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3.

―ゴトン―


 夜中に何か音がして目が覚めた。


 梅雨がもうすぐ終わろうとしている頃だった。

 寝苦しい夜ではあったけど、それにも増して異様な物音に完全に覚醒してしまった。


 なんだろう。そう思っていると、また何か物音がした。

気になって廊下に出ると、父の部屋から明かりが漏れている。

 なんだ、と物音の正体が父だと分かり安心し、再び眠りについた。



 翌朝、父が珍しく寝坊してきた。

 日曜日でさえ必ず7時に起床するのに、と妹がからかうと、苦笑いを浮かべる父。

 当の私は、夜中に起きていたせいだろう、と簡単に片づけて父の分の食パンを焼き始めると、ふと父が長袖のワイシャツを着ているのに気づいた。


「どうしたのお父さん?暑くないの?」

「ん?あ、ああ。……今日、教授会があってね」

「ふーん……そういえばいつもは半袖なのに、今年は長袖ばかりじゃない。大変だね~、大学の先生って」

「……まぁな」


 夏真っ盛りなのに、ネクタイはもちろん、袖のボタンもきちんと留めている父と妹の会話を聞きながら、どこか違和感を拭えなかった。


なんだろう。何かいつもと違う気がする。


とても疲れた――いや、思いつめたようなようにもみえる父に、何か不自然なものを感じずにはいられない。


「ねぇ、お父さん。体調悪いんじゃないの?大丈夫?」


 焼きあがったパンを皿に乗せて父の前に置きながら尋ねると、父が……どこを見ているのかわからない、焦点が定まらないような様子のまま、小さく「大丈夫だよ」と返してくる。


 なぜか左手首をやけに気にしている様子の父は、その日それ以上何も言わずに出勤していった。


 いざ食卓に着いたと思ったら、私たちを急かすだけ急かして、どこか力なく行ってしまった父が去った後のテーブルを見ると、一口だけ齧っただけの食パンが残されていた。


 ――なんだろう。この感じ。


 何か嫌なものを感じる。


ざわざわとした――母に白血病が見つかった時のような、どこからか薄暗く冷たい「死の予感」が、ちりちりと胸に刺さってきた。


 だめだ、もう大学いかなくちゃ……


 後ろ髪をひかれながらも、家を後にした。



 大学に着いてからも、朝――そして夜中に点いていた父の部屋の明かりが頭から離れなかった。

 気のせいだろう。きっと疲れが溜まってたんだ。

 夜中に起きてたのだって、今まで泣けなかった分、ひっそりと最愛の人に思いを馳せて泣いているのかもしれない。


 そう思えば思うほど、心の中で不安はますます大きくなり、心臓がバクバクと大きく脈打った。


 結局その日は、授業の内容が全く頭に入らず、終礼のチャイムが鳴ったことさえ気づかないまま5限目の授業が終わった。



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