秩序の災厄 決着
雑音も切れ、極限的な集中力の中で俺は『相手』と殺し合いをしたいた。
直感だけを頼り俺は動く。
ブレスが飛んできて俺は弾き、『相手』の懐に入り込む。
しかし、懐に入り込んだ俺を追い出すように魔法が目の前に展開される。
すぐにそれを破壊して結晶で切り裂く。
その結果作った傷はお世辞にも大きいとは言えなかった。
もう一撃…と、振りかぶるが押しつぶさんと『相手』は降下してくる。
俺は危険だと考えてすぐに避けるが、一息つくよりも速く『相手』の尾が俺に迫ってくる。
ぎりぎりで防ぎ、俺はカウンター狙いで攻撃をするが簡単に避けられて『相手』の顎門が迫ってくる。
それを防ぐ術は俺にはなく、逃げるほかなかった。
俺の立て直しを待たずに『相手』は連続で攻撃してくる。
強く、鋭い一撃が俺を貫かんと迫り来る。
紙一重の回避の中で俺は考える。
負けない一手を…相手を殺す一手を…
俺の右手に握られた剣は『災厄結晶』…災厄の死体を圧縮して造られた武器。
しかし、その中の災厄の意思は健在であり、サムニウムがいないと今の俺では簡単に精神の汚染を受ける。
それでも、力は絶大なものであり純粋な攻撃力であれば俺の全力のステータスを軽く超えている。
また、常時結晶に溜め込まれた魔力で障壁が張られており、そう簡単にはやられはしない。
しかし、相手はそれをも超える化け物…。
その程度の力じゃ殺せない。
故に俺は…今持つ全力を持ってして『相手』を討つ。
俺は攻撃を躱しながら、結晶の持つ障壁機能に回されている魔力を吸い上げて行く。
そして、それは姿を現わす。
「目覚めよ!憤怒の悪魔!『サタン』」
その瞬間、暴力が顕化する。
辺りの力を制し…暴発させ、爆発させる。
『面白い!誠に面白いぞ!サイトウ ユウキ!』
『相手』はそれを見て、更に闘争心を露わにする。
ただ…殺すことだけを考え…勝つことに執着した…しかし、それじゃあ勝てない。
下策も邪道も正道も良策も全てを使っても対等…いや、それ以下だ。
『相手』はあまりにも呆気なく感じる程の暴力を起こす。
それは簡単に俺の暴力を押しつぶさんと押し寄せてくる。
負ける。
いや、まだ終わっていない。
俺の暴力はまだ、これだけではない。
「呼み返れ『リディアス』!」
まだ、俺には大罪を二つ以上顕化することはできない。
しかし、災厄なら違う。
剣から巨大な力が溢れ出て、その力は『リディアス』を顕現する。
そして、暴力を押し返そうと災厄と言う名の暴力を顕化させる。
『この程度で押し返せるものか!』
『相手』は更に巨大な暴力を放つ。
まだだ…
まだ、終わらない。
まだ、俺の…斎藤 優希の暴力は終わらない。
その瞬間、辺りが凍りつく。
一瞬で辺りを個体と化し、落としてく…。
落ちたものの影響で辺りに空気が消えていく。
そう、約-270度…要するにほぼ、全ての個体が止まった世界が生み出される。
自分でさえ、『精神燃焼』でギリギリのところで生きてられている。
下手をすればそれは時間の問題なのかもしれない。
しかし、そんな暴力の世界が追加されても『相手』は押し返して、破壊しようとする。
一つの暴力を押し返すのに三つの暴力を使っているがそれでも足りない。
それでも勝てない。
それでも、まだ俺の暴力は止まっていない。
終わっていない。
だから、更に乱す。
異常な空間を作り出す。
次の瞬間、太陽が顕化される。
摂氏約1500万度に近い炎の塊が辺りを支配する。
憤怒の暴力…
災厄の暴力…
静止した世界の暴力…
太陽の如き暴力…
それらは打ち消しあうことはなく…荒れ狂うように乱す。
しかし、それでも拮抗…お互いに現在の余力を削り合い、行っても俺には勝ち目がない。
そう、このままなら負ける…はずなのだ。
しかし、俺は負けることはない…
それでも、俺は負けない…
そう、俺の勝ちは確定した。
暴力の制御を俺はサムニウムに預ける。
「調和せよ」
その瞬間、全てが無に帰った。
無駄に変わった。
先ほどの暴力も調和され、その暴力が誰の身も害さない正常な状態…調和された完成された空間を作り上げた。
「顕現せよ…暴食の悪魔!『ベルゼブブ』」
先程の憤怒の顕化は消えていない…ましてや、使えるはずのない二つ目の大罪の顕化…。
『相手』は遅れた…コンマ一秒の時間すら俺に…斎藤 優希に与えてはならなかった。
その一瞬ですら、順応し、適応し、進化していく…。
そう、その二つ目を使う状態で強制的に順応させたのだ。
普段なら出来ない…しかし、極限的集中力のなかでなら、それを可能とした。
そして、その暴力は姿を現した。
『相手』は戸惑っている。
自分が暴力を解けば調和された状態が崩れて再び俺の暴力が襲いくる。
しかし、無理矢理にでも押し返せば何が起きるのか分からない。
