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秩序の魔王の順応性  作者: ARS
冒険者
42/44

一方勇者達は?

なんか、久々!

時に、斎藤 優希は借金地獄に困っている最中。世界各国で魔王城と呼ばれる場所では異変が起きていた。


それは異界の勇者の登場だった。


「魔王様!報告があります」


四天王の一人、グレザレと呼ばれる男が執務室にて書類仕事に埋もれている黒髪の若い青年に礼を尽くしたように言葉を発する。年齢差から見てみると異様な光景である。

見た目だけでも十以上は歳が下に見える青年に頭を下げる光景は奇妙と言っても差し支えない。


「ん?あぁ、グレザレかどうしたんだそんなに焦って?」

「その前に…いま、魔王様…俺のこと忘れてませんでした?」

「そんなことない!俺はしっかりと顔は覚えていたさ!」

「いや…顔は覚えていたって…」


グレザレは少し何でこんな人に忠誠を誓ったのだろうと考えるがそんなの野暮なことだろう。そう、その青年は魔王と呼ばれる存在であり、グレザレの命の恩人…それだけで十分なのだから。


「それでどうしたんだい?もしかして、もう既に勇者が攻め込んできてるとかだったり」

「そ、その通りでございます!」


冗談半分で行ったことが本当であったにも関わらず魔王は平然としていた。「予想より早いな」魔王は呟きながら戦闘用の正装に着替え始めた。


「それでグレザレ…他四天王は?ある程度戦闘の出来るお前がいるということはあまり緊迫した状況ではないと思うのだが?」

「えぇ、まぁ部下でも充分抑えられる範囲でしたので一応報告を…と」

「ふむ、今のところの被害は?極力減らしたいからその程度の相手を俺が務めるが?」

「いえ、魔王様が出るなんてそんな…」

「いや、いいさ…いくらこっちが平和的に解決したくても力を見せつけなくちゃ舐められて終わりだからな」


魔王はそう言ってフッと遠い目をする。優希の調べからの通り魔王とその部下達の一部例外を除けば全てがハーフであり、迫害され続けた者達の集まりである。

魔王はその迫害をどうにかしようと力を付け、他のハーフに手を差し伸べ、こうして現在勇者に攻め込まれているわけなのだが…。


「では、魔王城の大広間に通してやれ俺も…」

「わかりましたが…魔王様、ここ…出張先で遠いですが?」

「偶には羽を伸ばしたいという思いが仇となるとは…」


魔王に空間転移なんていう便利で高度な呪文はなく、純粋に地をかけ魔王城へと帰るのだった。因みにグレザレに頼んで多少時間稼ぎをしてもらったのは言うまでもない。


とても優秀なのだが、どこか締まらない魔王に何故忠誠を誓ってるのかと再び疑問に思うグレザレであった。



**



黒谷くろや 藍蔵えいぞうは今、魔王城の目の前まで来ていた。

それは黒谷だけではなく、面倒ごとをさっさと終わらせたかったり、黒谷に付いて行く人達の黒谷含め、計5名が魔王城の前に立っていた。

因みに余談だが、黒谷以外の異界の勇者達は情報集めに行っていたり、途端に行方が分からなくなったり、自由に気ままな生活を送り始めていたりと様々だ。

おかしなことに4分の1近くの人間が行方をくらましたのだ。しかし、それが何故かと尋ねれば誰にもわかりはしない。

けど、その中で一人だけ原因を知る者のがいるのだが、それ以外の人は知らないのである。


話を戻そう。


黒谷は現在、仲間と共に魔王城の前まで来ていた。


「なんか、おかしくないか?」


黒谷の一言に対して全員が「何が?」と答えた。


「いや、ここまで殆ど無防備だ…俺達の方が強くて太刀打ち出来ないとしても魔王城の周りくらい警備がいてもおかしくない…しかし、そんな気配は一切ない」

「黒谷君、考えすぎだよ。だって、私達のレベルは800代だよ…そして、魔王の雑兵とは言えでも敵の平均レベル200前後…これなら、魔王も大したことないよ」


黒谷は別に馬鹿ではなかった。少し前の黒谷ならこんなことを疑問にすら思わなかっただろう。他の人と同じようにどこか楽観し、目的に焦り、自分の優位を作ろうとしている。


