獣人の秩序の勇者
代わり映えのしない森の中…いや、実際は結構変わってるけど素人目の人間からしたら変わってるかわからないだろう。
俺、優希はのんびりとというか少し急ぎながらも観光気分で歩いていた。
この辺りにいる魔物はそんなに強くなく、特に危険もない。
今は戦闘に対する欲求も無いので不満もなくただただ前へと進んで行く。
『にしても、なぜ道を使わなかったのですか?』
唐突に頭の中に響く声は俺が痛いわけでは無い。
まぁ、ある一種の痛さはあるがこれは俺のスキルというより平行思考などと言った俺の能力を利用して自我を生成して気付けば存在していた妄想サムニウムである。
「うーん、なんとなくというか…説明しにくいな」
元は自分の思考回路を使われて生み出された存在とは言えでも独立してしまっている以上、俺だけの思考で済まされたことを説明するのが難しい。
まだ、直接的に何かを行なったなら俺の補助をしているサムニウムに理解はいっただろう。
「自然占い…いや、正確には風読みというのかな?」
俺はどちらもあまり聞き慣れない単語を言う。
いや、まず自分が勝手に付けたものでありこれと言った呼び方がない。
しかし、多少なりとも自分という存在から生まれたサムニウムは理解をしたようだ。
「まぁ、木々や空気の流れ、温度、匂いそれと経験による感覚で決めてるから分からないものだけどな」
『それは占いではなくて最早分析じゃありませんか?』
「そうか?」
思わぬ一言に俺は首をかしげる。
しかし、これ以上話すのは墓穴を掘るような気がして俺は黙る。
『賢明だと思います』
そんな心情も見透かされて呆れられた声を出される。
全く、これでは俺が悪いようだ。
俺はそう思いながらゆっくりと森の奥へと歩いていく。
さて、そろそろこの森について触れるとしよう。
と、言っても特に話すこともなくアルグラ皇国の隣にある森で意外と深い森である。
そして、そこには大量の魔物が出没するようで…というか森自体が魔物が大量に出没するから基本的には森の中には道は整備されない。
だからこんなのが釣れる。
その瞬間、マップの端っこに黒い点が現れる。
そして、それに囲まれた中で小さく青い点がある。
「まさか、こんな初っ端から引っかかるとはな…」
俺はそう言うと駆け出す。
それこそ、現在の持つステータスなんかでは無理なほどの速度で…。
ーさぁ、覚悟はできたな
俺の呟きにもならない声とともに点の位置までたどり着く。
どうやら、予想が当たりのようで見事に相手の進行方向に回り込めた。
そして、剣を抜く。
「何者だ!」
しかし、姿を見せてないにもかかわらず騎士のような格好をしたリーダーと思われる男がそう叫んで剣を構える。
「総員!警戒態勢!」
どうやら、俺は彼らの探知能力を舐めていたようだ。
アナードという騎士には通じたから気配を消し続けるてきたのだが彼らは一味違うようだ。
しかし、それでも俺は指揮官の首を刈る。
それこそ、一瞬の隙。それさえあれば人一人殺すのに充分である。
「なっ!くそっ姿が見えない。全員気配感知に回せ!」
それでも動じることはあまりなく次の人間が指揮を執る。
すると、あっという間に俺は囲まれる。
それでも、俺は焦る気持ちなどない。
むしろ俺はホッとした。
ーよかった、相手が強者だらけで
その瞬間、起こした。
俺は歩くだけ…
「上手く隠れたがバレバレだぜ」
そう言って彼らは俺とは外れた方向に剣を空振る。
その隙に俺は近くにいる二人を殺す。
首を刈り、心臓を貫く。
誰もが信じられないという顔で死んだ二人の先、俺がいる場所を見つめる。
しかし、彼らには俺の姿は映らない。
ただ、俺の気配をジッと感じ取っていた。
そう、彼らまんまと俺のミスディレクションに引っかかってくれたようだ。
強者なら相手の気配が分かれた時にどちらが本物が見極める。
しかし、もしも片方が大きくてもう片方が全力で隠蔽しようとされていたなら、そっちが本物だと直感的に勘違いする。
大きい中で埋もれた気配を感知できるだけの実力があるものにしか通じない…いや、通じないからこそ簡単に成功する。
「くそっ、気をつけろここからは安全な場所は無いと思え!」
指揮を執ってる人は気付いたようで指示を出す。
しかし、それでは今の攻撃が効果的だと俺に教えてるようなものだ。
その瞬間、さっきと同じように気配が様々なダミーを作る。
それも相手の数の倍もの数を。
俺はゆっくりと混ざるように一つ一つの気配の強さも調節しながら混ざり込み歩いて近づく。
「全員、近づいた者は全部…がぁっ!!
