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グリフォン

 そうこうしてる間に城の外にある兵器庫へと辿り着いた。

 巨大な倉庫の様な空間は慌ただしく行きかう兵士でごった返している。

 ソリナスの姿を認めた兵士達が一斉に直立不動の体勢を取る。

 どうやら兵達の間では結構な支持を得ているらしい。


 「構わずに。取り急ぎこの方に合う鎧を見繕ってください。そうですね、できるだけ威圧的なものが良いでしょう。上下は出来るだけ揃えて、実用性よりはデザイン性を重視したもので、面甲が付いたものにしてください。」


 「剣と盾もお願いします。鎖帷子は使用しますか?」

 「……あ、ああ、頼む。」


 圧倒されてみている間にどかどかを俺の前に様々な鎧や武具は並んでいき、あっという間に俺の体に鎖帷子が着せられ、鎧が装着された。

 「うん、なかなかお似合いですよ。」

 運ばれてきた巨大な鏡には全身をくまなく金属の西洋鎧で覆われた俺が映っていた。

 兜には頭にローマの鎧に似た金属製の鶏冠が付いている。

 周りの兵士達の兜にも鶏冠が付いている所を見るとこれがミッドネアの兵士の目印なのかもしれない。

 まるでゲームのキャラみたいだ。


 「体に合っているか見たいので軽く動いてみてください。」

 その声に従って俺は体を曲げたり伸ばしたり捻ったりしてみた。

 見た眼とは裏腹に結構可動域がありあまり堅苦しさは感じない。

 能力のせいか鎧の重さも全く感じなかった。


 「では、そろそろ時間です。暁闇《ぎょうあん》の間へ向かいましょう。」

 いつの間にか鎧を身に付けたソリナスに促され、俺達は慌ただしく城へと戻った。

 しかし、兜につけられた面甲のせいで前が全く見えない。

 一応スリット状になってはいるのだが死角が多すぎる。

 何度か転んだ後に溜息と共にソリナスが面甲を上にはね上げた。

 「この辺の機構は今夜中に改善しておいた方が良さそうですね。」


 暁闇の間は城の上階にある。

 辿り着いた時には既にルノア達が待っていた。

 ルノアは金で縁取りをした白銀色の鎧を身にまとっている。

 真っ赤な髪は後ろでまとめあげ、宝石を散らしたレースをあしらっている。

 実戦向けではないのだろうが、思わず見とれてしまう美しさだ。

 「私のような小娘ではこの鎧に似合わなくて恥ずかしいですね。」


 食い入るように見つめる俺の目線に気付いてルノアが恥ずかしそうにはにかんだ。

 「そ、そんな事ないと思う。凄く似合ってると思う。うん。」

 慌てて取り繕う俺。

 「本当ですか!そう言っていただけると嬉しいです!」

 俺の言葉にぱあっとルノアの顔が明るくなった。

 実際その姿は本当に似合っていた。

 鎧を着ててもわかる華奢な体躯は兵士を従えて戦場を駆け巡るのは想像できないが、多くの兵士にこの女王の為なら命を投げ出しても構わないと思わせるだろう美しさがある。

 実際俺も俄然やる気が出てきた。

 

 「女王殿下、仁志殿、グリフォンの用意が出来ましたのでこちらへ。」

 ソリナスに促され、俺達はバルコニーへと向かった。

 バルコニーへと出た俺は、そこで見た光景に唖然とした。


 そこには一頭の巨大な獣がいた。

 いや、獣と言っていいのか、それは初めて見る生き物だった。

 体高は動物園で見たことのあるアフリカゾウと同じくらいだが体長はアフリカゾウの倍位ある。

 金色の毛に覆われた全身は巨大なネコ科の姿だが、頭は巨大な鷲で背中にも巨大な鷲の翼が付いている。

 まさにゲームやファンタジー映画に出てくるグリフォンそのままだ。


 そしてそのグリフォンは後ろに小さな小屋程の大きさの豪奢な輿を引いていた。

 これでメノラに向かうのか?

