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治癒魔術

 「はっはっは、儂にとってはまだまだ小さなルノア姫ですぞ。」

 ひとしきり笑った後でドラガルドは真面目な顔でルノアに向き直った。

 「さて姫様、ここへ来たのは談笑をするためだけではなかったですな?」

 その言葉にルノアは頷き、俺の方を向いた。

 「仁志様、今まで仁志様には継続的に治癒魔術を施してきました。しかし仁志様の体は強力な耐魔術特性を持っており、その性質は治癒魔術の効果をも半減させていました。」

 「仁志様の怪我は治ったとはいえ、通常であれば完治にはまだまだ時を要します。この三日間、私は仁志様に最も効果的な治癒魔術を調べていました。仁志様の意識が戻った今、この場でそれを行いたいと思います。よろしいでしょうか?」


 俺が眠っている間にそんな事をしていたのか。

 この娘はやはり大した人だ。

 そしてやはり魔術に対する探究心は並々ならぬものがあるようだ。


 「わかった、やってくれ。こっちものんびりベッドで体力の回復を待つなんて御免だ。」

 「わかりました。」

 そう言ってルノアはドラガルドとソリナスに目配せをする。


 二人はそれを見て一礼して部屋を去っていった。

 どうやらここから先は二人で行うらしい。

 「仁志様はそのまま寝ていらしてください。」

  そう言ってルノアは俺の上にかかっていた毛布をはいだ。

 何が起こるのか多少緊張しながら俺は待つ。

 「それでは始めます。」


 そう言ってルノアは手を胸の前に突き出し、詠唱を始めた。

 「天の星は幾千の輝きを放ち

  川の砂は幾千に重なり

  地に立つ木は幾千の風を受け

  岩を覆う苔は幾千に織りなす

  幾千の連なりをもって時を成し

  幾千の血の繋がりをもって命を成す

  命を輝かし

  命を重ね

  命を受け

  命を織りなす

  今、この者の命に時を与えん」

 俺の場所からはよく見えないが、床がほのかに輝いている。

 どうやら既に魔方陣が描かれていたようだ。

 光の粒子が床から立ち上り、俺とルノアの周りを舞っている。


 「仁志様、目を瞑っていただけますか?」

 ルノアが俺にそう頼んできた。


 心なしか顔が紅潮しているようだ。

 かなり難しい魔術なのだろうか?

 「あ、ああ、わかった。」

 そう言って俺は目を閉じた。


 しばらくしてから衣擦れの音が聞こえてきた。

 何をしているのだろうか。

 やがてベッドがきしみ、俺の上に柔らかな何かが覆いかぶさってきた。


 ……これは……ルノア?

 しかも服越しでもわかる滑やかかつ柔らかなこの感触は……まさか裸?


 「ル、ルノアさんっ?」

 あまりの事についつい敬語が出てしまった。


 「駄目っ!目を瞑っていてください!」

 思わず目が開きそうになるところにルノアの手が被さってきた。


 「わ、私だって恥ずかしいんですっ!で、でも、仁志さんを回復するためには私と仁志さんの間に魔力の経路を開き、同調させて私から魔力を直接送り込むのが一番なんです。だ、だから、もう少しそのままでいてください!」


 「わ、わかった、わかりました。」

 俺は更に固く目をつぶった。


 しかし、目をつぶっているせいで他の感覚が更に鋭敏になってしまう。

 肌の感触、ルノアの若干湿度が高くなった吐息と香り、早まる心臓の鼓動、そういった諸々の事が瞼の奥にリアルよりもリアルなルノアを結像していく。


 やばい、これはやばすぎる。

 必死で別の事を考えようとするが、視覚以外の四感がそれを許さない。

 というかこれはルノアの魔術の影響なのかも。


 不意に俺の両手が掴まれた。

 大腿部に柔らかな重量を感じる。

 どうやら俺の手を掴み、馬乗りになっているようだ。

 魔力経路が同調されているせいか見えないはずなのに瞼の裏にルノアが浮かんでくる。

 乱れた髪と紅潮した顔が煽情的すぎる。


 「……これで仁志様と私は同調しました。……今から……魔力を送ります。」


 それを聞いた直後、ルノアの熱い吐息と共に俺の口が柔らかな何かでふさがれた。

 口の中に温かく柔らかだけど芯のある何かが侵入してくる。

 俺の舌を探すように侵入してきたそれは、俺の舌を捉えると熱く絡み合ってきた。

 それが何かはわかっていたけど瞼から脳まで火花が散ったように痺れていて何も感じられない。


 俺も夢中で舌を絡めた。

 気が付かないうちに俺は手を振りほどき、ルノアを抱きしめていた。

 重ねた唇からルノアの魔力が流れ込んでくる。

 いや、密着した全身から流れ込んでくるようだった。

 ルノアの触れているところからまるで温めた蜜が体に流れ込んでくるようだった。


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