催眠術……?
長くなっちゃいました。次からは2000字くらいにまとめないとって思いますね。今回一人称は変わらず「あたし」ですがもちろんあたしは催眠術にかかってるから意識はありません。
4話のコメントつけてくださってるのさっき気付きました。すごく嬉しかったです。ありがとうございます!
モカが大きく深呼吸を繰り替えす。ユメは普通にしていてもこの世ものとは思えないくらい綺麗な顔立ちなのだ。それが未だかつてないくらい真剣な顔つきで宙を睨んでる。この目に睨まれたらきっと心臓止まっちゃうんじゃないかなってさえ思う。つまり、この2人緊張しているのだ。
遡ること5分前。
モカはあたしを催眠術にかけるとに成功する。あたしは頭がぐわぁんぐわぁんってして遂に眠りに落ちた。
「とりあえず……みんな呼んでくるね?」
「うんお願い。」
ユメが急いで3人を呼びに行く。3人全員はこの隣の部屋でスタンバイしていたらしい。すぐに駆けつけてくる。みんな神妙な顔つき。チヒロに至っては何故か塩とか小豆とかニンニクとか、とにかく両手に持ちきれない程の食べ物を握りしめている(このデパートリーをみたら勘のいい人ならこのお話続きを読まなくてももう分かっちゃうよね?)。たかが催眠術なのにどうして皆こんなに緊張しているのか。催眠術が不安定であたしがすぐ目を覚ましそうだから? 反対に一生目を覚まさないかもしれないから? どちっも外れ。実はこの緊張感、モカの催眠術の性質そのものからくるものだったの。
マサキが心配そうにモカに尋ねる。
「もうさくらになんか憑いてんの?」
モカの催眠術。それは簡単にいうと【憑依】なのだ。
球を見続けることで催眠状態に陥ったあたし。モカの揺らしていた振り子。実はただ単に左右に振れていただけじゃなくて完全に計算されつくしていたの。見続けると次第に頭が重くなっていて最終的には自分の中から自身の魂を精神の奥底に沈めてしまうのだ。これはただの催眠状態を超越してしまってる。もっともっと深い眠りの沼ってことなの。本当は今のあたしとっても危険な状態。つまりね、なにが危険なのかというと……こんな感じで空になったあたしの身体。とっても憑きやすいのだ。
この危険な状態はモカの催眠術の成功を意味するものでもあった。みんながどことなく緊張してるのは催眠術がすなわち憑依だと知っていたから。あたしだけ何も知らずに健気にかかってしまったって訳。あたしに人間の御先祖の霊が憑いてくれると少しでも人類の謎が解けるんじゃないかと5人は思ったのだ。ここで問題が発生する。霊って人間の御先祖でかつ良霊とは限らないってこと。憑くのは人間に限らず犬、猫、猿、鳥、豚、ことによってはライオンなんていう肉食動物かもしれない。肉食動物ならひとまず肉を与えてたらいいけど、1番最悪なのはこの世に恨みを持った悪霊。これが憑いてしまったらもうどうしようもない。ここらの人は呪い殺されるのが運の尽きってことなのだ。(だからチヒロが悪霊に備えて塩とか小豆、吸血鬼に備えてニンニクを持ってたんだよね)
「あの……あなた誰ですか?」
モカが強ばった顔をながらもできるだけ優しい声で何かが憑いたであろうあたしに声をかける。
「お前そこ誰だ。」
あたし(正しくはあたしの中の誰か)が低く鳥肌の経つような声で聞き返す。
5人全員の安堵と緊張が最大限にまで差しかかる。催眠術が成功して且つ人間の霊が着いた安堵。もしかしたら悪霊かもしれない緊張。ルカがもう今にも意識が飛んでいきそうな顔をしてる。
「私達は3020年の地球に住む人間です。」
「なんのためにわしを呼び起こしたんだ。」
「少しばかりお尋ねしたいことがあってお呼び致しました。恐れ入りますがどなた様でしょうか。」