「それもそうだな。それでも気を引き締めていくか」


しかし、黒谷は今焦りはない。目の前の現状をしっかりと見ていた。だが、どこか流されやすいところのせいで彼は楽観してしまった。



この世界はレベルだけではどうにもならないことがあると言うことを彼らは知らなかったのだった。



**



また、場所が変わり洸夜達はある草原にて魔物を狩っていた。


「うおぉおぉ!」


洸夜はそう叫びながら剣を振るう。敵は巨大な鳥型の魔物であり、高い機動力と空からの急激な下降により高い力を持つ魔物である。


現在、洸夜の他には香恋、茅芽、淳そして、エイナとイリアはおらず、その穴を埋める様に生徒会長だった久遠と副会長の詩音が戦っていた。


六人はデカイ鳥を正確に仕留める為にそれぞれの役割をこなしていく。タンク兼アタッカーの洸夜が前線に立ち、怯んだところに淳の拳で砕く。

茅芽、香恋、詩音の魔法で牽制しつつ、久遠の遊撃で鳥の動きを崩す。

洸夜は巨大な剣を抜いてガードをする。そして、吹き飛ばされるが流石に重いものを弾き飛ばすのに力を使った魔物は動きが止まる。


「今だぁ!」


洸夜の叫びが轟く。それに気づいた魔物は飛び去ろうとするがもう遅い。


「悪源魔法『スロウ』断罪魔法『堕』」

「もらいました!オリジナル魔法『ライフル』」


何かが破裂したような轟音が鳴り響く。それは茅芽から放たれており、電撃と圧縮された空気の爆発によって打ち出される岩の槍は魔物の翼を抉り降下していく。その向かう先には淳が拳に魔力を込めて待っていた。


「粉砕する!『インパクトウェーブ』」


魔物に拳がぶつかる。それの音は何度も反響して聞こえ、魔物の身体中に衝撃が巡る。それは血液の流れをかき乱し、魔物の血を噴出させる。

しかし、まだ終わっていない。淳は今の一撃で魔力は大分減っている。次の一撃を放つには次が必要である。そこに詩音の魔法によって強化された久遠が魔物の上を跳ぶ。


「終わりだね…」


短剣を握った久遠が宙を蹴る。その瞬間、ありえない速度で魔物に迫る。そして、血の吹き出てる場所をより抉る。それだけでは終わらずに身体中を切りつけて魔物の体をボロボロに血が完全に足りなくなるまで切り刻むのだった。


久遠が終わったとすり減ってダメになった滑り止め用のグローブを取り、新しいグローブをつけている中、五人はまた動き出さないかと見ていた。


「君達は心配し過ぎだよ。間違いなく死んだよ。あのタイプの動物の致死域はだいたい理解してる」


久遠がそう呆気なく言うが五人は苦労しただけに気にしてしまう。そもそもが漫画とかでは勝利は呆気なくないがリアルでは案外あっけないものだったりするのだ。


「というか、イリアとエイナのやることって何だと思う?」


洸夜はふと、一月前にやることがあるからと別行動をした双子の二人を思い出して呟く。


「そういえばあの二人が自分から何か行動するのは初めて見た気がする」


香恋の言葉に洸夜はある日の迷宮での出来事を思い出す。二人が一体どうしたのかと分からない五人は頭を悩ます。


「はいはい、みんなそんな答えの出ない疑問は止めようか」

「お前は何か知ってるのか?」


久遠だけはいつもどおりにそう言う。洸夜はその様子に不思議に思うが久遠は首を横に振る。それを見て「そうか」と洸夜は呟くだけである。


「まぁ、この辺でいいかな」


しかし、すぐに五人は気分を変えさせられた。それはとんでもない殺気からである。


「久遠、何のつも…」

「…会長、脅かさないで…」


殺気が久遠から放たれていることに気付いた五人は脅かさないでと言おうとした時だった。気付く。久遠の様子が自分の知るものではないと。


「自分はここから降りさせてもらう異論は?」

「いや、お前が降りたらリーダーは…」

「それは洸夜君、君がやればいいだろう?」


いつも笑ってるような久遠の表情が全く読めない。そう普段から洸夜は思っていたがそれ以上だった。今までのは何だったんだと言うくらいに怖いような分からないような…とにかく笑っていたのだ。


