不思議な掛け時計
2007年3月12日19:12
仕事を終え、薄暗い田舎道を車を走らせながら2階建てのアパートに着いた。
階段を駆け上がりドアを開けると、テレビからゲームの効果音がしてる。
プレイしているのが幼馴染の慎也。今、同棲中の彼女と喧嘩し俺の家で何日間泊まっている。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し開けた。
ゴミ箱がいっぱいに溢れかえってる。食器やグラスの洗い物も溜まっている。
「おい、慎也。お前も少しは皿洗いとかやれよ」
「おう、やるやる」
投げやりな返事をした。
おおざっぱなこいつに期待するだけ無駄なのだろう。
そういうのが喧嘩の原因なんじゃないのか、あいつ。
まあ、いつもの事だ。定期的に追い出され一週間くらいしたら戻る。
仲は割といいのかも知れない。
ゴミを袋に詰め、アパートから少し歩いたところにあるゴミ捨て場まで行った。
ゴミ袋を置くと、その隣に引っ越しの際に捨てられたような大量のごみあった。
その中にある古い掛け時計が目に入った。
黒い版に金色の金具で縁取られて年季が伺える。針も金色だ。
ヨーロッパのアンティークみたいな模様が細部まで施されていて、
しっかりと作られてるのがわかる。
汚れはなく、むしろちゃんと手入れされている。
手に取ってみると、ますます高級さが醸し出てる。
何かの値打ちものかも知れないと思い持って帰ることにした。
俺の部屋には合わないが、アンティーク店などで少しは値がつくかも知れない。
掛け時計を抱えながら家に入った。
慎也はゲームに夢中で気に留める様子もない。
ビールを手にソファで拾った掛け時計を吟味した。
ちゃんと見れば見るほど知識のない俺でも分かるくらい見事なつくりだ。
数分間見ていたが、どうやら長針が動いてる。
裏側をみても電池で動いてる感じでもない。
かと言って巻くところも見当たらない。
少し不思議な感覚になりながら、
表側を上に向け、指で金具の縁や針の触り心地を確かめた。
どう機能しているのか気になり少しだけ長針を進めてみようとしたが、
全く動く気配がない。そわそわとした気分になり、長身を逆回りに少し動かしてみた。
逆側にはすんなり回った。そして長針から指を離した瞬間、俺は台所でビールを手に持っていた
ゲームを一心不乱にプレイする慎也が見える。
そして、シンクに溜まった食器類。先ほど捨てたはずゴミがゴミ箱いっぱいにある。
拾った掛け時計は見当たらない。
困惑と共に少しわくわくしながら、同じようにゴミを袋に詰めゴミ捨て場まで行った。
すると先ほどの掛け時計がゴミ捨て場に置いてある。
まさかと思いつつも時計を拾い少し駆け足で家に入り、
ビールを一気に飲み干し自分を少し落ち着かせた。
そして、先ほど同じように時計の長針をもう少しだけ多めに巻き戻してみた。
気が付くと袋を手にゴミ捨て場に立っている自分がいる。
目の前には掛け時計も置いてある。
ゴミ袋を投げ捨て、駆け足で家に戻った。
慎也に話しかけたが、気のない返事で相手にしてくれない。
ゲームのリセットボタンを押し、不機嫌な様子の慎也に起こった出来事を話した。
バカにしたような笑みをこぼしながら、ゲームの続きしようとしてる。
長針を巻き戻すように言っても信じた様子はない。
慎也の手を握り強制的に長針を巻き戻させた。
「おい、健二なにしてんだよ!」
という声がした瞬間後、俺はゴミ袋を持ったままゴミ捨て場の前に立っている。
置いてある掛け時計を拾い急いで家に入ると立ったまま俺を迎える慎也だった。
どうやら巻き戻す時に長針に触れている者なら複数でもいっしょに過去に飛んでしまうらしい。
俺が飛んだのはおそらく二回目に時計を拾う直前だったのだろう。
二人でこの不思議な掛け時計についてもう少し実験をしてみることにした。
巻き戻せる時間は長針は分、短針は時間。最大限に巻き戻そうとしても、
時計を拾う7分前までしか戻せなかった。
一日経ってから巻き戻しても、一週間経ってから巻き戻しても
時計を拾う7分前以上の過去には戻れなかった。
戻れる過去は最後に塗り替えた過去で、
巻き戻した人のみが戻れるというものだった。
徐々に途方もない出来事に現実感が出てきた。
そして、二人で最大限までの過去に戻った。
時計を拾ってから間もないが、
実際には20日くらい経験している。
これ以上過去にはいけないので、20日間の記憶はなくなることはなく、
どっちかがマックスまで過去に戻っても二人とも時計の記憶はあるのだ。
これは二人のどっちかになにかあった時のための保険のつもりだった。
そして、この時計の能力に浮かれた俺たちは小銭を稼ぐ方法や
これからどうするかなどを考えた。