椎香ちゃんへ、僕は死んだけど元気です
僕には前世の記憶がある。正しく言えば、前世の記憶が蘇った、かな?
戻ったタイミングは、小学生の頃。お父様に連れられてやってきたとある高校での出来事だった。
「ここが将来お前が通う学校だよ」
そう言って紹介された学園は、四聖獣学園。その学校を見た瞬間、何処かで見覚えがあるけど思い出せない感覚に陥ったんだ。奥歯に変なものが詰まって気持ち悪い感じによく似てる。
「お前はこの学園の寮長になるんだ。そして、この学園を守っていくんだよ。三人の友達と共にね」
そう言ってお父様が紹介してくれた人達と出会った瞬間、何処で見たのかって思い出した。
フォーホーリービースト~イケメン達に魅せられて~という恥ずかしい題名のR-18乙女ゲーだ!!
青龍寮の竜崎蒼太。まだ子供だから幼さが残ってて可愛いけど、目つきの鋭さはこの時点で健在だ。物語が始まる時、この子は確かオラオラ系な俺様に成長している。
朱雀寮の鳥喜紅。僕と目が合った時にいい笑顔で笑ってくれた元気系な男の子。物語が始まる時、この子は確か…、やんちゃ系な俺様になってたはず。
玄武寮の亀谷黒兎。大人しそうな様子でドアの隙間から部屋を覗いてるだけでどんな姿化は見れてない。この子は爽やかな雰囲気だけどエロティックな俺様になってたはず。
そして、最後に残ったのが僕。
白虎寮の城虎真白。テンプレな悪役令嬢だったような?ゲームでは妖艶な雰囲気の女の子。男子校である四聖獣高校に『幼馴染だから』という無理やりな理由で入学をしてきたお嬢様だ。そして、他の三人の男の子達とは幼馴染で彼らの家は城虎家と取引があるからこそ成り立っている家。
他の三人を特別扱いして側に置きたがるけど恋愛要素は全く感じさせない。でも他の男達からは密かに想いを寄せられているという嫌味のない子だった。
そんな四人の関係を壊すのが四聖獣の真ん中に位置する黄龍寮として出迎えられた主人公、姫野姫花ちゃん。「でも~」「だってぇ~」ともじもじする感じが可愛いなって思ってるけど、女の子達からの評判は最悪。
人気があったのは真白ちゃんのほう。『三人とは友達で居たかった。自分だけ性別が違って違う扱いなのが悲しかった』ということに気づいたからエンディングでは主人公の結婚式でお祝いしてくれるし照れ隠しが下手なツンデレキャラになる。逆ハールートの時は『皆大好き~』という状態を貫いてる姫花ちゃんに共有しあう三人という奇妙な関係が出来上がってた。そして真白ちゃんはそんな親友三人を心配そうに見つめている…という落ちつきで、非常に胸糞悪い結末になっている。
まぁどんなエンドになろうと四聖獣との縁が切れるだけで、僕に痛手はないけど。
だから悪役だろうがライバルだろうが安心できる。
でも、ゲームとこの世界では違うことがある。
そう、それは僕が男だってこと。
確かに身長は150cmもいかないし、顔は童顔で女っぽいと思う。体つきもチンコを見せなきゃ男って信じてもらえないし。それでも、高校生になれば男らしくなるよ!!だから、姫花ちゃんじゃなくてもいい。恋人がほしい!!
そう、なんせ僕は童貞のまま死んだから!!
そのままの姿で転生をしたから、この世界で童貞を捨てれば僕だってリア充になれるはず!!
生前の僕はお隣に住んでいる幼馴染に片思いを続けてた。
でも、可愛い彼女は腐女子で僕に女装をさせるのが趣味だし、アナニーを覚えさせたがるし、やたらと男を薦めてくる。
このゲームを知ったのも彼女が原因だった。
そして、このゲームを攻略し終えて返そうと思って家の外を出た瞬間に意識は途切れている。
…たぶん、車に轢かれて死んだのかも。あのゲームは椎香ちゃんが辛い工場で働いてやっと貯まったお金で買った大切なゲームだったのに、僕が死んだせいで返せなかった。壊れちゃっただろうな、あのゲーム。
あぁ、一度でいいから椎香ちゃんに会いたい。そして、ゲームを壊しちゃって返せなかったことを謝りたい。
だからと言って椎香ちゃんと結婚したいわけじゃない。
だって、椎香ちゃんは18歳の時にMMOで知り合った友達とデキ婚して三人の子供のママになっているし。
旦那だっていい人で僕とはサシで飲みに行くほど仲良くしてくれる。
30歳になっても結婚ができない僕のことを心配して彼女探しを頑張ってくれてたし…。
そうだ、せめてもの恩返しにこの世界で結婚をして幸せになろう!!
幸せになって、椎香ちゃん達を安心させてあげるんだ。
そう決めた僕は、とりあえず男を磨くことに決めた。
このゲームのキャラに馴染むためにはどんな趣向の俺様になるかと考えて…。
1.知能派俺様
2.無口俺様
3.ツンデレ俺様
このどれかになろう!そう決めると
「ほら、ご挨拶をしなさい」
と背中を押してくれたお父様の顔を見て頷いて。
「あの、ぼくのなまえはきとらましろっていいます。なかよくしてくださいねっ!」
姫花ちゃんを奪い合うであろうライバル達に向けて笑顔で挨拶をした。