「いや、生徒会長が辞めるって急に何で…」

「うん?急も何もないよ。元から君たちが強くなるまでの子守だったんだから」


香恋の質問に対して、まるで子供の子守をしていたような人のセリフ。そこには何の感情も込められておらず、ただ、当然だと有無を言わせない雰囲気があった。


「いや、会長がいなくなったらどうすんだよ」

「そうです。会長について行くと決めた私達は…」

「知らんよ…君達がそう言ってるだけだからね」


茅芽と淳の言葉に狼狽る様子もなく悪びれる様子もなくそう言う。それは彼らの知っている久遠からあまりにもかけ離れていた。


「では、何でかだけでも」

「そうだねぇ、君にはお世話になったし…」


久遠はいつも通りな雰囲気を見せてのも一瞬、氷のような冷たい表情に変わり。


「復讐」


それだけ言って去ろうとする。しかし、洸夜がそれを止める。


「待てよ」


久遠は笑顔を崩さずに洸夜を見る。


「まだ他に?」

「あぁ、どうしても納得できないことがあるんだ。お前は誰に復讐をする気なんだ」

「ふふ、面白いことを聞くね」


久遠はそう言うと目を大きく開く。その瞬間、洸夜は地面に伏していた。


「言ったはずだよ。君は何も知らない。でも、彼は知っている。僕が忘れたくても忘れられない記憶を忘れてね」


洸夜は久遠を止めようとするが何故か体が動かない。必死に手を這わす…周りも動かないようで倒れ伏している。


「人間は面白いものだ。自分ができると理解してるつもりのものは実は何もできないのだから」


久遠はそう言ってその場から去って行く。そうして、姿が見えなくなってしばらくした後、洸夜達は動けるようになってもただ、状況を飲み込むのに必至だった。



**



ある四人の異界の勇者である彼らはまだアルグラ皇国から出ていなかった。いや、正確には外には出ているがそこを拠点にして動いていなかった。

その四人は川口 拓人、山本 寧々、佐藤 ヒロム、望月 楓。


川口「はぁぁ、今日の稼ぎは何とかなったな」

山本「そうだね。私はもうヘトヘト」

佐藤「それは俺も同じっすよ」

望月「みんな、あとちょっとだから静かにして弱音を吐かれると聞いてる私が辛いから」


この四人は特に好戦的と言うわけでもなく、ただ強い相手と戦うのを嫌い普通に冒険家として日銭を稼いで生きていた。

因みに今回のはかなりの遠征で軽く一月近く町に帰っていない。


「はい、お疲れ様でした」


受付のセシアが四人に笑顔で対応する。それに男性陣は癒されて、女性陣は帰ってきたと安心する。そうして、落ち着いたところで望月ははたと気付く。


「あれ、普段と比べて活気があるわね」

「お、たしかにそうだな。祭か?」

「いえ、違いますよ。最近、迷宮の入り口が街に発見されたんですよ。それで国が攻略に躍起になってるので冒険家の依頼にもあって割がいいそうですよ」


セシアの言葉に四人は「へぇ」と感嘆の声を上げる。


「でも、どうやって見たかったんすかね?」

「そりゃぁ、迷宮が競り上がってきたりとかじゃねぇ?」


男二人はそう言った話をする中でセシアが何ともいえなそうな表情で笑っていた。


「どうかしたんですか?」

「いえ、見つけたのは冒険家でして…」

「世の中、すごい冒険家っているんだね!」


女性陣の言葉にセシアは更に顔を引きつらせる。そして、目を逸らしながら言う。


「実はその冒険家って、私が主に担当してるんですけど…解体作業の時に勢い余って穴開けた先に迷宮があったそうなんですよ。因みに本人は未だ迷宮の情報を知りませんし」


その言葉を聞いた四人はたしかに言いづらい話だと本心から思った。そんな時だった。


「そこ、どいてください」


凛と少し幼いめの声が四人にかかる。四人はすいませんと言いながら振り返るとそこにいたのは未だ少し幼い感じの獣人の少女がそこにはいた。


