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前王ガラルド

 善王、賢王ガラルド。

 彼の事は講義で真っ先に習った。

 内政力外政力共に秀でて戦争状態の強国に挟まれながらも自国への侵略を許さず、多くの小国が服従を強いられる中ミッドネアが孤高を保つことができた立役者だ。


 大雨による洪水で被害の出た地方を視察中に土砂崩れに巻き込まれ、数十人の従者と妻であり王妃のサリアンと共に亡くなったのが約半年前。

 街には今も喪を示す黒幕が垂れている。

 「あれはやっぱり事故だったのか……?」


 俺の独り言にメリンダが耳聡く反応した。

 「ちょっと、滅多な事を言うんじゃないよ!まだ喪も明けてないんだ、ガラルド様の事を侮辱する言葉は許さないよ!……でもね……あたしだってあれが単なる事故じゃないって事位わかる。

 ガラルド様もお付きの従者も魔術に長けてたんだ、それなのに防ぐ事すらできずに土砂崩れに流されるなんてどう考えたっておかしいに決まってる。でも今そういう事を言って徒に世間を騒がせちゃ駄目だよ。まだどこもかしこもピリピリしてるんだから、下手したらあんたみたいな貴族様でも捕まっちまうからね。」


 そう、前王が亡くなった後にこれを陰謀だとする過激派がノーザストとサウザンに対する宣戦布告を要求して一時内乱になりかけた事があったらしい。

 お蔭で今でも前王の死について語る事は半ばタブー視されているのだとか。

 気が付けば随分と時間が経っていた。


 「ありがとう、凄く参考になったよ。」

 俺はメリンダに礼を言って席を立った。

 せめてものお礼にと先ほど貰ったコインを多少払おうと申し出たがメリンダが頑として受け取ろうとしなかった。


 「私は飯屋の店主だよ!飯屋の店主が話で金を貰ってどうすんだい!それよりも、もしお世話になったと思うんならまた来んだよ!」

 そう言って豪快に笑っている。



 俺はそれに甘えて店を出、再び城とは反対方向に大通りを歩いていった。

 大通りは人も多く多くの店が並んでいて賑わっているように見えるがメリンダの言葉が確かならこれでも静かな方に入るのだろうか。

 とりあえずまずは城外へと出る門まで歩く事にする。

 歩いているとどこからか怒鳴り声が聞こえてきた。

 道の先を見ると人だかりができている。



 「おらっ!さっさとその薄汚え荷馬車をどかせ!ノーザストの鼠が!」

 「お前らが道を塞いだせいじゃないか!」

 「あー?聞こえねえな!その老いぼれ馬が勝手に暴れたんだろ?」


 見てみると一台の荷馬車が道を塞いでいた。

 積んでいた荷物が道に散乱している。


 どうやら荷物が落ちたことでひと悶着あったらしい。

 一人の少女が数人の男達に食って掛かっていた。



 先ほどのノーザストという言葉や、他の市民とは違う服装であることを見るに彼女はノーザストからやってきた行商人なのだろうか。


 一瞬面倒事は見なかった振りをしようかとも思ったが、これはノーザストの事情を聞くいい機会かもしれないと思い直し、俺は人混みの中に分け入っていった。


 「お前らがうちの馬に瓶を投げてきたんじゃないか!お前らが荷物を積み直せ!」

 「荷物ぅ~?俺にはゴミが散らばってるようにしか見えねえなぁ。ゴミはきちんとゴミ置き場のノーザストに持って帰るんだな。」


 少女の抗議にも男達は下品に笑って取り合おうとしていない。

 パッと見でどっちが悪いかは一目瞭然だが、今はそれをどうこうしてもしょうがない。

 というか俺にそれを判断できる証拠もなければ権限もない。

 とりあえず俺は散らばっている荷物に手をかけた。


 「こいつを積めばいいんだろ?」

 そう言って持ち上げる。

 その時、周囲がざわついた。


 「おい、あの男、地金の箱を持ち上げたぞ?」

 「あれ、何キロあるんだ…」


 不味い、何の気なしに持ち上げてしまったがこれはかなりの重量物だったらしい。

 少女も男達も唖然として見ている。

 「う、ううん……重い……」

 俺はわざとらしくよろけて箱を地面に落とした。

 衝撃で木箱が壊れ、重い金属の響きと共に箱から鉄の塊がゴロゴロ転がり落ちる。


 「うわあ、こんなのが入ってたのか!これじゃ持てるわけないなあ!」

 わざとらしく言い訳をしながら転がった鉄を拾い集める。

 上手く誤魔化せられただろうか。


 「おい、兄ちゃん、勝手な事してんじゃねえよ。」

 男の一人が俺に凄んできた。


 「そうは言っても往来の邪魔になってる訳だし、何があったのかは知らないけどまずは片づけてみんなが通れるようにしないと……」

 「ああっ!?俺らに意見しようってのかっ!!」


 男達が今度は俺に凄んできた。

 「お前、この辺じゃ見ねえ顔だなあ。黒髪に黒目たあ異人かあ?アックガンの兄貴を知らねえなんて無粋な野郎にはその無知さを体に教え込んでやらねえとな。」


 正直言って全く怖くない。

 ブレンダンの脅しに比べたら子猫が甘噛みしてるようなものだ。


 「聞いてんのかよ!」

 言うなり男の一人、禿頭に謎の入れ墨をした男が拳を振るってきたが、俺はその瞬間に加速に入っている。

 男の拳を避けて背後に回り込み加速解除。


 「??おわっ!?」

 拳が空を切った勢いで禿男は盛大に転がった。


 「っ手前!」

 禿男が顔を真っ赤にして立ち上がる。


 俺は構わずに地面に散らばった荷物を拾い続けた。

 「アックガンの兄貴、こいつやっちまいましょうっ!」


 男達が声をあげ、後ろにいた髭面の男がのそりと立ち上がった。

 どうやらこいつがボスらしい。

 「手前、何かやってやがるな?」

 いうなり背中から刃渡り三十センチはあろうかという馬鹿でかいナイフを取り出した。


 どうやらミッドネアの王都と言っても治安が良いとは限らないらしい。

 周りのチンピラ達も次々にナイフを抜き出した。

 「おらぁっ!」


 アックガンと呼ばれていたチンピラ達のボスが横なぎにナイフを払ってくる。

 しかし俺にとってはスローモーションだし、チンピラ達の殺気もこの前の森での事件に比べたら児戯にも等しい。


 むしろ周囲の人達やこのチンピラ達に俺の能力を知られない事の方が問題だ。


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