサキに渡すことにしたんだ。運命。そんな言葉も信じられる気がしたから。
皆が幸せな時間をすごした。誰かにとっては生まれて1番楽しい日になった。
9月28日。あたし達に忘れられない、いやこの街の人皆が忘れられない1日になった。この日の夕方、日もほぼ沈む頃幸せな時間が一瞬で凍ってしまったんだ。