「あ、ヒサメさん。お疲れ様です。えっと、ユウキさんは?」

「あ、今日も解体部屋で…」

「わかりました。それで…今回のは、アクセルウルフの討伐ですか。早いですね」

「そうなんですか。私はそう言った実感はないんですけど…」


ヒサメとセシアはそう言った様子で会話する。アクセルウルフは大体レベル40台の魔物であり、個人討伐にはB〜Aは必要とされている。


「あ、そうでした。朝紹介してもらった迷宮についてなんですけどどこかいいパーティーはないでしょうか?」

「あれ?朝は断ったたことをってだけではなくパーティーとはどう言った心境の変化でしょうか」

「すいません、ユウキさんに許可をもらえまして、そしたらいい機会だし他人と組んでみろと言われたんです」


ヒサメはそう言うとセシアは「大丈夫ですよー」と笑う。

因みに実際の会話はこれである。


『あの、ユウキさん。迷宮ってなんですか?』

『うん?迷宮か…とりあえず資源?』

『すいません、意味が分かりません』

『あ、悪りぃ。せっかくだしどっかで案内でも付けて経験するといいよな』


優希は迷宮の件は知らないので機会があればあったらの話をしていたのだが、たしかに機会があるので間違ってはいないのである。


「ふーむ、迷宮の共にするパーティーですか。基本的に高ランクは一匹狼ですし、ヒサメさんの身に何かあったら大変ですし…」


セシアがそうして悩んでいると空気になっていた四人の中の一人が反応する。


「それなら俺達とかはどうですか?」


川口の提案にセシアは一瞬、考えるものの、「それはいいですね」と言って了承する。


「ヒサメさんはそれでいいですか?」

「大丈夫です。悪い人には見えませんし…それと、どこかユウキさんと同じ匂いがします」


ヒサメは獣人であり、非常に雰囲気や匂いに敏感である。故に優希と川口達がどこか似てると言うのを直感的に感じ取っていたのだった。



**



「ぃぃ、いよっしゃあぁあぁあぁ」


川口と佐藤は部屋にもどると川口がはしゃぐように奇声を上げていた。佐藤はうるさそうに耳を塞ぐ。


「川口さん、迷惑だからもう少し静かにするっす」

「おぉ、悪りぃ。でも、あんな美少女と冒険できるんだぜ!はしゃがずにいられるか!」

「わかるっすけど、それはうちの女子達に失礼じゃないっすか!」


佐藤の言葉に川口は一瞬、黙るがすぐに真顔になって呟きだす。


「たしかに、あいつら美少女だよ。でも、分かって俺が求めてるのは美少女じゃないの。更に言うなら幼馴染だし!俺は秘密握られているような状況で付き合いたくないの!」

「はは、そういえばユウキって誰なんすかね?」


佐藤のその一言に川口はふと考える。それもそのはず、この世界にユウキなる人物がいるとは思えない。しかし、自分たち以外の勇者がここに来るとは思えないのだ。


「転生者とか?」

「なんすか、その突っ込みまくったようなポンと出設定」


そう言って二人は笑う。


「でも、あり得ない話でもないだろう?世界には未解決事件を前世の記憶とか言って解決したとかあるし」

「そうっすね。でも、それが必ず日本人とは限らないじゃないっすか?」

「おぉ、その可能性は失念していた。となると、外国の人とかも中には転生してたりとか?」

「いや、他にも更に別世界やこの世界からと言う線もあるじゃないっすか?」


そうして、男子の話は盛り上がって行く。明日からはまた一週間ほど安息はなく、迷宮を潜ることになっているのだ。備えるためにも気がつけば二人はすぐに規則正しい寝息を立てているのであった。



**



時は進み、彼らが迷宮を探索して、かれこれ一週間が経とうとしていた。男女で旅をする都合上互いに考慮して荷物は多くなっているがそのおかげか互いに気まずい関係になることはない。