なぜ…気配が…」
俺は指揮官を剣で刺し殺す。
それも命令途中でそうすることによって全体を混乱させるため。
因みに指揮官は目敏く俺の近付けたダミーの全てに攻撃を仕掛けていた。
しかし、それが悪かった。
一度攻撃したダミーと入れ替わることにより近付いた際に油断が生じてしまっていたのだ。
そうして、一人、また一人と殺していき終わった頃には日は暮れていた。
「全く、最後の奴は見てきた分警戒が強かったな」
最後の相手は本当に手こずった。
ずっと最大限の注意を払い、俺のダミーに対して常に警戒を張っていた。
しかし、常に集中を続けるのに限界が来たようで長期戦によって俺は勝利した。
「さて、戦利品は…と」
俺はそう言いながら彼らが運んでいたであろう馬車に近づく。
『完全に盗賊と一致ですね』
「まぁ、そう言うな。
流石にこれは見過ごせないだろ?」
俺はそう言って馬車を開く。
そこにはいくつもの物資…それと奥でなにかが動くような影が見えた。
『たしかに…』
目の前にある光景はあまり良いものとは言えなかった。
奥で僅かな活力で逃げようともがく縛られた少女の姿があったのだ。
頭には何の耳かよく分からない耳が付いている少女が…。
「そう睨むな、俺はお前を助けに来ただけだ」
少女はやはり警戒してるようでジッと俺を睨んでくる。
言葉で落ち着かせようとするが一向に落ち着いてくれる気配がない。
それもそうだろう。
いきなり助けに来たと言われても信用が出来るわけない。
だから俺はゆっくりと痛くならないように少女を縛っている縄を解く。
「これでどうだ?」
「…はぁ、ありがとう?」
少女は息を吐き警戒は解かないままお礼を告げる。
警戒心が強いがまぁ、当然だろう。
にしても、予想外だったな…。
アルウラ皇国?に着く前にこんなイベントが起きるとは思っていなかった。
『アルグラ皇国です』
そうそうそれそれ。
とりあえず、飯でもあげるか?
俺は机と椅子を取り出して軽く料理をする。
「あの…何を?」
「うん?いや、腹減ってそうだから餌づ…ご飯でも食べさせようかと」
「今、餌付けっていいかけませんでした?」
「いや、気のせいだ」
俺は料理を作りながらそっと少女を鑑定する。
——————————
ヒサメ
職業:秩序の勇者LV1 神獣LV1 複合獣LV1 狩人LV1 拳聖LV1
レベル:1
HP:570/570
MP:420/420
筋力:108
防:32
速:112
体力:120
魔力:75
魔法防:23
体技:150
器用さ:100
運:100
スキル
『秩序の勇者LV1』
『獣化LV1』
『神獣化LV1』
『獣拳LV1』
『神獣魔法LV1』
『魔力親和LV1』
『魔力促進LV1』
イレギュラー
『獣神』
『天賦の才』
称号
『秩序の勇者(獣)』
『獣神』
『神獣』
——————————
な、何だこれ?
いや、俺の初期より強い。
当然だけだども…でも、負けた感が凄い。
それでも秩序の勇者だって分かっていても自分は弱いのだと自覚させられる。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。
それよりたんとお食べ!」
そう言って俺は彼女を椅子に座らせて食器を用意して少女の目の前に料理を置く。
すると、少女は目を輝かせて固まった。
「どうした?食べないと冷めちまうぞ」
「え、あの本当に食べていいんですか?」
「あぁ、遠慮するな」
そうして、少女は恐る恐ると料理に手を付ける。
全く、毒なんて入れてないから緊張しなくていいのに…
『いえ、そういう問題ではないかと…』
分かってるよ…この調子だとまともに飯を食べたのはいつなのかな…。
結構刷り込まれてるみたいだけど精々一月や二次ぐらいだろうな。
そうして考えてるうちにようやく少女は一口食べる。
そして、そのまま…
「あの…おかわ…すいません!そんな私ごときがそんなこと…」
一瞬で完食した少女は何かを言いかけて謝り出す。
本当にかなり刷り込まれているようで少女の瞳は怯えきっていた。
「大丈夫だ。おかわりだろ?ここでそれを咎める人間なんていない。
流石に食べ過ぎられると困るけどな」
俺はそう言って出来るだけ笑いかける。
少女はそれを見て安心したのか大きく息を吐いていた。
そして、仕切りにお礼を言いつづけるのだった。
そうして、少女が俺の作った料理を満足するだけ食べるとようやく落ち着いたのか眠そうな表情をしながらも俺を見てくる。
そして、少女は口を開く。
「あの、なんで私に優しくしてくれるんですか?」
「うーん、難しいな。
でも、敢えて言うなら放って置けなかったからかな?」
俺がそう答えると不服そうに少女は顔を膨らませる。
「私が聞きたいのはそんなことではないです。
詳しいことはよく分かりませんけど…騎士様なんですよ…これは国に喧嘩を売ってると言うことなんですよ!」
どうやら、少女自体しっかりと知識を持ってるようだ。
まぁ、たしかにそうだよな。