 「ミーラ、久しぶりね。」

 その恐ろしげな姿に臆することなくルノアが近寄ると、グリフォンは嬉しそうにクルルルと声を上げ、甘えるようにルノアに頭をこすりつけた。

 どうやらこのグリフォンはルノアに慣れているらしい。


 「この子はミーラと言うんです。グリフォンは昔からミッドネア王家が遠方に行く時に乗るために飼われていて、この子は子供の頃から私の友達だったんです。」

 そう言ってルノアは愛おしそうにミーラの頭をかいた。

 ミーラも気持ちよさそうに目を細めている。


 「女王殿下、お手をどうぞ。」

 まずソリナスが乗り込み、ルノアに手を差し出した。

 俺はその後に続く。

 俺の後でドラガルド将軍が続いて入ってきた。

 車の中は外と同じように豪華で、床は絨毯敷き、壁の周囲にはビロード張りのソファが設えてある。

 ルノアは一番奥の中央、一段上がった最も豪華なソファに腰かけている。

 どうやらそこが王家専用の場所らしい。

 俺達はその周囲のソファへと腰かけた。


 「では早速向かいましょう。」

 そう言ってルノアは椅子の前にある小さなテーブルの中央にある窪みに野球ボールほどの大きさの宝玉を置いた。

 「日の光は海へ落ち風を生む

  月の光は海へ落ち風を生む

  星の光は海へ落ち風を生む

  風は海より生まれ山へと至る

  河は風を運び山へと至る

  風は光を運び山へと至る

  今、我は風を生まん

  今、我は風を運ばん

  今、風は我を運ばん

  風よ、我を運ばん

  風よ、ここより来たりて我を運ばん!」


 ルノアの詠唱と共に宝玉から青い光がほとばしり、床や壁、天井を伝ってミーラへと向かっていく。

 その光に呼応するようにミーラが甲高い鳴き声を上げ、翼を大きく羽ばたかせた。 そして音もなく車と共に舞い上がった。

 微かに引っ張られるような感覚と共に車がミーラにつられて浮かび上がる。


 そして低い羽ばたき音と共に空を飛び始めた。

 窓から外を見るとミーラの大きな翼が見える。

 不思議と揺れはほとんど感じなかった。

 地面はみるみる遠ざかり、俺達は凄い速さで西へ向かって飛んでいった。


 「これは……凄いな。」

 思わず俺の口から声が漏れる。

 「凄かろう!」

 俺の声にドラガルドが得意そうに顎髭を捻った。

 「これも全て姫様のお蔭よ!」

 「そうなのか?いや、そうなのですか?」


 俺の言葉にルノアが恥ずかしそうに笑った。

 「いえ、私がした事なんて、そんな大したことじゃないです。」

 「何をおっしゃいますか!」

 ドラガルドがかぶりを振った。

 「元々高速移動はできるもののせいぜい人一人運ぶのがやっとだったグリフォンがこれ程の人数を運べるようになったのは姫様が先ほどの魔術を開発したからではありませんか!」

 「マジで?」

 驚愕のあまり普通の喋り方になってしまった俺に気付かないかのようにドラガルドが言葉を続ける。

 「その通り!魔獣を使った運搬は昔からあるのだが、いかんせん力のある魔獣は扱いにくくてな。しかしグリフォンのように比較的おとなしい魔獣は逆に魔力が弱くて運搬には向かん。そのグリフォンに外から魔力を供給する事で不可能と言われていたグリフォンによる輸送を可能にしたのが姫様よ!」

 「そんな、私はそこまで大したことはしてません。」

 少し照れたように否定するルノア。


 「でも、この研究は確かにやりごたえがありましたね。グリフォンのようなある程度の魔力を持った大型魔獣になると外部から魔力を送り込む事は無理だというのが定説です。」

 「大型魔獣は元々大量の魔力を蓄積・消費する生き物なので体内に独自の魔力吸収器官を備えているため、逆にそれが本人の意図しない外部からの魔力供給を阻害してしまうのですね。外部供給された魔力を受け取れるように調教する事も可能で、古来の魔獣使いはそうやって供給を行っていたそうですが、それですと移動しながらのように別の行動をとりつつ供給する事は難しくなります。」

 「私が着目したのは魔獣への魔力供給ではなく、魔獣の発する魔力場に魔力を供給する方法で、これはこれで魔獣個々に魔力場の形成が異なってくるので別の難しさがあるのですが……」


 また始まった。

 こうなるとルノアは手が付けられない。

 相手が聞いていても聞いていなくても構わず話してくる。

 話を振ったドラガルド当人はというと、ルノアが話し始めた途端いびきをかき始める始末だ。


 それよりも俺にとっては気がかりな事があった。

 俺の座ってる場所の正面、ルノアから少し離れた位置にまるで影のようにいる男、ブレンダンだ。

 正直、ブレンダンが乗っている事に気付いたのはミーラが飛び立った後だった。

 それ位存在を消していた。


 ドラガルドやソリナスが何も言っていないという事は両者共この男がついてくる事は想定内なのだろう。

 乗ってから一言も発していないが、俺に対する突き刺すような殺気を隠そうともしていない。

 理由は分かっている。

 さきほどソリナスが俺に言った事、ルノアを戦場に連れていく事になったからだろう。

 しかしこればかりは仕方がないし、その事はブレンダンもわかっているはずだ。

 それでも、俺に対する憤りはあるという事だろう。

 これから大変だというのに、更にこの男の監視まで付いてくるとは……

 そんな事を考えながら、止まる事のないルノアの語りを子守歌代わりにいつしか俺は眠りについていた。


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