「いや、ヒサメさんはすごいな。俺達いらないんじゃないか?」

「いえ、私は迷宮は初心者なので少しでも学んでおきたいのです」

「へぇ、ヒサメちゃんって偉いんだね」

「いえ、偉くなどありません」


そうやって会話をしながら五人は進んでいく。迷宮は人海戦術のおかげか五人が入る頃には大部分が分かっており、未踏破エリアまで最短で来て、何層か降りていた。


「いま、何層だったかしら?」

「えっと、大体七十一層っすね。最短で行ってるとはいえでも少し異常っすね」


勿論彼らの進み具合である。現在、踏破区域は五十六層であり、彼らはそれを簡単に凌駕していた。異界の勇者と秩序の勇者の名は伊達ではないということである。


「そういえば、不思議ね」

「何がだ?」


ふと、望月が思い出したように呟く。それに対して、川口が首をひねるがその瞬間、ヒサメ以外が気付く。それに気付くのが遅れたのはある条件が重なっていたに他ならないのだ。


「さっきから明るさが…」

「うん、これはおかしいよね」

「え、でも…」


しかし、違和感を覚える。この一週間、何故疑問に思わなかったのか。

その答えはすぐに分かる。



そう、この迷宮は階層ごとに明るさが違うのだ。確かにそう言った迷宮はなくはない。それは複数の迷宮が重なって起きる現象であり、明るさの変遷が違うと言うことがある。

しかし、ここは違った。階層ごとに明るさが決まっておりそして、そこから一切の変化がないのだ。


迷宮の明るさが変わらないのはその迷宮が死んでいる時か、あるいは特殊な迷宮かのどちらかしかない。そして、もしも迷宮が既に死んでいるのであれば、魔物達の生きるためのエネルギー供給が消えて行き、外に出て暴れるか飢餓による全滅が引き起こされる。


しかし、そんな予兆は一切なく迷宮は作動している。要するにこれはもう一つの特殊な迷宮に分類されるに他ならない。


その、迷宮とは。


「八物語の迷宮」


その言葉はヒサメが言ったものだった。しかし、四人は首を傾げるだけ。八つの迷宮の話は洸夜達はされているものの全員されてる訳ではなく川口達は話されていない部類のグループだった。


「ヒサメさん、それってなんだよ?」

「えっと、地域によっては聞かないかもしれないですがこの世界全域に伝わる御伽噺に出てくる八つの迷宮なんです。どの迷宮もこの迷宮のように時間が変わらない。そんな迷宮なんです」


そして、この迷宮には御伽噺の側面がある。それは洸夜達が語られた事実だと思われる部分ではなく荒唐無稽なお話。


ヒサメはその概要を説明するために話し出す。



八物語の迷宮。


それの生まれは別々のものなのかもしれない。しかし、それは一つに収束していた。赤い空と荒廃した大地、絶望しか無い世界の中での契約。それが八つの物語の始まり。

世界はもう一度ひとたび青く、蒼く、色付き今の世界に戻したという。



「…、その迷宮はわかってるのか?」

「いえ、迷宮は今のところ慈悲の迷宮しか発見されておらず、世界のどこかにあるとは言われています」

「それで、ここがそうだと言うの?」

「はい、多分…まぁ、御伽噺ですから…」


その言葉と共に空気が凍りつく。まるで、圧倒的な何かが目の前に現れたかのように。いや、かのようになんかでは無い。実際にヒサメ達の目の前に存在していた。


「おやおや、選定に足る人間が来たかと思えば子供じゃない」


そんな女性の声が嫌に響く。そして、誰もが息を飲む。その女性が圧倒的な支配者としての強者だから?いや、それもあるだろう。しかし、それは別のものもあった。そこにあるのは男性も女性も魅了する究極の美の追求された姿だった。


「逃げてください!」


瞬間、ヒサメは悟る。


これは人間が太刀打ちできるものでは無いと…。


ヒサメは僅かにある鑑定スキルを使う。


ーーーーーー

ラスト

種族サキュバス

no data


ーーーーーー



「あらぁ〜、乙女の覗き見なんてマナーがなってないのね」


その瞬間、ラストが目の前から消える。そして、目の前に現れる。否、見えていた筈だ。ヒサメが思うよりラストの速度はそこまで速く無い。しかし、目の前にいる存在はそれだけの何かがあった。