モカの声が微かに震える。ルカは辛うじて座ってるけどもう意識は無いかもしれない。
「まぁそんなビビらなくても良い。わしはもう500年くらい前に死んでからずっとこの世をさまよっているごく普通の幽霊じゃ。」
ゴトッ。ルカが倒れた。あたしに憑いた幽霊さんそんなルカに構わず話を続ける。
「特に恨みはないけど、あの世に行く気にもならなくて特に何もせずさまよっていたけど憑依を促されたのは今回が初めてじゃ。」
「さまよってたってことは俺たちが何が聞きたいか分かっているんじゃないのか?」
皆が下手に出る中こんな発言をしたマサキの横腹をユメが小突く。
「ほほーう。口の利き方は気になるがまぁ良い。お前の質問に答えるとするならば答えはノーだ。」
あたしに憑いた幽霊さん、あごの下に手を伸ばす。(きっと生前は長い髭が生えてたんだろうな。というよりまずこの幽霊さんの名前聞いてくれないかなぁ~あたしに憑いた幽霊さんってちょっと言いにくいよぉ)
「お前も想像してみろ。こんな何も目新しいものがない世界だぞ。死んでもなお徘徊しても仕方あるまい。皆が寝静まった頃に起きてきて酒をちょちょっと拝借するくらいが人生の楽しみじゃ!!」
「人生って死んでもあるのかよ……」
マサキ、ユメの小突きに懲りずまた憎まれ口。
「なんかいったかぁ??マサキ」
「なんでもありません。失礼いたしました。」
ユメが割って入る。飛び切り美しい微笑をあたしに向ける。
「これはこれは美人さん。こんな美人さん初めてじゃ。うほほっ」
「ありがとうございます。ところでですねお爺さん。先程“目新しいものがない世界”っておっしゃりましたよね?」
「いかにも。わしの生きてた時代と何も変わっとらん。変わったとしたらお前さんみたいな美人さんが存在することじゃな。ふっははは」
ユメがとびきりの作り笑いを崩さずに質問を続ける。
「私達宇宙船の中で生まれて最近やっとこの土地に降り立ったんです。あ、でも地球人ですよ?安心してくださいね。だから過去のことがすっごく気になって。だからあの……お爺さんの生きてたもっともっと昔この世界がどんなのだったか知っていること教えてくれませんか?」
「宇宙船……?わしの生きてたのよりもっと昔も今と同じ生活のはずだ。」
「もっともっと昔は?もう500年くらい前…とかは?」
「……すーごい時代じゃ。だが反対に二度と戻ってはいけない時代だと言われておったらしい。」
「!!!!」
5人、いやルカは気絶してるんだ。4人はハッと息をのむ。あと少して核心に触れれる、そんな気がした。
「と言いうと?」
モカがまん丸の瞳をパチパチさせながら聞く。
「詳しくは知らんよ。ただ間違いなくすごい文明が築かれた時代があった。本かなんかで読んだだけだが。だがその文明が一瞬にして失われたらしい。」
「ど、どうし……」
モカが言いかけたのをあたし(じゃなくて幽霊さん)が手で制す。
「何故かは知らぬ。一瞬にして消えたらしい。そしてわしら誰一人もその時代には戻りたいとは思えなかったのだよ。」
重たい沈黙。一瞬で消えたってどういうこと…?この沈黙を先に破ったのはおじいさん幽霊。
「ところでじゃ、お喋りは面白いんじゃがこの身体大丈夫か?」
「は?どういうことだよおっさん!」
マサキがすごい勢いで叫ぶ。
「さっきからこの身体に色んな魂が出たり入ったりしておる。わしが陣取ってるから悪霊に乗っ取られることはないがとんでもないストレスだと思うぞ。」
一呼吸置いて。
「さてわしもそろそろ出よう。わしと話したくなったら夜中の第所でユウゾウさんって呼ぶんじゃな!」
ここまで言って幽霊さん、あたしから出ていく。あたしの身体またガクって崩れ落ちた。