放って置けないからって国に喧嘩を売る馬鹿なんて普通いないからな。
「全く子供が一々小難しいことを考えるな。
これは俺が勝手にやった俺の問題だ」
「それでも…って、子供って私はあなたと同じくらいだと思うのですけど…」
「うん?そうなのか年齢は?」
「えっと、13ですけど?」
「なら、俺の方が年上だな16だ」
俺がそう言うと少女は驚いたような表情をしていた。
まぁ、子供というのは言い過ぎだな。
高校生くらいの感覚からしたら中学生というのは子供同然なのだが、ある程度歳を食えば中学生も高校生も子供なんだろうな。
「うそ、どこからどう見ても三つも年上なんて…」
「俺はふつうのはずなんだけどな…」
少女の話を聞いてると俺が童顔って聞こえるのだが…ってここは異世界だしそう見られる可能性はゼロではないのか。
日本と比べて過酷である場所だから多少体格が良くなりやすいのだろう。
言うなれば順応だ。
そう聞くと親しみ深いな人種の違いは…。
とは言っても女性そのものは結構日本人好みが多いような気がするが気にしたら負けだ。
「って、話が逸れてるぞ」
「あ、そうでした。
あなたは国に喧嘩を売るということがどういうことか分かってないのですか?」
「うーん、分からんけど…俺の場合は喧嘩を買いに来たんだ。今更だよ」
「え?」
俺の言葉に驚いたのか少女は唖然とした表情になる。
「だから、お前は決めてみろ。
俺に着いて行くか、街まで連れて行くからそこからは一人で生きるか…」
「…」
「まぁ、そう答えを急ぐな。
そうだな、今は自己紹介でもしようか」
まぁ、こう言ってるけど俺自身着いて来てくれた方がこの先楽だ。
さらに言うなら実はもう既に少女に自己紹介してもらうまでもなく名前を知ってるのだ。
こういったことは形式的にやることだからな…。
「えっと、俺から言うぞ。
俺の名前はユウキ、ふつうにユウキとか適当に呼んでくれ」
「えっと、分かったユウキさん?私はヒサメと言います」
「そうか、ヒサメか。
とりあえず、今日は時間も経ったし少し離れたところで野営でもするか」
そう言って俺は木々の葉の合間に見える空を眺めるともう既に黒い空となっていた。
どうやら、結構時間が経っていたようだな。
まぁ、時間をかける価値もあるしいいか。
**ヒサメ
今日、不思議な人に出会った。
何もかも諦めてずっと馬車の中でジッとしていた私を救ってくれた男の子でした。
彼はユウキと名乗って私に餌付けとか言ってご飯を食べさせてくれくれた。
こちらの事情を一切聞かずに彼は私を助けてくれた。
しかし、今助かったいや、助けてもらった私が考えていることを知ったら彼を幻滅するだろう。
それでもこの出てしまった欲は止まらない。
私の両親を殺した騎士達の主人を私は許せない。
それこそ、殺したいほど憎い。
ひょっとしたら私はユウキさんについて行けばその目標は達成できるかもしれない。
ならば、私は彼に着いて行くのもありだろう。
しかし、私の中で一つの懸念があった。
彼の本当の目的がわからないと言うことだ。
なぜ、私を助けたのか…なんでこんな森の中にいるのか疑問は尽きない。
しかし、今の私に頼れる者はいないのもまた事実である。
結果的に私はユウキさんに頼るしか他ないのだった。
それで…その後は…
『その後は?』
何をするのだろうか?
私は一体何をしたいのだろうか?
親の仇を討ち、そして、その後は…
わからない。
でも、止まらない。
私はとにかく…復讐を果たすそれだけだ。
後も先も知ったことではない…。
**優希
やはりそうか…。
俺の能力には僅かにその人間の表層心理を読み取るものも実はあったりもする。
まぁ、ただの微量の表情の変化と鑑定系スキル、予測系などといったスキルを組み合わせたものでしかない。
『どうしますか?下手な復讐の後には何も生まれませんよ』
お前が気にしたのはそっちか。
俺としては別のことを気にしてるんだがな…。
そもそもがその認識は間違いだ。
復讐の後に何も生まないのではない。
そういった場合は結局分かっていなかったのだ。
復讐の仕方も復讐についても…。
良くも悪くも生きる意味となっていた人にとっては復讐が終わればその先なんてない。
しかし、もしも何か一歩を踏み出す復讐ならどうだ?
その先に何も無いのではない。
そこから己の道を作り出すことができることだってある。
『詭弁ですね』
あぁ、そうかもな。
実際正当性なんてほとんどありはしない。
『そうですね…しかし、それが事実となるなら素晴らしい物だと思います』
そんなものじゃないだろ。
でも、意味を失くしたくはない。
あいつの生きる意味を…道を俺の手でしっかりと導いて行かなくてはいけない。
そうじゃなくちゃこんなことは夢物語だろう。
だから、出来ればヒサメの復讐を少しは手伝いたいけどな…
それをするには…
『時間が足りませんね』
俺はため息を吐いて考える。
しかし、答えは出ずままに俺は明日のために深い深い眠りにつくのだった。
ここは本当に悩みました。
結果的にこうなった…