ヒサメに衝撃が走る。ただの平手…それだけで身体中が軋みヒサメの体は悲鳴を上げる。


「っがぁ!」

「ヒサメさん!」


四人の声が重なる。しかし、ヒサメは逃げてとだけ呟くだけで引かない。


「ユウキさんに伝えてください。それまでは持ち堪えます」


そう言ってラストに飛びかかる。狭い通路、ヒサメは壁を蹴り、天井を蹴り自由自在に重力を無視して駆ける。

それを見た川口達は悔しそうに撤退するしかなかった。


「待ってろよ!」

「すぐにユウキさんって人を連れてくるっす」


それだけ叫ぶと走っていく。ヒサメはそれを横目で見ると安心の息を漏らす。


「へぇ、余裕じゃ無いの」

「いいえ、でも強い割には遅すぎます!」


二人がぶつかり合う。互いにダメージを受けるがヒサメは獣人から見ても異常な自然治癒で、ラストは圧倒的な再生能力で無傷に変わる。


互いに削りあいながら殺し合う戦いが始まる。



**優希



夜中、俺はいつものように解体作業を終えると欠伸をしながら今日の報酬を受け取っていた。


「いつもありがとさんと、そういえばヒサメはそろそろだっけ?」

「はい、明日には帰ってくると…」


その瞬間、バタンッとドアが開け放たれる音がする。時折いるんだよなあぁ言った目立ちたがり屋。慣れてしまった俺は初めて聞いたその音の時と比べて無反応。最初はなんだとか思って見た純粋な自分が懐かしい。まぁ、つい最近のことだけど…。


「…あれ?あなた達は…」

「セシアさん!大変だ!」

「そうっす大変なんっす!」

「お願い!頼れるのはセシアさんだけなの!」

「ヒサメさんが…ヒサメさんが…」


そうして入ってきた四人は大分慌ててるようで…え、待て待て待て…今、ヒサメって言った?


「とりあえず、落ち着いてください。ヒサメさんはどうしたんですか?」

「そ、それが…迷宮の71層でとんでもない威圧感を放つ奴がいて逃げろって言われて一人で…」

「なるほど、恐怖でやられたわけですか」

「…」


全員が悲痛そうにだまる。いや、それより聞き捨てならないことを聞いたぞ。いま、ヒサメが一人残ったとか言わなかったか?


「いや、お前達、今ヒサメが一人残ったって確かに言ってたよな?」

「え?あ、あぁ…そうだ…っがぁ!!」

「ちょっ、ユウキさん!」


俺は目の前にいる男をとりあえず首を掴み持ち上げる。力は絶妙な加減で入れてあるため死なないようにしている。折角ヒサメが生かしたのだ殺すのは忍びない。


「おい、答えろ!そこはどこだ?」

「ッグゥ!」

「ちょっ、川口さんを離すっす!っがぁ!」


邪魔する男を蹴り上げて倒れた後に足蹴にする。今のこっちは気が立ってるんだ。攻撃の意思は下手すれば殺しかねないからやめてくれ。


「はい、ストップですよーユウキさん!」

「いてっ」


そう言ってセシアが割り込んでくる。うまい具合にこちらを刺激をしないように加減して叩かれる。しかし、意外と痛い。


「な、何するんですかセシア。こっちは…」

「気持ちはわかります。とりあえず、事情をしっかりと聞く方が先決だと思いますが?」


うっ、正論に俺は黙るしかなかった。


(優希様がここまで取り乱すなんて珍しいですね)

『我まで少しゾクっとしたぞ』


心の中組にまで冷やかされてようやく俺は冷静になるのだった。いや、俺だって人間だよ?大切な人が何かあれば取り乱すよ。


(うわっ、今更人心を語るのは無理があるのでは?)

『龍の我ですらそれは思った』


なんか、最近当たりが強くない?というか、サムニウムは本当に感情豊かになってるな…。

さて、現在借金のせいで色々と動くに動けない優希の未来はどうなる?

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