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襲撃

 振り返ると俺の背中に三本の短剣が迫っている所だった。

 加速下ではゆっくりとこちらに進んでいるが、俺との距離は一メートルもない。

 一本の短剣はご丁寧にも濃緑色に塗られていて他の二本よりも目立たないようになっている。


 加速していなかったら一秒も立たないうちに背中に短剣を生やして絶命していただろうし、万が一避けたとしても三本目の短剣に気付いていたかどうか。


 そうこうしているうちに短剣はゆっくりと俺の方に進んできている。

 俺は素早く横っ飛びで躱した。

 その瞬間加速が切れ、俺の真横を短剣が凄い速度で通過していき、背後の大木に突き刺さった。


 柄まで刺さったんじゃないかという音がした。

 短剣が飛んできた方角を見たがうっそうと茂る森が続いているだけで何も見えない。

 さっきまでのテンションは既に消え去り、俺の背筋に汗が噴き出した。


 命を狙われている!


 俺は先ほどの短剣が刺さった大木まで一足飛びに飛び、飛び過ぎてまともに幹に激突した。


 「ぐあっ!」


 背中から幹にぶつかり、頭を強かに打ち付けて思わずうずくまる。

 そこに再び突き刺さるような気配がやってきた。

 右を振り向くとまた短剣が三本こちらに向かって飛んできていた。


 今度は茂みの陰に人影が見えた。


 全身を暗灰色の服で覆った男のようだ。

 加速した世界の中、その男はゆっくりとこちらに進んでくる。

 その手には短剣が握られている。


 俺の命を狙っているのは明らかだ。

 どうする?逃げるか?

 俺はとりあえず短剣からも男からも離れつつ、男の姿は見失わない位置に移動する事にした。


 遠くまで逃げてもまた追ってくる可能性の方が高かったからだ。

 男から十メートルほど離れた場所に移動し終わった時に加速が切れた。


 短剣は森の中へと消え、それから一瞬間をおいて男が俺の元いた位置に剣を構えたまま飛び込んできた。

 俺がいない事に気付くと即周囲を見渡し、俺の姿を発見するなり再び短剣を投げつけてきた。

 短剣を投げるモーションを視認した瞬間に俺は再び加速、しかし今度はそれ程余裕がない。


 短剣は既に俺の目の前一メートル程の所まで来ていてなおもこちらに向かってきている。


 更に男が再び短剣を手にこちらに突進してきている。

 どんだけ短剣を持っているんだ。

 再度横に避け、再び十メートルほど距離を取った所で加速が切れた。


 また男が振り返り、短剣を投げるモーションに入る。

 しつこい!


 まさに短剣を投げようとしたその時、男の姿勢が崩れた。

 ぐらりと前のめりに地面に倒れ込む。

 その背中には短剣が突き刺さっている。


 驚いた俺の脳裏に突き刺さるような殺気が降りかかった。

 瞬間加速した俺の目の前に宙を飛んできた短剣が出現した。


 いつの間に?


 転がるように横に転がりながらなんとかその短剣を避ける。

 さっきまで俺の命を狙っていたはずの男は既に物言わぬ死体になっている。


 だが俺の命を狙う気配はまだ消えない。

 そして、この殺気には見覚えがあった。

 ゆらり、と眼の前の茂みの影が動いた。

 ブレンダンだ。


 顔は隠れているがはっきりとわかる。

 ブレンダンはゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 俺はそれに合わせるように後ずさる。

 が、それも長くは続かなかった。


 俺はいつの間にか大木を背にしていた。


 これもブレンダンの作戦なのか?

