再会のラベンダー3
ドサッ
あれから帰り道のことは覚えてない。家に着くと私は操られたようにベッドに仰向けにダイブする。
見える天井が圧を掛けてくるようで苦しい。それに加え、シンプルな机に椅子、ベッドやタンスなど全てが無機質に私をあざ笑うように感じる。
(今日は昨日より疲れがたまってるみたい。)
そもそも、いつからこんなに普通になったんだろう。物心ついてから私はこうだった。
みんなは生まれつきの体質だと言うけれどほんとにそうなのかなぁ。
なんて、考えていると階段を駆け上がる音がした。そしてその音は私の部屋で止まった。
ガチャ!
「真白、森坂病院行くわよ!」
母さんが身支度を済ませ慌てたように言う。
森坂病院は私が住んでる県一の大きな病院だ。
「え?なんで?××はもう起きないんじゃ意味無いよ。」
ぶっきらぼうに答えると母さんは私の腕を引っ張り、こっちの主張も聞かずに無理やり車に私を乗せた。
「母さん、今更、お見舞なんて…」
「いーから、いーから!ほら、シートベルトして!」
しぶしぶ、シートベルトをして、車窓によりかかる。
母さんはシートベルトした後、いつもより器用に運転し始めた。車が道を曲がるとき、母さんの横顔が微笑んでるように見える。
(変なの…。)
車は海沿いの丘の上に止まった。
病院に入ると霊のごとくあの消毒液のような臭いが辺り一帯香る。
(うっ…。)
それとともに小6まで××のお見舞に通ったこと、隔離室で呼吸器を付けてただ寝ている××を窓辺に泣いたこと、思い出が尽きないほどよみがえる。あのころは懐かしかったな。
と、思い出にひたっていると母さんが来たこともない病棟に向かっていることがわかった。
「母さん、どこ向かってるの?」
私が問いかけると母さんはある病室で立ち止まり私に微笑む。
「真白、あなたがまず行くべきね。」
そして、ドアを開けるよう促す。
言葉の意味もわからぬまま、私はドアをそっと開ける。
すると、生温い風がいっきに私を包み込み、やがて落ち着きを取り戻す。
しかし、私は落ち着いて入られない。なぜなら…。
「…え。」
病室の奥のベッドであの懐かしい顔が笑っていた。
「久しぶり、真白。」
「…、七星?」
しばらく何も始まらないまま時間だけが刻々と過ぎていく。
どこかでヒグラシの鳴き声が甲高く聞こえた。