そう、この場を支配しているのは俺だ。
故に『相手』はその状態のままで戦わなくてはならない。
しかし、その一瞬の遅れがそれすらも愚策に変える。
結晶に暴食の顕化が纏わりつく…それは調和された暴力のエネルギーを喰らい…そして、『相手』を喰らう刃と化す。
『相手』の誤算は俺が魔王であったことではない。
どんな環境であろうと…どんな暴力であろうと…
破壊も…凍土も…太陽も…災厄も…
全てを順応し、調和し、変える…
秩序の魔王であったこと…
それでいて…
順応者であったことだ。
破壊も…凍土も…太陽も…災厄も…
…選定でさえも。
全て、順応し、調和し…
「超越する」
その瞬間、『相手』…否、選定の龍…黒真龍…『グライズ』が喰われる…。
肉体ではない。
魔力的…精神的…魂的…そう言った類のもので喰らい尽くす。
破壊ではない…全部…一欠片も残さずに暴食が喰らう。
それと共に…グライズは機能が停止したロボットかのように動くことはなくなり…息をゆっくりと引き取った。
やがて、全ては霧散して…元の秩序としてエネルギーが拡散される。
終わった…のだ。
ただ、俺はそれを噛みしめる。
でも、足りない…足りる…筈がない。
サムニウムも肯定するように無言というものを返してきていた。
何も言わないのではない…無言…なのだ。
俺は顔を上げて地に足を着ける。
その瞬間、バランスが取れずに倒れこむ。
結晶を投げ出そうかと考えるが半ばでそれを否定して自分の心底にしまう。
「あー…夕焼けか…」
空を見ると半分が赤く燃えており、時間をかけてそれは何か認識する。
この世界に来てから俺自身…夕焼けを見る余裕もなく…不意に美しいと感じてしまった。
一瞬でも、これを見れて幸せだと思えた。
そう、こんな綺麗なものが世界にある。
だから、消させない…汚させない…例え…どれだけ辛い道のりでも…どれだけ、死にそうになってでも…俺は綺麗なものを守る。
気がつけば俺は気を失っていた。
死んだように俺は眠りにつくのだった…。
**
「さて、この戦いも無事…大団円を迎えたな…」
フードを深くかぶった男は半透明の男と秩序の勇者の一人の少女の前に出て呟く。
大団円…おそらく、これはそうなのだろう。
しかし、これは新たな問題を示唆していることでもある。
黒真龍の存在が選定者であること…それが何よりの問題なのだ。
少女はそう、頭を巡らせて冷や汗をかく。
領域上…勝てない。
しかし、半透明の男は違った。
それが当然と言わんばかりに聞き、次の言葉を待つだけだった。
「さて、んじゃ、今から宣伝でもしますか…最低でもあんたが知りたいことのな」
フードを深くかぶった男の目がしっかりと半透明の男を見据えているような気がした。
少女は知らない。
これはまだ始まりであることを…。
それを知るのはこの世でたった…三人…いや、四人だけである。
目の前のフードを被った男…世界を滅ぼさんとするもの…あの日、優希が出会った神。
そして…
優希がそれを知っている。
この世界の本物の大団円を…
そして、始まりであることを…。
そして、フードを深くかぶった男の声が辺りを木霊す。
「七つの罪を超え…七つの迷宮を超え…我が迷宮の元へ行き着き…」
気がつけば…少女も半透明の男は聞き入っていた。
「幾重もの試練を超え…絆、友情…苦悩…喜び…ありとあらゆる…繋がり…感情…を超えて我を消せる存在…それが現れた時、その者に我の叶えられる願いを聞き届けて叶えよう」
一拍の間が辺りを支配する。
そして、次の言葉が紡がれる。
「神殺しの名にかけて」
そう、始まりにしか過ぎなかった。
優希の目標…
それと直結する最後の一言…。
その目標は…優希と出会った神の半身である、世界を滅ぼさんとする全ての元凶…
そいつを殺して悲劇を終わらせる。
そう、優希の行おうとすることは『神を殺すこと』なのだ。
それを知る者は一部のもの…そして、彼の叶える願いには『神殺しの法を教える』ことも含まれているのだ。
だから、この男は届かないと知ってもその言葉を放った。
いずれ、関わる少女に向けて。
「さぁ、来るがいい。
我が手元まで…」
全てを見据えた男はそう言ってフードで見えない表情の中で笑う。
そう、世界は動き始めたのだ。
様々な思惑が交錯し、歯車のように合致しそして、加速し始める。
ノリとテンションで書いたけど後悔はしていない。
でも、もう少し語彙力が…いや、もっと語彙力があった方がいいと思いました。(作文気分)
次回予告
様々な思惑が加速する前、街の危機を救うために駆けつけるアナードの騎士団。
その前にあった勇者達との交流と旅立ちの話し…それを見送ることが出来ずに彼らに託したものとは?
次回『洸夜と団長の約束』