 ブレンダンは地面に転がっている男から短剣を引き抜き、男の服で血をぬぐうと俺の方を振り向いた。


 その眼からは何の感情も見えない。

 あの夜の事を思い出して俺の体から汗が吹き出す。

 気付けば膝ががくがくと震えている。

 (本当に恐怖すると膝の力が抜けるんだな)

 俺はまるで他人事のようにそんな事を思っていた。


 「……俺を……殺す気なのか……?」

 俺は何とか声を振り絞った。

 

 「……お前は……女王にとって危険な存在だ……」

 ブレンダンは抑揚のない声でそう言った。


 「……お前は女王にとって不確定要素であり、お前のその力は女王に危険を及ぼす可能性がある……」

 「だからその前に俺を排除しようってのか。」

 ブレンダンが手にした短剣を構えた。


 おそらく俺の行動をずっと監視し、加速の事や俺の超人的な膂力の事もある程度把握してるのだろう。

 だからこそ今ここで俺を始末するのが得策だと決断したのだろう。


 「何度も言うが、俺は女王と敵対するつもりはない。」

 俺は言葉を続けた。

 ブレンダンの考えはともかく、ここで死ぬのはまっぴらごめんだし逃げ出すわけにもいかない。

 今ここで逃げ出して城に戻ったとしてもブレンダンに命を狙われ続けることになるし、女王にその事を嘆願してブレンダンを俺から遠ざけてもらう事も望み薄だろう。

 むしろ後ろ盾を失う事で容赦なく俺の命を狙うようになる可能性すらある。


 「前も言ったが俺がこの世界から帰るためには女王の力が必要なんだ。サウザンやノーザストに行く気もない。今以上の境遇になるかどうかわからないからだ。」


 「この力を悪用するつもりだってない。仮にそうすればしばらくは良い暮らしができるようになるだろうけど、そうなるといずれこの国と敵対する事になる。そうなれば元の世界に帰るという俺の目的は果たせない。」

「そんなのは不合理だ。……そんな事より、ここでこんな事をしててもいいのか?」

 俺の言葉にブレンダンの表情が微かに動いた気がした。


 「さっきあんたが殺した男、そいつは俺の事を狙っていた。つまり、俺の能力を知っていたって事だ。それがどういう事か、あんたにだってわかってるんだろ。」


 そう、この男がここに居るのはこの男が俺の事を知っていたからだ。

 では何故この男は俺の事を知り得たのか。

 答えは一つ、城の中に内通者がいるという事。

 それも間違いなく敵対勢力の。


 「あんたの事だから女王に護衛は付けているはずだろうけど、こんな所で時間を食ってる暇はないはずだ。言っとくけど、俺だって死にたくはないから抵抗はさせてもらう。あんたにも、この木の上と左右にいるあんたの仲間にもだ。勝てるとは思ってないけど、ただで死ぬつもりはないからな。」

 そう言って俺は身構えた。


 正直言うと本当に勝てるとは思っていない。

 ブレンダンはそんな俺を表情の読めない眼で見つめていた。

 が、すぐに踵を返した。

 それを合図に周囲からブレンダンと同じように濃緑の服に身を固めた男女が現われ、ブレンダンの後についていった。

 どうやら今回は助かったらしい。


 「……この辺りには罠を仕掛けてある、せいぜい死なないように帰ってくる事だ。」

 ブレンダンは軽く振り返るとそう言い残し、森へと消えていった。


 「はあ~~~~。」

 たっぷり五分ほどたってから俺は溜息とともにへたり込んだ。


 つ、疲れた。


 どうやらブレンダンのルノアに対する忠誠心は尋常なものじゃないらしい。

 あの様子だとまだ俺の事を狙っているのは確実だろう。


 俺は目の前に転がっている死体を眺め、ブルッと震えた。

 次にああなるのは自分かもしれないのだ。


 しかもブレンダンは俺の加速を知っている。

 次に狙う時は完全な対策をし、俺が加速を使う前に命を消してくるだろう。


 「はああ~~~~。」

 俺はまた溜息をついた。


 とにかく、こんな所で死体と一緒にいつまでもいたくはない。

 俺は立ち上がり、城へと向かった。


 道中は本当に罠が仕掛けてあった。

 しかも数十と、ベトコン並みの致死的なブービートラップが。

 視力が良くなっている事もあって幾つかは事前に避けられたが、加速と超筋力がなければ二十回位死んでただろう。

 ブレンダン、本当に恐ろしい男だ。


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